第22回 |
第2回JISS国際スポーツ科学会議2004 |
2004年12月10・ 11日に「第2回JISS国際スポーツ科学会議2004」が開催された。これは、国立スポーツ科学センター(JISS)でおこなわれる会議のなかでも最大 規模の会議である。内容は、JISSでのサポート活動、研究活動についての科学的な報告、海外からの招待講演者による講演などを含んだものである。
会議のオープニングは、日本のトレーニング論研究の第一人者であ る、筑波大学村木征人教授による、選手、コーチとしての経験もふまえた「コーチングと科学的サポート」という基調講演であった。内容は、コーチングの詳細 にわたるやや難解なものであったが、村木教授の話された内容が、その後の講演の中に実践例としてピタリとはまるように出てきたことは、筆者にとっては驚く べきことであった。
会議のテーマが「アテネからトリノ、北京へ」と書かれているよう に、今回の大きなトピックスの1つは、アテネ、トリノオリンピックでのサポート活動の紹介と報告である。水泳、レスリング、スキー等でのサポートについ て、現場のコーチと研究者が対になって、「どのようなサポートを依頼したか」そして「その依頼に対して、どのように科学的に対応して、何をフィードバック したか」「その結果はどうであったか」というようなスタイルで発表がおこなわれた。特に、水泳メダリストの北島康介選手、中村礼子選手、そのコーチである 平井伯昌氏とJISSの研究員スタッフが一同に会しての特別シンポジウム「北島選手を中心とした競泳サポート」は、そのなかでもハイライトといえる講演で あった。
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ここでは、北島選手のアテネオリンピックの競技会に至るまでの、 コーチからの依頼と研究者の対応ということに焦点をしぼった論議がおこなわれ、平井コーチ、北島選手からは、メディアなどではあまりうかがい知れない興味 深い話が多く提供された。また、サポートスタッフからも、どのようなことをフィードバックしたのかなど、科学的にも興味深い話が多かった。
最後に、平井コーチは研究員の任期制とサポートの継続性を課題として提起した。司会の浅見センター長は、人の継続性も課題ではあるが、現実的には仕組みやノウハウの継続を図ってよりよいサポートを展開していきたいとしめくくった。
海外からの招待講演では、ドイツの応用スポーツ研究所のハート ムート・ザンドナー氏が、当時の東独でのサポート活動についての話題を提供した。東独は、1970年代に驚異的な数のメダルを獲得していた国として誰でも 知っているが、そこで、実際にどのような活動がなされていたかは、ほとんど知られていない。
ザンドナー氏は、その当時の現場を知る数少ない研究者であり、国という組織としてのサポートの実態をいろいろな側面から明らかにしてくれた。話をきいて みると、それほど特別なことをしたわけではなく、こうやれば良いと思えることを確実にやっていたという感想を筆者はもったが、それを実際にやるのが難しい ところなのだろう。ザンドナー氏の提供してくれた抄録資料は、60ページにもおよぶ大部なもので、今までほとんど世に出ていない貴重な内容である。
余談であるが、この会議の終わった後、ぜひ日本の相撲の稽古の現場を見たいというリクエストをされ、日曜日に、数名の研究員とともに玉ノ井部屋まで出かけた時は、実に真剣に相撲の稽古をみていた。
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もう一名の招待講演は、ロシアのシンクロナイズドスイミング協会 の委員長である、イゴール・カルタショフ氏であった。ロシアは、現在シンクロ界で日本とともにトップを争っている国であるが、そのロシアのシンクロが本格 的にトレーニングを始めた20年前のとき以来、ずっとカルタショフ氏はサポート活動を続けてきている。その活動をさまざまな角度から紹介してくれたのが今 回の講演であった。
朴訥な感じの英語から話される内容は、実に合理的なトレーニング や競技に対する取り組み方であり、多くの示唆に富んだものであった。また、カルタショフ氏は、独身なのであるが、まさにシンクロファミリーというように家 族であるという気持ちで取り組んでいるというところも、氏の人柄のあらわれたところであった。
今回の会議は、内容的にも二日間では入りきらない程のものであった。その全てをここで語ることはできないので、会議の内容の詳細については、JISSのホームページをご覧になっていただきたい。
また、いくつかの新しい試みがなされた会議でもあった。会議場では無線LANが利用でき、会議映像はリアルタイムでインターネット上に公開された。
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映像とプレゼン資料を同時に閲覧できるシステムのスナップショット |
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さらに、会議の模様は、ネット上に資料として保存され、映像とプ レゼンテーションを同時に閲覧できるようなシステムで、いつでも見られるようになっている(2月中に公開予定)。このような仕組みがあると、貴重な会議の 内容を誰でも見ることができるので、会議の有効活用という意味からも取り組む価値のあることであろう。これも、前述のJISSのwebからアクセスできる ので、興味ある方はぜひご覧いただければと思う。
なお、同サイトでは会議の全抄録集もPDFフォーマットでダウンロードできる。もちろん内容あってのITであるが、便利なツールは積極的に活用してJISSの活動を広めることに利用していきたいと思っている。
※本文は「国立競技場」平成17年3月号に掲載されたものを転載しました。
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