学校現場での取組(事故防止対策) 東京第90号(2020.08)

独立行政法人日本スポーツ振興センターが提供する事故防止情報を活用した職員研修
~事故から学ぶ「安全な学校へ」~
-東京都立小平特別支援学校-

 独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下、JSCという。)では、学校における事故防止対策に活用できる資料を学校安全Webに多数掲載しています。
 今回、東京都立小平特別支援学校(以下、小平特別支援学校という。)において、令和2年2月25日に開催された事故再発防止研修に係る、JSCのデータを活用した教職員向け研修会を取材させていただきましたので、研修会の概要についてご紹介します。

学校紹介

  校長先生の写真
(加藤校長)
   小平特別支援学校は本校、分教室とも、地域の病院や病院を利用する保護者の熱い願いから誕生した歴史を持ち、本校は69年目、武蔵分教室は41年目を迎えます。
 「地域の中で、より豊かな生活ができること、学ぶこと」を大切にした教育と支援を行い、「児童・生徒一人一人が個性を発揮し、社会に貢献できる人間の育成」を目指す学校です。
 安全教育等の推進に努め、学校安全計画に基づき、児童・生徒の安全確保及び安全管理の徹底を図り、児童・生徒が安心・安全な学校づくりに努めております。
 
   ■児童生徒数(令和2年度 都立学校・学校経営シートより)
    肢体不自由教育部門173名(小学部86名、中学部38名、高等部49名)
    病弱教育部門 8名(小学部2名、中学部1名、高等部5名)

 

JSC事故防止情報の活用経緯について

 小平特別支援学校の花田副校長から、教職員向けの事故防止研修会を開催するに当たり、特別支援学校における事故の状況や傾向及び参考資料について知りたいとの依頼があり、学校安全Webで公開されている、学校事故事例検索データベースの死亡・障害事例から特別支援学校で発生した事例及び刊行物「学校の管理下の災害[令和元年版]」の「特別支援学校における事故防止の留意点」について情報提供を行いました。

◆教職員向け研修会の流れ

 研修会には、教員と介護職員合わせ85人が参加し、花田副校長がパワーポイント(資料①)で講義を行いました。その中で、特別支援学校で発生した3つの障害事例(資料②)を紹介した上で、事例を基にグループワークを実施・発表し、副校長が講評を行いました。
 講義中の様子
(講義中の様子 左:花田副校長 右:加藤校長)
 講義中の先生方の様子
(講義中の様子 先生方)

◆学校で作成した資料①パワーポイントの内容について(一部抜粋版)

 ケースごとに検証してみましょう 3つの事例 あなたならどうする
-1-
 ケースごとに検証してみましょう 4~6人でグループワーク ポイントは予見力
-2-
 「慣れ、油断、予断、驕り」が招く危機 教職員の「気になる」という感覚こそが学校の危機管理では大きな力になる
-3-
 「慣れ、油断、予断、驕り」が招く危機 事故から学ぶ 安全な学校へ 教職員の安全配慮義務プラス安全教育
-4-
※全体版はこちらからダウンロードできます。 「特別支援学校で発生している事故を知る」

◆資料②JSCの障害事例について(学校の講義で使用した3事例)

                       
番号 障害種別 学校種・学年・
性別
場合1 場合2 発生状況
28障365 上肢切断・機能障害 特高2男 各教科等 その他 個別の運動中、担任が本生徒を仰臥位から左側臥位へ姿勢変換する際に、身体の下に入り込んでいた 左手に気付かず、そのまま姿勢変換をした。左上腕に無理な負荷がかかったために、骨折した。
29障379 上肢切断・機能障害 特高1男 各教科等 その他 作業担当教員指導の下、陶芸班の作業学習の授業を行っていた。たたら機(電動ローラーの機械)のスイッチを押し粘土の乗った粘土板を押したところ、指先がローラーに入ってしまったことに気付いた。すぐに、手を引き抜こうと試みたが抜けず、電動ローラーの停止スイッチを押して機械を止め、その後、ローラーの逆送スイッチを押して手を戻した。
30障402 歯牙障害 特小5男 休憩時間 昼食時休憩時間 給食後の昼休み中、廊下を歩いていて床に置いてあった折り畳みマットにつまずき、バランスを崩して前方に転倒した。担任が本児童の胸と床の間に手を差し入れたが、口元を床に打った。
 ※上記事例は、「学校安全Web」刊行物一覧の情報誌「学校安全ナビ」の各年度特別号又は「学校の管理下の災害」及び「学校事故事例検索データベース」の検索から閲覧できます。

◆グループワークについて

 グループワークの様子(全体)
(グループワークの様子 全体)

◆グループワークで先生方から出た主なご意見(一部抜粋)

 (事例1)                                   
番号 障害種別 学校種・学年・
性別
場合1 場合2 発生状況
28障365 上肢切断・機能障害 特高2男 各教科等 その他 個別の運動中、担任が本生徒を仰臥位から左側臥位へ姿勢変換する際に、身体の下に入り込んでいた 左手に気付かず、そのまま姿勢変換をした。左上腕に無理な負荷がかかったために、骨折した。

 グループワークの様子①
(グループワークの様子①)
【先生方から出た主なご意見】

・予測ができない事故ではないと感じた。

・体を動かす前に手や足をコンパクトにまとめなくてはならないのではないか。

・高2なので、体が大きいかもしれない、2人介助体制でやるほうが良いのではないか。

・死角ができるので、複数人でみることが大切ではないか。
(事例2)                         
番号 障害種別 学校種・学年・
性別
場合1 場合2 発生状況
29障379 上肢切断・機能障害 特高1男 各教科等 その他 作業担当教員指導の下、陶芸班の作業学習の授業を行っていた。たたら機(電動ローラーの機械)のスイッチを押し粘土の乗った粘土板を押したところ、指先がローラーに入ってしまったことに気付いた。すぐに、手を引き抜こうと試みたが抜けず、電動ローラーの停止スイッチを押して機械を止め、その後、ローラーの逆送スイッチを押して手を戻した。

 グループワークの様子②
(グループワークの様子②)
 【先生方から出た主なご意見】

・事故が起きたことに気づくまで時間がかかったのではないか。

・複数人で指導すべきではないか。

・スイッチを止めるのに時間がかかるので、指を巻き込まないような工夫が必要ではないか。

・使用する機械の動き方等、機械の動かし方を熟知してから授業に臨むべきではないか。
(事例3)                         
番号 障害種別 学校種・学年・
性別
場合1 場合2 発生状況
30障402 歯牙障害 特小5男 休憩時間 昼食時休憩時間 給食後の昼休み中、廊下を歩いていて床に置いてあった折り畳みマットにつまずき、バランスを崩して前方に転倒した。担任が本児童の胸と床の間に手を差し入れたが、口元を床に打った。

 グループワークの様子③
(グループワークの様子③)
【先生方から出た主なご意見】

・廊下が安全な状況だったのか事前に確認するべきではないか。

・マットが置いてあったことが問題で、所定の場所に置くべきだったのではないか。

・体幹部で支える力が児童生徒で異なるので転ばないように介助が必要ではないか。


グループワーク後 花田副校長から

 私たちは安全配慮義務がある。まず事故を予見して避けることが大切で、そのための安全指導が必要である。
 日常の教育活動や業務の中でヒヤリ・ハット事例が発生するが、そのような危機が発生をしないようにするための未然防止策としては、どういうことが考えられるか、また、実際に危機となった場合には、教職員はどのような対応をとるべきか考えて欲しい。
 何か気になるなと思うことを大切にし、「まあ・いいや」と流されないで、教職員全員で安全対策を共有することが大切である。忙しい日々だが、先生方が一人一人お互いに言い合える関係にして欲しい。

 全体講義後 加藤校長から

 事故の原因をしっかりと分析し、対策をしっかりと立て、同じような事故を繰り返し発生させないことが大切である。さらに、普段とは違うこと、変化していることへの「気づき」も大切であり、事故の防止につながることになる。
 また、私の経験談ではあるが、過去に事故が多発し一向に減らなかったことがある。事故を減らそうと意識し過ぎて、教職員が過度に緊張したり、活動の制限もかけてしまったりして、児童・生徒たちが委縮してしまったことも要因の一つではないかと思っている。事故後は、安全に最大限の配慮をしながらも、児童・生徒に対して、のびのびと活動させるような教員の余裕というものも大切なことの一つであると思う。本日の研修した内容を活かし、安全で安心できる学校教育活動を実践して欲しい。

◆講義後、花田副校長にさらにお話を伺いました

Q:今回の研修会の目的について教えてください。
A:「予見力」を高めることがテーマなので、センターの事例が役に立った。
特別支援学校では、児童・生徒が予想もつかない行動をすることもあり、それも予見することが大切であると考えている。

Q:学校での学校安全に対する取組状況について教えてください。
A:毎月、生活指導部で安全指導日を定め安全点検、スクールバスの安全点検を行い会議で職員に周知している。毎年1回心肺蘇生研修を行い、全職員が応急処置をできるようになっている。また、副校長3名がリーダーとなり、安全に関する様々なテーマで、複数回、30分~1時間程度で講義を行っている。

Q:安全面に関する学校の特色について教えてください。
A:日常の環境整備を大切にしている。児童・生徒対応では、教職員が「あれ?おかしいな」といつもと違う状況に気づくことが大切である。また、重大事故につながる恐れのあるインシデントは、重大事故と捉え再発防止に努めることとしている。

Q:事故対応等において学校で気をつけていることについて教えてください。
A:保護者に対し、説明責任があるのでしっかり記録を残し、相談しながら対応していくことや保護者の立場になって考えることが大切である。

Q:今後JSCの資料でどのような内容を研修等に活用したいと思いますか。
A:「運命の5分間 その時あなたは ~突然死を防ぐために~」、「水泳の事故防止 ~プールへの飛び込み事故を中心に~」、「熱中症を予防しよう-知って防ごう熱中症-」のDVDを研修に使用したい。
 映像資料(DVD) スポーツ庁委託事業「学校でのスポーツ事故を防ぐために」
  スポーツ庁委託事業「学校でのスポーツ事故を防ぐために」
※画像をクリックすると動画紹介ページにリンクします。


Q:今後JSCに作成して欲しい資料等があれば教えてください。 
A:安全な環境作りのための施設点検のチェックリストと、プール監視の安全面の留意点についての資料を作成して欲しい。
 JSCでは、災害共済給付の実施により得られる年間約100万件の事故情報を活用して、調査研究や情報提供を行い、学校災害の減少を図ることとしています。
 今回ご紹介した資料以外にも、学校における事故防止対策に活用できる資料を、学校安全Webに多数掲載していますので、是非積極的にご活用ください。
 また、JSCの提供する事故防止情報を活用している先生方がいらっしゃいましたら、学校安全Webでご紹介させていただきたいと考えておりますので、是非、担当地域事務所までご一報くださいますようお願いいたします。




 

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