井村 久美子さん


 
IMURA Athlete Academy コーチ

 走幅跳6m86cm(日本記録保持者)。陸上界でも稀有である小学生から社会人までの全年代において日本一になった実績を持つ。100mハードル日本歴代3位の記録(13”02)も持ち、2008年北京オリンピックは走幅跳日本代表として出場。年齢別世界記録(12歳:5m97cm)も持つ。2008年結婚を機に拠点を三重県鈴鹿市に移して競技に取組む。2013年6月をもって26年間の競技生活に別れを告げる。小さい頃からやらされるのではなく、父親と二人三脚で陸上競技を楽しんできた経験を次の世代にも伝えたいという思いのもと、現在は指導を行う傍ら、講演や外部指導にも力を注ぐ。

1.コーチを始めたきっかけ

 2008年オリンピック(北京大会)出場後、結婚を機に引っ越しをしましたが、新天地でも競技活動を続けました。当時、地域の陸上クラブを訪れた際に、速く走る子ども達が怒られ、さらに子ども達の価値を下げるような言葉をかけられているにもかかわらず、無表情で黙々と取り組む姿を目の当たりにしました。私の父は、元陸上選手で、高校の体育教師を勤めており、父から「運動は楽しい」ということを教わりました。そのような環境で育ったため、その光景がとても衝撃でした。頑張っているのに認めてもらえない、楽しくない、少しでも意思を伝えると口答えと受け取られ、また怒られる…。そのような経験をした子ども達が将来大人になった時に、「運動は良くない!」と周りに伝えてしまわないだろうかと不安になりました。そこで、スポーツが大好きな主人と一緒に子ども達に「スポーツが楽しい」と感じてもらえる指導ができるコーチになろうと決断をしました。主人は働いていた会社を退職して、私は選手兼コーチとして会社を立ち上げ、指導を始めました。

2.コーチング哲学

 私は、自分の指導に満足するのではなく、その選手のためにできる事を常に考えています。女性はもともとコミュニケーションをとって、自分の安心する場所を見つけ、そこに依存しやすい傾向があると思います。その特性が指導にも現れる事が多々有ります。会話が多い、話の路線がずれて何をしようとしていたか忘れる、楽しさを求めてしまう、周りの雰囲気に合わせてしまう、取り組みが「何となく」になってしまう、頑張る事がかっこ悪い…など、女性の特性がでてしまう事が多いので、そうならない様、指導現場に入る前は良い緊張感を持って入ります。
 また、女性コーチは「選手のために」と思うあまり、その母性本能が選手の自立を妨げる事があります。選手が指導者に依存して、自分で考える習慣をなくしてしまう事が危惧されます。選手が悩んでいる時に、コーチが経験からこうした方が良いよと伝えるのではなく、時間をかけてでも自分でどうしたいのかを明確に言葉にさせるか、せめてこちらで答えをいくつか提案して自ら選択させて行動に導く事が、選手が責任を持って悩みに向き合い、克服していく第一歩になります。そのことが出来ずに指導者がどうにかしてくれるから大丈夫という気持ちで中途半端になり、決断力が育まれず、周りを言い訳にして、挙句の果てには自分を可哀そうな人だと思い込んで辞めていく選手もたくさんいます。だからこそ女性コーチは、自身の特性を理解して、態度や言葉掛け、距離感を常に意識し、自身の言動に対して「それは自己満足ではないか」と常に振り返るとともに、選手が悩んだ時こそ選手自らの力で解決できるように導き、少しの助けとなる役割として常に意識して欲しいと思います。

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