スポーツと二人三脚

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第47回 ある年配の方との会話から 2009年7月17日


笠原 一也

 

  国立スポーツ科学センター センター長 笠原 一也
  かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長  
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.

 少し前になるが、喫茶店でおしゃれな服装をした後期高齢者と思わ れる年配の方から声をかけられた。同年代と見られたわけでもないだろうが、私が携帯電話を操作しているのを見て、「年配なのに、携帯電話を操作されるのに 感心しましたよ」と。話をしたかったらしくそれをきっかけに会話が続いた。
 奥さんを十数年前に亡くし、今は1人での生活であること。建築業一筋に打ち込み収益も上がり、世界を相手に思いっきり仕事も遊びもしたこと。世界の有名 なゴルフ場で数多くプレイしたことや世界の都市の話など、いくつか共通する話題もあったので会話が弾んだのである。

 ただ、今は何もすることが無く、どうやって時間を過ごしてよいのか分からないとの話であった。80歳近くになると仕事仲間の多くは他界したりしていて付き合う友達がおらず、今は喫茶店めぐりで時間をつぶしているとのこと。
 以前にゴルフをしていたのなら、ゴルフや旅行をしたらいかがかと言うと、親しい友達がいないので1人では何もする気になれないとの返事である。

 仕事一筋に頑張ってきて、仕事を卒業してみると何をして良いのか分からなくなる男性諸氏が多いとの話は良く聞いていたが、その会話から改めて色々と考え させられてしまった。私自身はスポーツに長く携わってきた関係から、周囲にはスポーツを通じ古い時代から今日までを通して多くの友人、知人がいる。また、 一人での行動も苦にならない。

 仕事一筋に打ち込んでしまうと、何らかの趣味を持つ時間が少ないのかもしれない。1995年に「英国スポーツ再建策」を打ち出したメイジャー首相の言葉 に、「生活の中で実質的なものと同様に大切なことは、芸術、余暇及びスポーツの世界であり日常生活を豊かにしてくれるものである。そしてスポーツは、ス ポーツを楽しむ世界中の数限りない多くの人々の生活の価値を高めるものである。」とある。

 今、わが国は世界に類を見ない超高齢社会を迎えているが、明るく活力に充ちた生活を送るためにも、また心身ともに健康で体力を維持するためにも「スポー ツの生活化」が求められるのではないだろうか。そのためには、いつでもどこでも、いつまでもスポーツに親しむことが出来るスポーツ環境が整えられることが 重要なのではないだろうか、と思う。

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