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サポートのたね競技スポーツの支援に役立つ研究のエッセンス

「サポートのたね」では、JISSで行っている研究の報告をわかりやすくコラムとして紹介します。
ここで蒔いた「たね」が、いつの日かスポーツの世界で花開くことを願っています。

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08 21

投稿者: host
2019/08/21 10:54

中村大輔、大西貴弘、髙橋英幸

高い気温の中で運動をすると、脳や内臓などの身体の奥の方の温度(深部体温)が上がりすぎてしまいさまざまな体調不良を起こすことがあります。深部体温は、みなさんが体温計をわきの下にはさんで測る表面的な温度よりも少し高く、また、一度高くなってしまうと下げるのが難しいという特徴があります。

今回取り上げる脳温は、文字通り脳の温度です。脳の温度を高いままにしておくと、目や耳から入った情報を整理して考えたり判断したりするというスポーツにおいて非常に重要な能力が低下してしまう可能性があります。そのような悪影響を防ぐために、私たちは、真夏に行われる東京2020大会に向けて、高温の環境下で脳の温度を低く保つ方法を検討しています。

これまで、深部体温を下げるための方法はいろいろなものが提案されてきました。アイススラリーを飲むというのがその一つです。アイススラリーとは、水と微小な氷がシャーベット状に混ざった氷飲料です(※アイススラリーについては『サポートのたね 第15回テニス競技におけるブレイク中のアイススラリー摂取は深部体温の上昇を抑制できるか?』もご参照下さい)。このアイススラリーを飲むと胃を中心に内臓の温度が下がることがわかっていますが、脳の温度にどのような影響があるかはわかっていません。

そこで私たちは、8名の男性にアイススラリーを飲ませて、脳の温度がどのように変わるかを調べました。脳の温度は、磁気共鳴画像(MRI)装置を用いたプロトン磁気共鳴分光法(1H MRS)という方法で調べました(図1)。今回は比較のために直腸(内臓の一部)の温度も測りました。


図1:前頭皮質を対象としたプロトン磁気共鳴分光法の測定画像


まず15分間、脳温と直腸温を測定した後、体重あたり7.5gの常温スポーツドリンク(37℃)とアイススラリー(-1℃)のいずれかを約5分かけて飲みました。その後、MRI装置内で30分寝転がって安静にし、その間の脳温と直腸温を測定しました。脳温の測定箇所は、認知機能に関連する前頭皮質としました。

脳温と直腸温は、スポーツドリンクよりもアイススラリーを飲んだ後の方が低下しました。(図2、図3参照)


図2:脳温の変化

 
図3:直腸温の変化 

この結果から、アイススラリーを摂取すると、冷やされた血液が脳に流れ込んだり、冷たさが皮膚や脳を伝わることにより、内臓だけでなく脳も冷やせることが明らかになりました。

論文の原文はこちら→Ice slurry ingestion reduces human brain temperature measured using non-invasive magnetic resonance spectroscopy

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