令和2年度 サポートプログラム

  1. ICTを活用した女性アスリート相談体制の充実
  2. 成長期における医・科学サポートの実施
  3. 妊娠期・産後期におけるトータルサポートの実施と事例伝達
  4. 子育て期における育児サポートの環境整備(再委託)
  5. 女性特有の課題に向けた知見の展開


ICTを活用した女性アスリート相談体制の充実

目的・背景

多くの機関・団体が女性アスリートに関連する研究・支援に取組んでおり、より効果的な支援を展開していくためには、各機関・団体間のネットワークならびに連携体制を強化する必要があり、今後より一層の女性アスリート専用相談窓口の拡充が求められています。メール相談によって上記の問題の解決を図る事、メールフォームをHP上に設置し、直接入力送信できるようにしたことで女性アスリート相談窓口機能の拡充に努めました。また、女性アスリートが抱える問題として、ホルモンの変動に伴うコンディションの変化、月経困難症、月経前症候群、出産前後の体重管理等が挙げられます。これらの対策として、基礎体温、体重、症状等を継続して記録することは、日々のコンディショニングを考える上で重要となります。しかし、これらを把握していないアスリートや、既に記録はしているが、メディカルスタッフによるフィードバックを受けていないアスリートは多い現状にあります。このような背景から平成25年度に構築した「LiLi女性アスリートサポートシステム(以下「LiLi」という)」を活用し、専門家の立場から適宜アスリートへ助言を行ってきました。令和2年度はこれまでのサポートデータを集約し、女性アスリートの健康問題を解決する情報を整理し有効活用の方策を検討します。

実施概要

ハイパフォーマンススポーツセンター(以下「HPSC」という)国立スポーツ科学センター(以下「JISS」という)では、相談メールの返信を担当看護士が対応しました。返信の内容については、スポーツメディカルセンター内の各部門担当者のコメントやJISSスポーツクリニック及び外部機関の紹介等でした。また、メール相談以外には、女性支援担当スタッフが個別で相談を受けて対応しました。
女性アスリート相談窓口URLは下記のとおりです。
https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/business/ourwork/tabid/1321/Default.aspx
女性アスリート相談窓口
 
 
 
 
 
 
 
 

本事業でサポートを実施したアスリートをLiLiに登録し、担当スタッフもサポートの一環としてLiLiを利用しました。現在、様々なコンディション管理ツールが存在することも踏まえ、より利便性を高めることで利用者の拡大を図りました。

得られた成果

複数の専門家による各アスリート個人へのきめの細かいアドバイスができました。HPSCに来訪できない時のフォローが可能になることによって、サポートもスムーズに行えました。スポーツメディカルセンターの既存事業へシステムの運用を移管するために、今後も継続してサポートを実施できる体制を整備しました。利用者拡大と利用者の利便性向上に向けて、HPSC既存のシステムであるAthletesPortと連携させることを検討し実装しました。具体的には、LiLiへデータ入力を行うとAthletesPortへ連携されるもので、ITグループと共に検討や開発を行いました。

課題と今後の方向性

選手、コーチやスタッフの利便性向上のために、今後は、AthletesPortやその他のコンディション管理システムとLiLiとの連携の実装をITグループで開発する予定です。女性特有の課題を抱えたアスリートにとって機能的に優れているというLiLiの最大の特徴を活かしつつ、他のデータも一括で管理できるなど利便性を向上させて、LiLi利用者の拡大と機能の充実を目指しています。


成長期における医・科学サポートプログラム

【各プログラムの概要】
 1.講習会の実施
 2.教育コンテンツの周知

1. 講習会の実施

目的・背景

成長期(9歳~18歳程度)における女性アスリート等を対象として、女性ジュニアアスリート及び保護者のための講習会、女性ジュニアアスリート指導者講習会を実施してきました。成長期に起こりやすい各種障害について理解を深め、効果的なサポートを実現するための学習の場を提供することや、成長期における心身の変化に対し、アスリート、保護者、指導者等が柔軟にかつ継続的に対応できるような知識を提供することで、より充実した競技生活へ繋げることを目的として実施しました。

実施概要

これまでの知見を集約した教育コンテンツ等を現場へ展開し、各団体における講習会実施をサポートしました。HPSCを利用する成長期女性アスリートを対象として、中央競技団体(以下「NF」という)からの要望により、成長期アスリートに必要な医・科学的知識を講習会の形で提供しました。主に婦人科講習会を実施し、講習会概要は下記の通りです。
時期 場所 対象 人数 講義プログラム
1 10月 東京 アスリート、指導者 7 婦人科
2 2月 東京 アスリート、指導者 6 婦人科
3 3月 オンライン アスリート、指導者 32 婦人科

得られた成果

講義内容の要望としてパフォーマンスを向上させるための月経対策、エネルギー不足(体組成の変化)と月経不順の関係について等が挙げられました。講義終了後は担当講師、選手、コーチを交えて質問や意見交換が活発に行われました。オンライン講習会では当日参加できない選手等にも閲覧できるようにしたことで、より多くの選手へ知識を広めることができました。また、男性コーチが同じ空間で講義を受ける場を創出できたことは、選手がコーチに相談できる雰囲気づくりに繋げることができたと考えています。

課題と今後の方向性

これまでに実施してきた講習会では、男性コーチと婦人科の講義を一緒に受けることは女性選手が抵抗を感じるのではという気遣いから、女性スタッフが対応するというケースが見受けられていました。今回は、婦人科の講義を男性コーチも一緒に聞くことで、婦人科の知識を共有し、選手のコンディショニング調整に活かすことにつながり、普段は触れづらかった月経やそれに伴う体調の変化について、選手がコーチに相談できる雰囲気を作ることができました。また、コーチと選手間で月経の話をすることは、コンディショニングを考える上で特別なことではないという共通認識を作るための、はじめの一歩としても有用となりました。今後も他団体で講習会を開催するにあたり、男性コーチの参加を促し、女性ジュニアアスリートと月経に関する知識を共に深め、共に考える場を提供していきたいです。

2. 教育コンテンツの周知

目的・背景

平成25年度に、競技団体等が開催する講習会や指導現場で活用することを目的としたテキスト「成長期女性アスリート指導者のためのハンドブック」(以下「ハンドブック」という)を婦人科、整形外科、栄養、心理及びトレーニング各分野の専門スタッフにより作成しました。HPSCで得られた知見やノウハウを更に広く一般に向け、効果的・効率的に普及するため、本プログラムで開催してきた講習会の様子をストリーミングにて配信してきました。競技団体や地域等が講習会を開催した際に参考となるよう構成し、教育コンテンツを広く一般に公開する等、展開を図っています。

実施概要

NFや地域等が実施する講習会開催の参考になるよう、そのストリーミング動画をパッケージ化した教育コンテンツの活用に努めました。また、令和元年度に引き続き、成長期の女性アスリート、保護者、指導者等が基礎的な情報について学ぶことができるよう、教育コンテンツを追加で配布しました。

得られた成果

■掲示用ポスター
ポスターのデザインを刷新し、NFや地域等の競技関係者に周知しました。タイトルを強調してインパクトを与える配色となりました。
■紹介動画の作成
また、講習会のストリーミング配信等の活用や、更に広く一般に周知するために、教育コンテンツの紹介動画を作成しました。バリアフリー映像として、日本語字幕と音声ガイドナレーションを付けて作成しました。1月末に開催された研修会においても、教育コンテンツを紹介できました。

課題と今後の方向性

教育コンテンツについて、これまで実施してきた講習会で、NFや地域等の指導者、関係者がそれぞれに見合った独自の講習会を開催し、学んだ知識の伝達を担ってもらう必要があると呼びかけてきました。成長期ジュニアアスリートに必要な知識を広く浸透させる普及方策が課題となっており、教育コンテンツから得られた知識を、各競技種目や各団体に合わせて、所属の選手及び保護者、指導者等に情報が伝達されるよう、今後もホームページやHPSCにおける場内掲示、冊子の設置を通じて発信していきます。


妊娠期・産後期におけるトータルサポートの実施と事例伝達

【各プログラムの概要】
 1.妊娠期・産後期トータルサポート
 2.地域連携ロールモデルプラン
 3.伝達講習会の実施

1.妊娠期・産後期トータルサポート

目的・背景

一般的に、出産後は出産前と比較すると体力が著しく低下するケースが多く、アスリートにおいてもそれは例外的ではありません。出産後の女性がトップアスリートとして国際大会で活躍できるレベルを目指すためには、一般のアスリート以上に競技に集中できる環境を整備する必要があります。妊娠期間と分娩による大きな身体変化に伴い、出産後の選手には腰痛や骨盤帯痛、恥骨部痛、尿失禁等が引き起こされる可能性があります。また、長期間練習及び身体鍛錬的トレーニングを実施していなかったことによる筋力低下も見受けられます。このような身体トラブルを抱えている中で、非妊時と同様の練習・身体鍛錬的トレーニングを行う事は早期競技復帰に役立つとは考えにくく、むしろ遅延させていきます。そのため、早期競技復帰を目指していく上で、まずは妊娠・出産による不定愁訴及び筋力低下を改善していく必要があります。

実施概要

【実施概要】
■個別サポート
出産後、競技に復帰し、国際大会を目指す女性アスリートのうち、NFから推薦のあった者を支援対象とし、トレーニング分野におけるサポートを中心に、栄養・心理サポートも実施しました。概要は以下の通りです。
1. 妊娠期におけるトレーニング・栄養・心理サポート:2名
2. 産後期におけるトレーニング・栄養・心理サポート:1名
産科主治医よりトレーニング開始の許可を得た後、評価・サポートを実施しました。医師によるメディカルチェックでは理学療法士やトレーニング指導員も同席し、担当医師と一緒に問題ないこと確認して評価・トレーニング指導を行いました。産後は、整形外科医による診察(骨盤部のMRIを撮像及びそのフィードバック)も実施しました。
<機能評価>
評価内容は、問診と触診・視診・超音波画像診断装置を用いた体幹深層筋の評価です。評価結果から得られた問題点と、どのように問題を改善させるか、そして適切と考えられる運動内容と負荷設定について随時トレーニング指導員と情報を共有しました。
<トレーニング>
トレーニングでは、妊娠期は「安全な出産のために、柔軟性と可動域の維持と向上、筋力維持」を、産後期は「練習及び身体鍛錬的トレーニング(強化を目的としたウエイトトレーニング)を実施できる身体をつくること」を目的としました。この目的を達成するために、診察及び身体機能評価の内容を加味し、トレーニングを実施しました。パラリンピック競技選手に対しては個々の身体特性や障がいの程度に応じたプログラムの実施、計画、評価が求められました。妊娠期のサポートを開始する選手に対しては、効果的な評価方法について科学部研究員とともに再度検討しました。妊娠期トレーニングを実施するにあたり、安全管理としてまずアスリートの産科主治医にトレーニング実施の許可をえました。その後産婦人科医によるトレーニング前後のチェックとして、経膣・経腹エコーで子宮頸管長や胎児心拍数を確認しました。
<心理>
サポートを希望する選手に対して、出産後の心理サポートを実施しました。産後、変化した身体との付き合い方、家族や競技団体を含めた環境調整、変化(身体・環境など)に応じた新しい取組の模索についての支援を行いました。妊娠前と現在の身体の違いや、経過の中での身体的変化、トレーニングを実施する上で工夫していること、今後目指していきたい身体やトレーニングがどのようなものか等について詳細に調査しました。そこでは、トレーニングや練習を行っていく上での育児状況やそこで生じる心理的葛藤についても確認しました。それと同時に、日本版エジンバラ産後うつ病自己評価票 (岡野ら,1996)、育児感情尺度(荒牧,2008)、心理的競技能力診断検査(徳永ら,1991)、風景構成法(中井,1970)等の心理検査も併せて実施し、客観的指標から心理的変容を明らかにしました。
<栄養>
妊娠期・授乳期・産後の競技復帰を目的とした栄養摂取についての知識を持っているアスリートはすくないのが現状です。妊娠期は胎児自身や胎盤、羊水、出産に備える母体の血液増加や組織量変化に伴い体組成の変化があり、アスリートにおいては妊娠期にトレーニング量が減少することによる体組成の変化も考慮する必要がります。また競技復帰に向けた体組成の変化と共に、育児・授乳をしながら食事を調整・管理していくことは難しいです。そこで、食事摂取状況調査・体組成測定・授乳状況・トレーニング状況・鉄栄養状態・骨密度の把握を1か月・3か月・6か月・1年の各段階で行いながら、産後の競技復帰にむけた食事管理の情報提供を行いました。
■サポート事例まとめ
これまでの妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムの支援対象者9名にインタビュー調査を実施しました。
■事例調査
出産を経験した女性アスリート(引退したアスリートを含む)が妊娠期、産前・産後期に実施していたトレーニング内容、身体の変化、必要性を感じたサポート内容等の情報を収集するためにインタビュー形式による聞き取り調査を1名に実施しました。長期間にわたり競技を継続している選手へ当時の育児環境・サポート、子供との関係についてインタビューを実施しました。

得られた成果

■個別サポート
今後既存サポートの枠組みの中で妊娠期・産後期アスリートを受け入れる体制を構築していけるよう、各分野既存サポート事業の中でサポートを実施しました。産後評価の結果や選手のニーズに合ったサポートの実施に向け、各分野が連携を取りながらプログラムを作成しました。また、今後に向け、妊娠期・産後期の評価・サポート方法の検討・まとめを行いました。
■サポート事例まとめ
サポート事例のまとめとして、これまで妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムの支援対象者9名にインタビュー調査を実施し、調査内容を冊子に掲載しました。妊娠期・産後期は個人差もあり、評価をした上でのサポート方法の検討が重要です。また、選手からもサポートを受けた感想や将来的に妊娠出産子育てと競技との両立を望むアスリートに向けて、コメントをいただきました。産後に継続して活躍している選手の事例を蓄積することで、現在活躍している選手にとってライフキャリアの選択肢を広げていただきたいと考えています。
■事例調査
調査内容は、妊娠期、産前・産後期の状況、実施していたトレーニング内容、身体の変化、当時の育児環境、サポート状況、子供との関係、必要性を感じたサポート内容、現在の状況についてです。本調査の内容も冊子に掲載しました。

課題と今後の方向性

本事業終了後は既存サポートの枠組みの中で妊娠期・産後期アスリートを受け入れる体制を構築していく流れにあり、各分野が連携できる体制整備が必要となります。定期的なミーティングにより、選手に分かりやすく簡潔に伝えられるような書面やデータによるフィードバック方法や他分野のスタッフとの情報共有や連携が求められます。国内・海外で産後のスポーツへの参加に関する情報収集と比較検討では、HPSCで行っているアプローチが適切かどうか、更に改善するにはどうしたらよいのか、事例を直接見る、聞く、ディスカッションの機会創出などの情報収集を継続して行い、それらの周知についても検討する必要があります。 パラリンピック競技選手に対する出産後のトレーニングサポート方法についても今後需要が高まると思われ、検討を継続していきます。サポートを受けてもトレーニングの成果を出す事が期待できない可能性もあるため、今後はオリンピック競技だけではなく、パラリンピックの競技団体とも連携を図っていくことが望まれます。

2.地域連携ロールモデルプラン

目的・背景

これまで11名の女性アスリートを支援対象として、妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムを実施してきました。支援する中で、妊娠、出産、育児から円滑な早期競技復帰には、産後評価、多分野連携、支援体制の整備(託児室、育児サポート)が重要であることが分かりました。産後競技復帰を目指し、本事業の支援を希望しているにも関わらず、地理的な関係からHPSCでの支援を受けることが難しい選手が存在し、本人と所属先より相談を受けたことから、令和元年度より地域連携ロールモデルプランを実施してきました。令和2年度は、HPSCと同じような体制を地方自治体、各競技団体、地域スポーツクラブ等で実施できるよう、妊娠期・産後期アスリートの評価サポートマニュアルを活用した伝達研修の内容について、地域連携ロールモデルプランを実施する団体に視聴を依頼しました。

実施概要

NFや地域の特性に合わせた妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムを実施しました。妊娠期・産後期アスリートの評価方法や支援体制等をパッケージ化し、他の組織で実施しました。対象選手の所属するNFの指導の下、勤務先、所属チーム、チームの所在地方自治体、地域の専門家(婦人科医、理学療法士、管理栄養士、スポーツメンタルトレーニング指導士等)が連携を図り、スポーツメディカルセンターの専門スタッフから伝達を行いました。伝達を受けた地域の専門家が、対象選手の活動拠点で競技復帰への支援を行い、モデルケースとしてその経過をモニタリングしました。地域連携ロールモデルプラン支援対象者は4名でした。

得られた成果

支援体制の持続可能性を鑑みつつ、遠隔者へのサポートとして伝達を実施することができました。本事業を地域に伝達するにあたり、対象選手やスタッフに希望や意向を聞き、スポーツメディカルセンターの専門スタッフより地域スタッフへ身体機能評価やトレーニング内容や実技の伝達を行いました。コーディネーターが主導で介入時期や方法を決めることが、個々の実態に応じた受け入れ体制の整備に繋がりました。地方在住の選手の環境整備ができていない例もありましたが、近郊の大学病院やJOC医学サポート委員の専門家と連携を図り、今後地域でのサポートが広がるよう伝達機会を創出することができました。

課題と今後の方向性

競技復帰までの経過で、所属チーム、NF、都道府県協会、都道府県体協、勤務先、地方自治体、大学、病院等と連携して、女性アスリートの個々に応じた支援体制の構築が求められます。妊娠期、出産後は所属チームの拠点と離れて過ごす選手もおり、HPSCのように各分野の専門家が同じ場所にいる訳ではないため、分野によっては専門家を探す事に苦慮しました。こうした場合は、統括する団体等に問い合わせることや、近隣の地域も視野に入れて探すべきであり、事例によっては事前に時期を決めて、地域のスタッフとスポーツメディカルセンターの専門スタッフで定期的な情報交換や連絡を取り合うことも必要です。令和元年度作成のマニュアルのみでは、産後の身体特性に合わせた個々のサポートについて伝えきれない情報も多くあるため、引き続き多くの地域・カテゴリーで妊娠期・産後期のサポートができる環境づくりが望まれます。また、現在は一律のパッケージとして地域へ展開しているが、今後は競技特性や個別性に合わせた伝達を行っていく必要もあり、特別な環境整備や技術習得を要しない評価方法を検証していくことが望まれます。

3.伝達講習会の実施

目的・背景

令和元年度より、妊娠期・産後期アスリートの評価方法や支援体制等をパッケージ化し、NFや地域の特性に合わせた妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムを実施してきました。対象選手やサポートスタッフの希望や意向を聞きながら、内容を共有し、実技も含めて直接伝達ができたが、評価内容の選定、評価技術の習得等が課題であることが分かりました。今後、所属チーム、NF、都道府県協会、都道府県体協、勤務先、地方自治体、大学病院等に広く周知をしていく必要があるため、妊娠期・産後期トレーニングサポートプログラムの関係者を対象に伝達講習会を実施しました。本講習会では評価サポートマニュアルの内容を詳細に配信し、課題点等のご意見をいただくことを目的としました。

実施概要

本講習会は1か月間のオンライン配信で実施しました。講習会の参加対象者は、①妊娠期・産後期におけるトータルサポートに携わるスタッフ(産婦人科医、整形外科医、理学療法士、トレーニング指導員、心理及び栄養スタッフ)、②地域連携ロールモデルプランに携わる支援スタッフ(産婦人科医、整形外科医、理学療法士、トレーニング指導員、心理及び栄養スタッフ、指導者等)、③女性アスリート支援プログラムに携わる関係者等としました。講習会の内容は、令和元年度に作成した「妊娠期・産後期アスリートの評価サポートマニュアル」をもとに、婦人科、機能評価、トレーニング、心理、栄養分野における評価・サポート内容、支援対象アスリートのトークセッションとし、動画閲覧後にアンケート調査を実施しました。

得られた成果

本講習会では、評価マニュアルを動画にまとめ、遠隔のスタッフ含め幅広く伝達することができました。サポート内容について、特に身体機能評価では評価項目が多いこと、エコーを使用する評価項目もあるが、必ずしも地域のサポート環境にエコーが使用できる状況ではないということを鑑みて、本講習会では、評価項目を選定し誰もが評価しやすい内容にまとめました。また、選手のトークセッションではサポートを経験したからこその意見や感想をいただき、今後のサポートにも繋がる内容が得られました。

課題と今後の方向性

妊娠、出産を機に競技の継続を諦めてしまうケースも多く、妊娠、出産を経て競技復帰をすることが如何に大変であることが分かります。また、競技レベルによってサポートを受けられないというケースもみられます。本講習会の動画を広く周知し、所属チームやNFのスタッフ等がサポート内容を少しでも知ることができれば、選手が競技を続けられる可能性にも繋がると考えています。また、競技レベルに関係なく本動画を閲覧できるように、本事業専用ページで配信してく準備をしていきます。今回は、本事業で行っている支援サポートの体制づくり、各専門分野のサポート内容が中心でしたが、今後は地域でのサポート体制の事例をまとめオンラインで配信することが必要であると考えています。


子育て期における育児サポートの環境整備(再委託)

目的・背景

育児サポートプログラムは、子育てを行いながらトップアスリートとして競技を継続できるよう、アスリートの競技環境を整備することを目的としています。これまで休日練習、大会、合宿での遠征等は、普段の保育園では対応できない場合が多く、また合宿会場や大会会場でも、託児室の設置といった施設環境が整っていないといった現状があり、このような課題解決へのアプローチとして、本事業では育児にかかる経費の一部を負担してきました。

実施概要

NFやスポーツ団体等が作成した実施計画書の内容により再委託するかを決定しました。競技団体が実態にあった育児サポートを企画することにより、競技団体の状況に合わせたサポートが可能になると共に、競技団体が主体となって選手及びコーチの育児サポートを実施する際の課題等を明確にすることが可能となりました。以上のことから、令和2年度の育児サポート再委託先は3団体でした。

得られた成果

練習場の育児環境整備など事業終了後も見据えて競技団体に再委託を実施したことで、プログラムの還元及び普及につなげました。四半期ごとに進捗を確認し、再委託先の成果報告は2月~3月に行いました。

課題と今後の方向性

引き続き「切れ目のない支援」となるよう、妊娠期、産後期、子育て期を包括的にサポートできるよう実施していきます。各競技団体、スポーツ団体、関係者等にノウハウを伝達しながら、「自立したサポート環境の整備」を通して、育児サポートの重要性及び有用性の認識を促して働きかけていきます。


女性特有の課題解決に向けた知見の展開

【各プログラムの概要】
 1.ネットワーク会議
 2.カンファレンスの実施
 3.ホームページ等による情報発信

1.ネットワーク会議

調査研究受託団体間の情報共有とネットワーク強化を目的に、ネットワーク会議をオンラインにて開催しました。平成25年度から令和2年度までの間に、スポーツ庁より女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究を受託した団体の主担当者又は副担当者等が23名参加し、各調査、研究の情報共有、研究成果の現場への還元方法や今後のネットワーク強化に向けた意見交換を行いました。

2.カンファレンスの実施

女性アスリートを取り巻く課題を研究者と参加者が共有すると共に、プロジェクトで得られた知見や方策を競技現場へ広く還元することを目的として、オンラインでカンファレンスを開催しました。3月8日は世界が女性について考えようという、国際連合が定めた「国際女性デー」とされており、今年度のテーマを「リーダーシップを発揮する女性たち:コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」と掲げています。そこで「コロナ禍、大学生アスリート、自立」をキーワードとして、今一度女性アスリートが抱える課題や求められている支援について考える機会を提供し、女性アスリートには自分自身の心身を見つめ直すきっかけとなり、競技関係者等にはそのようなアスリートの気づきを促進し、支援する機会を創出することにしました。大学時代は自立が求められ、心身共に不安定な時期を迎える場合もあります。一方、大学教員という研究者が身近に存在しており、4年間をかけて競技生活と学問を両立することで視野を広げ、スポーツ界や社会を俯瞰的に捉えて行動できる女性アスリートを育成できる時期でもあると考えています。

開催概要

■テーマ
 スポーツにおける「個」・「孤」からの気づき~新型コロナ禍をきっかけに~
■日時
令和3年3月8日(月)13時~16時
■場所
オンラインによる開催
■対象
アスリート、指導者、競技団体関係者、女性アスリートの育成・支援に関心のある者 388名
■内容
【基調講演】「個」「孤」と群
【カンファレンス1】「個」への気づきを促すアプローチ
【カンファレンス2】「孤」をつなぐ
【研究一覧(オンライン展示)】各団体の研究成果を特設ページで紹介し、資料のダウンロードや、各団体の
  担当者とメッセージのやり取りを行いました。
【情報交換会】Zoomのブレイクアウトルームを使用し研究者と参加者が直接交流する時間を設定しました。
■アンケート集計
83名から事後アンケートの回答を得て、86%から好評を得た。参加者は男性が3割で、年代も40代が
 一番多い結果となりました。参加区分は、指導者が一番多く、次いでスポーツ団体関係者となりました。
 ・指導者と競技者との間で交わされるコミュニケーションや指導方針における参考となった
 ・現場の声をもっと吸い上げる試みや研究者と現場をつなぐ機会を継続して設定してほしい
 ・コロナ禍の現場での実際などを含め、それぞれの取組を知ることができた
 ・座談会のような設定が聴きやすかった
 ・色々な競技の現場の声をお聞きしたい
 ・視聴者の質問などに答える機会が欲しかった
 ・オンラインでなければ会えない先生方とお話が出来て光栄だった
 ・ズームでのルームについて、操作や敷居が高く感じ、参加を躊躇ってしまった
 ・ウェブだったので、時間や場所をとらずに聞けたのが良かった
 ・平日の日中というスケジュールで、アーカイブを作成してくださり助かった 等

3.ホームページ等による情報発信

ポータルサイト(女性アスリートの育成・支援プロジェクト)の活用

「女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究」で得られた知見を広く一般に公開するため、平成30年度からHPSCホームページ内にポータルサイトを更新してきました。調査研究受託団体と調査結果が一覧となっており、調査研究で得られた情報を取りまとめて発信しています。また、令和元年度のネットワーク会議で課題として挙げられた「受託後、早い段階で他の調査研究受託者と情報共有したい」という申し出により、新型コロナウイルス感染拡大による自粛明けに、新規に採択された4団体に連絡を取り、研究テーマや受託機関等の情報をポータルサイトに掲載しました。お知らせ機能「NewsRoom」を付けて、講習会情報や女性アスリートに関する情報を集めました。

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