LiLi 女性アスリートサポートシステムの運用/活用による医学サポートプログラム

概要

JISSでは、平成25年度に構築した「LiLi 女性アスリートサポートシステム」(以下「LiLi」という。)を利用して、アスリートの月経周期による身体の変化等を把握し、専門家の立場からアドバイスを行っています。今年度は、特にコメントのやり取りを効率よく行うためのシステムの改修を行い、条件付きではありますが外部への利用許諾を含む、利用するアスリートや専門家の拡大を図ることを目的としました。

実施内容

これまで「LiLi」に登録したアスリートは123名で、現在、継続的にサポートを行っているアスリートは57名です。利用目的は下記「利用内容の例と人数」の通りです。
アスリートは自分のスマートフォンから、基礎体温、月経、体重、コンディション、コメント等を入力し、専門家は選手が登録した情報を確認して、適宜アドバイスを行っています。
※支援対象となるアスリート:JISSクリニック受診者のうち、月経等の問題又は悩みを抱えており、かつLiLiによるコンディション記録を希望するアスリート

利用内容の例と人数

利用内容 人数(延べ)
薬剤の副作用確認 20
無月経 12
月経不順 12
コンディション把握 10
挙児希望 2

得られた成果

アスリートの月経に関する情報を把握し、大会に合わせた月経周期調節(月経をずらす)等、適宜医学的なアドバイスを行いコンディショニング維持に貢献することができました。
また、薬物療法を開始したアスリートでは、治療開始後の副作用の有無やコンディションへの影響を早期に確認することができ、副作用による悪影響を回避することができました。特に、この薬物療法後の副作用の有無については、これまで受診時に確認する方法しかなく、既にコンディションへの影響が見られるアスリートもいましたが、LiLiを利用し早期に対応可能となったことは専門家にとっても大変有益でした。

今後の課題

現在は、メディカルチェックや婦人科外来受診時に必要と判断したアスリートのうち希望者をLiLiに登録しています。今後は、LiLiを利用する専門家や、整形外科や栄養面の項目についての利用者を拡大し、より包括的なアドバイスでアスリートの競技力向上へ貢献していく予定です。
また、条件付きのため限定的にならざるを得ないと考えます。利用許諾に関するお問い合わせは、右記のお問い合わせまでご連絡ください。
システムとしては、継続的な安定稼働のためにシステムの基盤となっているフレームワーク等の見直しが必要となってくると予想されます。

参考

平成25年度受託事業で作成した『成長期女性アスリート指導者のためのハンドブック』には月経やコンディショニングについても記載されています。参考としてご覧ください。


成長期における医・科学サポートプログラム

概要

個別サポートプログラムでは、女性ジュニアアスリート(9歳~18歳)のうち、オリンピック種目のNFから推薦があった11名に対して、支援部会をしたのち、運動器メディカルチェック、トレーニング、栄養、心理、各分野のサポートを総合的かつ継続的に実施しました。
講習会では、女性ジュニアアスリート及び保護者対象の講習会と、女性ジュニアアスリート指導者対象の講習会をそれぞれ開催しました。

【各プログラムの概要】
  1. 個別サポートプログラム
  2. 集団サポートプログラム
  3. 女性ジュニアアスリート及び保護者のための講習会
  4. 女性ジュニアアスリート指導者講習会

個別サポートプログラム

実施内容

支援対象者11名のうち辞退者を除く10名のアスリート、指導者、保護者に対し、現在の状況や希望する支援内容等のヒアリングを実施しました。

カテゴリー 競技系 人数
【全分野
運動器メディカルチェック/
トレーニング/心理/栄養
氷上系 3
格闘技系 1
3分野
運動器メディカルチェック/
トレーニング/栄養
氷上系 1
雪上系 1
2分野】
トレーニング/心理
格闘技系 1
2分野】
トレーニング/栄養
標的系 1
心理 格闘技系 1
栄養 標的系 1

(1)運動器メディカルチェック
支援対象者に対し、ヒアリング及び運動器メディカルチェックを実施しました。トレーニングに支障をきたすような運動器の問題はないか、トレーニングを行う上で注意すべきポイントは何かを確認した結果、トレーニングで解決できる問題が抽出できました。その問題について、整形外科医よりトレーニング指導員へ申し送りを行い、トレーニング計画に生かせるよう連携をとりました。

(2)トレーニング
支援対象者にヒアリングを行った上で、運動器メディカルチェックの内容を考慮したトレーニングプログラムを作成し、サポートを実施しました。ヒアリングでは主に、今後の試合スケジュール、普段の練習スケジュール・内容、トレーニング実施歴・内容、今シーズンの目標、及びトレーニングに対する要望を聞きました。また、運動器メディカルチェック、実施結果を担当の医師より引き継ぎを受けました。

(3)心理
心理サポート(心理カウンセリング、メンタルトレーニング)は面接の枠組み(決められた場所、時間、頻度)を大切にしながら、以下の手順で実施しました。
①ヒアリングの実施(サポートに対する要望の聴取と確認)
②インテーク面接(支援対象者が抱えている問題の把握とそれに対してどのようなサポートを行えばよいか見通しを立てるための最初の面接)
③心理アセスメント(心理的競技能力診断検査(DIPCA.3)、風景構成法(LMT))
④サポート担当者の決定(インテーク面接+心理アセスメントの情報をもとにスタッフ間で相談し、担当者を決定)
⑤サポートの実施と振り返り(サポート実施中は、振り返りとしてケース検討会を実施)

(4)栄養
このプログラムでの栄養サポートはアスリートにとって必要なエネルギー・栄養素を摂取できる知識、適正な食習慣を身につけることで競技力向上と正常な発育発達を促すことを目的としました。
また、アスリートだけではなく家庭生活での食事準備を担う保護者へのサポートを実施しました。個別栄養サポートの実施は以下の流れで行いました。(対象: 支援対象者・保護者)
①ヒアリング(現状把握、要望確認、問題点の抽出)
②1回目(食事調査・身体組成測定)
③2回目(栄養サポート計画立案、食事調査結果報告、アスリートのための栄養教育)
④3回目以降(身体組成測定、栄養カウンセリング、食事選択実習)

栄養サポートは他分野と連携を行いながら、支援対象者の食事摂取状況や栄養・食事に対する理解度に合わせてアドバイスし、食事選択実習も行いました。

得られた成果

平成28年度に女性ジュニアアスリートに対して実施した個別サポート実績から、各分野の主なサポートやテーマをまとめることができました。また、各分野のスタッフが連携を取りながら情報共有し、定期的に全体共有ミーティングを実施することで、全体で情報共有できる場を増やしました。各支援専門スタッフがどのようにアスリートに働きかけ、サポート全体がどのように動いているのか、またサポートする上で足りていない要素は何か等、より円滑に包括的にサポートできるように工夫することができました。

分野 個別サポートで実施した主な内容やテーマ
トレーニング 柔軟性、可動性及び基礎筋力アップに繋がるトレーニング内容
JISS以外でも継続しやすいトレーニングプログラムの作成
栄養 栄養に関する基礎知識、試合・遠征時の食事の摂り方について
食事選択実習の実施
調理担当者(保護者)への情報提供
身体組成の変化に伴うウェイトコントロール 等
心理 試合前の気持ちの準備や試合の振り返り
練習環境、人間関係(指導者、友人など)について
学校や進路
家族との関わり方 等

今後の課題

総合的に各分野の専門スタッフがチームとなって女性ジュニアアスリートのサポートを実施することで、課題により深く取組むことができましたが、モデルプログラムを構築し普及していくことが更に必要となっています。また遠方に居住しているアスリート等に対してJISSだけで対応していくことは難しいため、各NF等で本プログラムを更に発展させ活用できるよう周知していきたいと考えています。

集団サポートプログラム

実施内容

成長期女性アスリートが所属する団体に対し、トレーニング、栄養、心理、婦人科に関するサポートのモデルプログラムを構築し、将来的には各団体が主体的に効率的・効果的な女性アスリートのサポートが実施できるようプログラムを展開しました。ここでは球技系の1事例を紹介します。
競技団体に現状等の聞き取り調査を行い、対象となる団体がどのようなサポートを要望しているかを把握しました。ヒアリング後、サポートを実施する前段階として、アスリートとその保護者、スタッフ等を対象に「女性ジュニアアスリート及び保護者のための講習会」に講師を派遣しました。

(1)トレーニング
アスリートの「自立」をテーマに指導する団体に対して、日頃行っている身体づくりのトレーニングの意味を選手に理解させるための講義、団体スタッフと共に日頃行っている身体づくりのトレーニングを見直し、より効果的に実施するためのシステム構築を行いました。

(2)心理
団体の教育方針が「個のアプローチ、個の育成、個のベースアップ」であることから、自分について考え、感じ、知ることで自己理解を深め、主体的に物事に取組めるようになるために、アンケート及び心理検査の実施、全選手との個別面接、講義といったサポートを行いました。また、サポート実施期間中に起きた不慮の事故への対応として、PTSD予防に向けた緊急支援を行いました。

(3)栄養
週末帰省型の寮生活を送っているため、食事を自ら考えて選択する機会は少なく、課題として栄養に関する基礎知識を身につけることがあげられました。基礎知識の定着を目的に講義、グループワーク、知識チェックテストを定期的に実施し、実践できる知識の定着を目的にサポートを行いました。

得られた成果

(1)トレーニング
選手への講義を続けたことでトレーニングを行う意味を少しずつ理解し、正しいフォームで実施するなど意識的な面でトレーニングの取り組み方に変化がみられました。また、トレーニングシステム構築までは至りませんでしたが、スタッフとミーティングを重ねることでスタッフにトレーニングの重要性を理解してもらい、トレーニングを見直し課題解決へ向けてトレーニングシステム構築の準備段階まで進めることができました。

(2)心理
選手にアンケート調査や個別面接を実施することで、心理サポートのニーズ、精神的・身体的健康状態を把握することができました。現場スタッフに対しては、選手の心理的状況を把握する視点、環境調整の必要性、地域資源(学校や近隣病院など)との連携など、心理サポートに対する理解を深めることができました。また、不慮の事故に伴う緊急支援として、PTSD予防に向けた活動を迅速かつ臨機応変に選手及び現場スタッフに対し実施し、地域で心理サポートが受けられるようフォロー体制を整えました。成長期の選手に関わることは、多くの大人が連携し、選手をサポートしていく重要性があることを改めて確認することができました。

(3)栄養
食事選択実習、グループワーク及び帰省時の宿題を通して、知識だけでなく実践力を身につけることができました。選手の課題解決に向けて、個別対応への提案や寮食を活用した栄養教育の実施等について、現地スタッフと情報交換できました。チーム競技、週末帰省型全寮制、中学生女子対象、JISSから遠方という集団における課題の抽出、その対処法についての検討等、集団サポートプログラム構築の事例とすることができました。

(4)連携ミーティング
JISS内部スタッフによる連携ミーティングを月1~2回程度で実施しました。各サポートの振り返りや各分野スタッフからの意見交換を行い、各専門分野の情報だけでなく、選手やスタッフの現状を包括的に収集できました。選手を取り巻く周囲へのサポートについて、連携ミーティングで検討する機会が多くありました。先方からの要望を聞きつつ、本来提供すべきサポートの基軸から外れない程度での柔軟な対応に努めました。

今後の課題

年間を通して対象団体に関われる等、一定の長さで期間が確保されている必要がありました。選手、保護者、現場スタッフへの講義だけでなく、事前にサポート内容を詳細に決めることが課題となり、現場スタッフとの密なる連携が重要でした。今後は平成28年度に構築したモデルプログラムを他団体に適用し実施できるよう、集団サポートを広く周知していきたいと考えています。

女性ジュニアアスリート及び保護者のための講習会

実施内容

平成27年度と同様、婦人科、栄養、心理、トレーニングの各分野を、女性ジュニアアスリートとその保護者が共に実践を交えながら学ぶことにより、成長期におけるからだやこころの変化に家庭でも柔軟かつ継続的に対応できる知識を身につけ、充実した競技生活へつなげることを目的とし、中学生と高校生のアスリートとその保護者を対象にそれぞれ実施しました。

得られた成果

今回の講習会では、アスリート向けの講義に「先輩アスリートの話」という時間を設けました。これはJISS人材育成プログラムのメンバー(元女性アスリート)に協力してもらい、第一線で活躍していた先輩アスリートから直接話を聞く機会を設けることで、今後競技を続ける上で参考になると考え取り入れたものです。参加者は、「競技や日常生活について」それぞれ聞きたいことを先輩アスリートに質問して、事後アンケートでは「これから先どうすればいいのか参考になった」「貴重な話が聞けた」等、これからの競技生活を踏まえた感想があり、高評価を得られました。
また、今回の講習会を撮影・編集をし、ホームページ上でストリーミング配信を実施しました。IDやパスワード等を設定せず、また携帯電話やタブレット対応可能にし、手軽に誰でも見られるようにしました。ストリーミング配信をすることで、講習会に出席できなかった選手・保護者へ知識の普及ができました。

ストリーミング 中学生向け 高校生向け

今後の課題

今後はストリーミング配信をもっと広く周知し、多くの方に知見を提供していくと同時に、競技団体や各地方団体等に対して、ストリーミングを参考に女性ジュニアアスリートや保護者に対してのサポートや講習会を独自で実施するように呼びかけていくことが必要だと考えています。

女性ジュニアアスリート指導者講習会

実施内容

JISSでは成長期の医・科学的課題の解決に向け、成長期に起こりやすい各種障害についての理解を深めると共に、障害防止の一助とし、より効果的なサポート活動の実現を目的として、女性ジュニアアスリート指導者講習会を開催しています。平成28年度は、これまでの基礎編で得た知識を、実際に現場で役立てることができるよう、女性ジュニアアスリートを指導する上で発生する課題や疑問等の事例や症例を提示し解決策を探り、指導者の理解がより深まるよう実施しました。

得られた成果

事後アンケートでは「事例が多く分かりやすかった、現場へ伝えたい、今後の指導の参考にする、具体的な事例が豊富で、イメージが湧きやすく、より理解が深まった」とたくさんの参加者から好評を得ることができました。女性ジュニアアスリートが抱える諸問題に対して具体例を提示することで、参加された指導者に役立つ知識の普及ができました。またJISSの知見を得るための手段として、ハンドブックのダウンロードやストリーミング配信が概ね有効に機能していることが、事後アンケートで確認できました。参加した指導者の方々が、得られた知識を競技現場で活用する、指導者同士で情報を共有するなど、啓発及び知識の普及が期待できます。

今後の課題

これまでもJISS講習会で学んだ知識をもとに、NFや各団体から参加された指導者がそれぞれに見合った独自の講習会を開催し、伝達を担ってもらう必要があると呼びかけてきました。事後アンケートでは「地方でこのような正しい知識の普及をすすめたい」「現場に持ち帰ってできることをまずやってみたい」という反面、一部の関係者の努力だけでは現場に定着することが困難であるといった意見もアンケートに記載されていました。今後広く指導者へ知識を浸透させるという目的を着実に達成するためには、JISSスタッフが地方へ赴き、実際に各講義をモデルプログラムとして開催する等、普及方策について引き続き検討する必要があると考えています。

妊娠期、産前・産後期、子育て期におけるトレーニングプログラム

【各プログラムの概要】

  1. 事例調査
  2. 妊娠期等トレーニングサポートプログラム
  3. 子育て期におけるトレーニングサポートプログラム(育児サポート)

1.事例調査

実施内容

国内外の出産を経験した女性アスリート(引退したアスリートを含む)が妊娠中及び出産後に実施していたトレーニング内容や身体変化等の情報を収集するためにインタビュー形式による聞き取り調査を実施しました。

調査内容

・妊娠前のトレーニング実施状況
・妊娠中・出産後の身体状況、トレーニング実施状況
・出産時の状況
・出産後の活動状況
・その他(所感等)

結果

アスリート3名(国内2名、国外1名)にご協力いただきました。 調査した内容は、平成26年度から平成28年度までの調査結果をまとめた事例調査集に記載しました。

得られた成果

出産前及び出産後にオリンピック出場を果たし、成果を残したトップアスリートの体験談を伺うことができました。また、得られた調査内容をまとめた事例調査集を作成することができました。

今後の課題

国内外を含めてさらなる事例を収集していくためにはアンケート調査が必要であり、これまでの調査内容をもとにJISSで作成したアンケート用紙の質問量、内容等について検討、改善していきます。

2.妊娠期等トレーニングサポートプログラム

実施内容

出産後、競技に復帰し、国際大会を目指す女性アスリートのうち、NFから推薦のあった選手に対してトレーニング及び栄養分野のサポートを実施しました。支援対象者は4名であり、概要は以下の通りです。

1.妊娠期におけるトレーニング・栄養サポート 夏季:2名
2.産後期におけるトレーニングサポート 夏季:2名

(1) 妊娠期におけるトレーニング・栄養サポート
妊娠中のトレーニングに関して、JISSが気を付けたこと、実施したことを下記に示しました。

■トレーニングの目的
「母子ともに健康な出産をすること」 母子ともに健康な出産をすることで、ディトレーニング期間を短縮することが、練習・トレーニングの早期再開に繋がると考えます。そのために、「妊娠期特有の身体的課題改善」「筋機能低下の抑止」を目的として、妊娠中もトレーニングを継続しました。

■安全管理
I. 担当産科医のトレーニング実施許可
妊娠経過に異常が認められず、トレーニング実施が可能の場合、産科主治医のトレーニング許可書・診断書を発行してもらいます。
II. トレーニング前後の内診
産婦人科医がいる場合に限りトレーニング前後で子宮頸管長や胎児心拍数等を確認し、母胎及び胎児の状態を把握しました。内診の結果、異常が認められた場合はトレーニングを中断し、産科主治医への受診を促しました。その後、再度トレーニング実施の許可をもらうようにしました。

■筋力トレーニング
骨盤底筋群の収縮練習 産婦人科医と連携を取りながら妊娠週数、妊娠経過を確認しながら実施しました。

  • 妊娠前に実施していたトレーニング内容を加味したプログラム
    筋機能低下を抑止するためにも、妊娠前に実施していたトレーニングを加味して妊娠中のトレーニングに落とし込むことは可能です。しかし、妊娠前に問題なく実施していたエクササイズでも、妊娠経過によって実施可能・不可能なものがでてきるため、産科医と相談しました。
    例)スクワット、デッドリフト、プレス等のベーシックな多関節エクササイズ
  • 妊娠中に起こると考えられる身体変化に対応したエクササイズの実施
    妊娠経過に伴い、肩こりや腰痛、骨盤底筋群機能低下等の不定愁訴が起こる 可能性があります。不定愁訴を予防すると考えられるエクササイズを実施しました。
    例)骨盤底筋群の収縮練習、脊柱の可動性を出すようなエクササイズ
  • 怪我への対応
    日常生活や競技で特別支障はないが、長期間完治していない障害に対して可動域及び筋機能改善のアプローチをしました。

<注意>
過度な負荷は子宮収縮誘発による流産・早産と、子宮血流量減少による胎児低酸素状態が問題になるため、今まで実施してきたトレーニング強度を超えないようにしました。

<事案>
トレーニング後のJISS産科医による内診で、胎盤と内子宮口間距離が非常に短く、低置胎盤の恐れがあるとの診断が下りました。その後再度主治医より「胎盤と内子宮口間距離は十分離れているためトレーニング実施可能」という診断書をもらったため、トレーニングを再開しました。それ以降のサポートでは胎盤と内子宮口間の距離は多少短くなるものの、初回の低置胎盤を疑うほどの距離ではなく、通常の子宮収縮範囲内と考えられます。

■持久的トレーニング
心拍数150bpmを超えなければ、運動様式は本人の自由としました。

■栄養サポートの実施
妊娠期にウエイトコントロールなどに対応した栄養・食事サポートを実施しました。

(2) 産後期におけるトレーニングサポート
産後9ヶ月の選手をサポートしたケースを下記に示しました。

■トレーニングの目的
「競技大会への復帰及び強化指定再獲得」 選手の希望を踏まえたうえで、競技大会出場に必要な体力及び筋力の増加を目的としてサポートを実施しました。

■筋力トレーニング
スクワット、デッドリフト、ベンチプレス等のベーシックな多関節エクササイズを中心に、全身バランスよく鍛えるプログラムを実施しました。

得られた成果

五輪入賞した選手が東京五輪出場・メダル獲得に向けて、妊娠中のトレーニングサポートを実施したことは、他選手にとって非常に貴重な事例となりました。また、妊娠中のトレーニングによって起こる緊急事態に対して、産婦人科医と連携が非常に大切であることを再認識することができました。

今後の課題

選手、選手の産科主治医、そしてJISS産婦人科医及びトレーニング指導員が密に連携をとれるよう検討していく必要があります。また、身体的な変化が著しく個人差が大きい妊娠中のトレーニングの評価方法をさらに検討していきます。

3.子育て期におけるトレーニングサポートプログラム(育児サポート)

目的・背景

育児サポートプログラムは、子育てを行いながらトップアスリートとして競技を継続できるよう、選手の競技環境を整備することを目的としています。
休日練習、大会、合宿での遠征等は、普段の保育園では対応できない場合が多く、また合宿会場や大会会場でも、託児室の設置といった施設環境が整っていないといった現状があることから、このような課題解決へのアプローチとして、JISSでは育児サポートにおいて育児にかかる経費の一部を負担することとしました。

実施概要

(1)育児サポート支援対象者
平成28年度は支援対象者を7名とし、うち5名に対し育児サポートを実施しました。支援対象者は以下のとおりです。
また、平成28年度よりパラリンピック競技種目の選手への育児サポートも開始しました。

支援対象者 競技種目 子どもの年齢
7名(2名) 夏季:5名(2名)
冬季:2名           
6ヶ月~6歳
※( )内の数字はパラリンピック競技種目の選手数

(2)育児サポート対象経費

■育児サポート協力者(以下「協力者」という。)に育児サポートを依頼する。
■一時保育やシッター派遣サービスといった民間又は公的なサービスを利用する。

上記のとおり、育児サポートの形態を大きく2つに分類し、育児サポート対象となる経費を整理しています。 また、経費の対象を定める際は、長期遠征、休日練習及び競技大会といった、普段の保育園等では対応できないような、アスリート特有の状況下で発生する経費であることを基準とし、普段通園する保育園の経費や、選手の休暇時に協力者に育児サポートを依頼する場合の謝金等は対象外としています。 ※詳しくは、以下の資料をご覧ください。

育児サポートの実施手順について PDF(420KB)


3)育児サポート事例
平成28年度実施した育児サポートの実績については以下の表のとおりです。海外に子どもと協力者が帯同したケースは1件もありませんでした。
なお、協力者については支援対象者の推薦をもとに決定し、平成28年度は協力者11名のうち3名が支援対象者の親族、8名が支援対象者の知人でした。


形態 大会等会場 協力者・利用
サービス
育児サポート場所 支援対象者数 件数
協力者に依頼 国内 親戚・知人 大会会場、支援対象者宿泊先等 3名 13件
知人 協力者宅 2名 6件
親戚・知人 支援対象者宅 1名 3件
国外 知人 協力者宅 1名 2件
親戚・知人 支援対象者宅 1名 3件
民間や公的なサービスを利用 国内 シッター派遣サービス 支援対象者宿泊先 1名 1件
国外 保育園の一時保育 保育園 1名 3件

育児サポート総件数:31件

※「支援対象者数」はサポート実績のあった支援対象者5名のうち、該当する形態のサポートを実施した人数を示す。
※「件数」はサポートの延べ日数ではなく、支援対象者からの申請件数をもとにカウント
(例:全日本選手権中の5日間、育児サポートを実施した場合は1件の活動としてカウント)

得られた成果

(1)支援対象者からの評価
支援対象者のアンケート結果から、「合宿や大会に参加しやすく競技に専念できるようになった」、「子守をお願いしやすくなった」、「両親の負担が減った」といった評価を受けています。

(2)主要な大会及び強化合宿での育児サポート利用
各支援対象者は主要な大会及び長期の強化合宿時のほとんどで、本育児サポートを利用していました。支援対象者に育児サポートの利用が根付いてきていると考えられます。 

今後の課題

育児サポートの継続性を考えると、NFや所属チーム等の様々な団体で育児サポートを展開してもらうことが必要になってくると考え、引き続き検討する必要があります。


女性アスリートのネットワーク支援プログラム(Mama Athletes Network)

概要

女性アスリートの妊娠・出産・子育てと競技生活との両立について理解を深め情報を共有するために、平成26年度より、ママアスリートの情報共有をサポートするためのネットワーク「Mama Athletes Network」(以下「MAN」という。)を立ち上げ、活動を開始しました。

実施内容

平成28年度はリオデジャネイロオリンピック出場のママアスリートの話を通じて、自身の「ライフプラン」を考えることを目的としたワークショップの開催や、現役ママアスリートに妊娠中のトレーニングの様子や産後から競技復帰まで様子やライフプラン等、直接お話を伺いホームページに掲載しました。

Mama Athletes Network(MAN)の活動報告は下記から

今後の課題

ワークショップの中で、妊娠中のトレーニングに関する知識や情報が少ないことや、妊娠・出産することで体力が落ちるといった間違ったイメージを多くの人が持っているため、正しい知識を持つためのサポートが必要であるという課題が改めて浮き彫りになりました。今後もアスリートの産前産後についての事例調査と情報発信をし続ける必要性がわかりました。平成29年度以降も調査した事例をまとめ、情報を必要としている人達に発信していきたいと考えています。


女性アスリート専用電話相談窓口の充実

概要

平成24年7月からJISSメディカルセンタースポーツクリニック内に設置されている女性アスリート専用電話相談窓口(以下「相談窓口」という。)では、JOC強化指定選手及びJOC加盟強化対象選手に対し、必要に応じてJISSで受けられる診療や相談等のサポートを行っています。
また、相談窓口では対応できない対象者には、JISS外部機関を案内しています。そこで、女性アスリート関連事業を行っている外部組織とネットワークを構築するために、カンファレンスを開催しました。

実施内容

研究成果の還元先及びプログラムの実施現場を「支援現場」と「強化現場」の大きく二つに分け、さらに関連するテーマ毎に研究・事業をまとめた、シンポジウム形式としました。
また、各シンポジウムでは、各研究・事業の「成果」、「課題」、「成果の活用に関する構想」、以上3つの視点から発表、報告してもらいました。

スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」カンファレンス~競技現場への還元~
  • 開催日:平成29年3月9日(木)
  • 場所:NTC大研修室
  • 参加者:計63名
①スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」に関係する研究担当者、共同研究者、事業担当者等[32名]
②各中央競技団体関係者(チームドクター、医・科学委員、強化スタッフ等)[26名]
③ワールド・クラス・パスウェイ・ネットワーク加盟団体関係者[5名]

得られた成果

平成25年度より「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」を受託し、実施してきたほとんどの研究・事業の代表者または担当者に出席していただくことができ、各研究・事業についての情報の共有及び集約の場としてカンファレンスが機能しました。また、抄録集として各研究概要を取りまとめました。

今後の課題

本カンファレンスを通じ、平成29年度以降どのような形で連携体制(例:コンソーシアム、研究会、学会等)を具現化していくか、また、各研究・事業の成果の還元方法等について各研究機関と共に検討する必要があると考えています。

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