第38回 |
水着騒動について一言 |
2008年8月1日 |
笠原 一也
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かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.
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北京オリンピックが目前となった。あの大騒ぎをした水着騒動は一件落着したのだろうか。北京ではどのような結果が出るのか非常に気になってしまう。日本のみならず、世界の水泳・競泳界にとって「これからが大変なのでは?」と思ってしまう。
それにしても、スピード社製のレーザー・レーサーは凄かった。東京辰巳国際水泳場で行われたオリンピック選手壮行会、ジャパンオープンは、オリンピック代表選手も国内メーカーのみならず他の水着も自由に選択できる競技会となったのであった。
私も、水泳関係者の一人としてプールサイドで結果を見守った。その目の前で松田選手、入江選手、中村選手たちが次々と日本記録を塗り替えていく。それもス ピード社製の水着を着てである。締めくくりは、北島選手の世界新記録。泳いだ本人たちも驚いており、17の新記録の内、16はスピード社製の水着を着た選 手によるものだった。この競技にエントリーしてなかったオリンピック代表選手の「こんな結果が出るのなら、自分もレーザー・レーサーで泳いでみたかっ た。」という言葉が印象的だった。
そのスピード社製の水着は、体の凹凸をなくすため胸や尻の部分にポリウレタンのフイルム貼り付けて抵抗を少なくし、浮力もあるという。事実、オリンピッ ク代表選手たちが私の目の前で、いつもだとゴール10m位からスピードが落ちるのに、スピードを維持したままゴールに飛び込んでいく。新記録の誕生であ る。アメリカの代表選考会である全米水泳選手権でも世界記録が続出した。水着が記録に影響するなんて少しも思っていなかった我々のような古い水泳人にとっ ては、水着でこれほど記録が変わるなんて不思議でならない。
しかし、スピード社製の水着の発想は、自動車で言えばF1レース用の車を用意するように、競泳専用の水着を開発したことにある。当然、長時間の使用には 耐えられないことから、練習には不向きということになるであろう。そして、より水着の特徴を効果あるものにするためには、フォームも変わるだろうし、練習 内容も変わることになるのではと思う。
用品用具の開発の影響を一番受けないのが水泳だと思っていたのに、このような結果となると改めて考えさせられてしまう。
スポーツ界における器具機材、用品用具の研究開発は驚くべき進歩をしている。ここJISSにおいても、平成19年度からスポーツ工学の分野の研究にも取 り組み始めた。我が国においても、世界に誇る先端科学技術研究とスポーツ分野とのドッキングについて積極的かつ真剣に考えていかねばならない時代を迎えて いると思っている。
改めて、「古代オリンピックの素っ裸で競技をしたことには意味があったのでは?」と思ってしまうのは考えすぎなのだろうか。
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