スポーツと二人三脚

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第18回 競走馬ディープインパクト失格問題と東京五輪招致の事務総長問題 2006年12月1日


笠原 一也

 

  国立スポーツ科学センター センター長 笠原 一也
  かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長  
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.

 今年の10月に、競馬の世界最高峰レース・凱旋門賞に出馬した人気馬ディープインパクトから禁止薬物が検出されたという報道があり、大騒ぎとなったことがあった。スポーツ界でよく言われているドーピング行為での問題であった。
 検出された薬品が日本競馬会では禁止されておらず、悪意でないといっても失格の裁定が11月に下された。このことについて競馬通のタレント大橋巨泉氏 は、外国では薬物使用について厳しいこと、ディープインパクトが優勝するかの報道がされていたがそんな甘いものではないことなど、日本のメディアを含め関 係者は世界の競馬について知らなさ過ぎるとコメントしていた。世界最高峰の舞台で犯した規律違反は重いとの報道もあった。
 この出来事は日本のスポーツ界にとって対岸の火事ではないことを肝に銘じておく必要があると思っており、大いなる警鐘だと認識するべきではないかと考える。
 というのは時を同じくして2016年夏季五輪の招致を目指す東京都招致委員会の事務総長変更のことがあった。JOCの推薦もあってスポーツ用品メーカー 「ミズノ」の会長で、JOC理事でもある水野氏に固まっていたが、国際オリンピック委員会(IOC)から、水野氏の就任はIOCの倫理規定に抵触するとの 指摘があるため辞退をすることとなり、JOC理事の河野一郎氏に落ち着いた経緯がある。

 私はそのことが新聞報道された当日、水野会長に会う機会があったのでそのことを話題としてみたら、事務総長を引き受けた後に問題が生じてはと思い、会長 自らIOC本部のあるローザンヌまで出かけ確認してみたそうである。国際通の水野氏だからこそ事前に状況判断できたと思っている。

 我が国のスポーツ界ではメディアも含めて、これらの例のように国際情報や国際レベル、国際ルールを十分把握しないまま行動したり、報道されることが多 い。過日のトリノの冬季五輪でのスノーボードやドイツのワールドカップサッカーにおける競技水準の把握、報道など良い例ではないかと思う。

 21世紀はますます世界の情報が飛び交う時代を迎えており、スポーツ界も情報戦略が重要な時代を迎えていることを考えると、より正確な情報を把握し、分 析することが求められる。日本オリンピック委員会(JOC)の福田選手強化本部長は、常々日本の情報は世界にすぐ流れていくが世界の情報はなかなか把握で きないと嘆いている。
スポーツ情報サービス事業を推進する国立スポーツ科学センター(JISS)の役割はこのような面においても重要であると考えている。



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