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学校現場での取組(事故防止対策) 福岡第44号(2020.07)

JSCが提供する事故防止情報の活用事例の紹介-長崎県立諫早農業高等学校
 独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下、「JSC」)では、学校の事故防止に資する目的で様々な刊行物や映像資料を発行し 学校関係者等へ提供しています。 
 今回は、「災害発生後の再発防止についての取組」において、JSCの教材等をどのように活用いただいたか、また、その他JSCが発信する事故防止情報の利用について、長崎県立諫早農業高等学校養護教諭の川元先生、中須賀先生にお話を伺いました。

長崎県立諫早農業高等学校の紹介

 長崎県立諌早農業高等学校は、創立112年を迎えた伝統ある農業高校です。全国屈指の規模(21学級、全校生徒822名)を誇り、学科は7学科、「創造実践」の校訓のもと、地域の文化や産業の発展に貢献できる人間性豊かな産業人の育成を目指し、それぞれに専門的な教育を行っています。卒業生は2万8千人を超え、各分野で活躍しています。生徒は県内各地から通学しており、遠方や離島の生徒には、学校に併設した寄宿舎があります。部活動も大変盛んで、運動部では相撲やウエイトリフティング、陸上部が、文化部では諌農肥前太鼓部などが全国でも上位入賞を果たしています。また、農業クラブや家庭クラブといった特徴ある部の活動も活発に行っています。

長崎県立諫早農業高等学校の取組

 平成30年、部活動等(相撲部2件、その他1件)における、眼の重症事故が続けて発生しました。また、野球部の生徒が頭部に打球を受け、1週間の入院をするような事故が発生しました。JSCの「学校事故事例検索データベース」(学校安全Web)で負傷データを見ると他校の野球部でも眼部の事故が多く発生していることを知り、改めて保健安全指導の必要性を強く感じました。
 この事故を教訓として、同様の事故を繰り返さないために、相撲部10人、野球部33人の生徒、部顧問に対し、眼に関する事故の予防、発生時の対応についての保健指導を実施しました。
~保健指導の流れ~部活動で実際に起こった災害を事例として紹介し講義形式にて行いました。
 1. 本校での災害発生状況(眼の怪我)について 
 2. 映像資料DVD(スポーツ活動中の眼の事故防止と発生時の対応)視聴
 3. 【別紙1】を使用しDVD視聴の復習をかねて怪我の対応について説明
 4. 各部顧問からの注意喚起

1.本校での災害発生状況(眼の怪我)について

平成30年5月末 相撲部での練習中の災害
 相撲部の実践練習中、頭を下げて相手を押そうとしたところ、相手生徒の突っ張りによる手指が左眼を突いた。すぐに流水で洗眼して観察したところ、充血や見え方に異常は無く、痛みも直ぐに消失したため、そのまま稽古に戻った。その後、通常の学校生活を送り、部活動でも各種試合に出場していた。時折、飛蚊症の症状や霧がかかったような見えにくさはあったものの痛みは無く、疲れのせいかと思っていた。9月、頭痛で早退し自宅近くの病院を受診した際、見えにくく気になっていた左眼も受診し、網膜剝離と診断された。
高等学校等 野球部活動(含軟式)の平成30年度負傷・疾病の種類別割合(TOP5)全国9,965件を示す円グラフ。手・手指部33%、頭部18%、足関節18%、眼部16%、肩部15%。 高等学校等 相撲部活動の平成30年度負傷・疾病の種類別割合(TOP5)全国129件を示す円グラフ。膝部26%、足・足指部25%、手・手指部21%、肩部16%、眼部12%。

2.映像資料DVD(スポーツ活動中の眼の事故防止と発生時の対応)視聴

 DVDの視聴は、生徒に対して視覚的に分かりやすく、効果的な指導になりました。短時間で分かりやすく的確に編集されており、保健指導の短い時間でも取り入れることができました。
平成28年度スポーツ庁委託事業スポーツ事故防止対策推進事業スポーツ活動中の眼の事故防止と発生時の対応 DVDカバー画像 平成28年度スポーツ庁委託事業スポーツ事故防止対策推進事業スポーツ活動中の眼の事故防止と発生時の対応。収録内容は、スポーツ活動中の眼の事故防止と発生時の対応(9分38秒)です。眼のけがはスポーツ活動中に多く発生しており、障害が残るようなけがが多いのが特徴です。眼にものが当たった時、 眼の中では何が起きているのか等、眼のけがの発生メカニズムをアニメーションでわかりやすく解説しています。また、スポーツ活動中に眼のけがから守ることの重要性や、けがをした時の対応について詳しく説明しています。眼の事故防止のポイントは、①体育活動中における事故で、眼の障害が「障害全体の中で最も多い」ことを認識する。②ヒヤリ・ハットを含めて過去の事故事例を知り、事故発生の要因を分析して、それに基づき有効な対策を取る。[児童生徒に対する留意事項]は、③既往症や健康状態の把握や管理を行う。④児童生徒の視力や治療の有無、常用点眼薬の有無、コンタクトレンズの使用状況について、確認する。⑤児童生徒相互の体格、体力、技能に応じた練習内容や場の設定に十分に配慮する。です。[用具・環境に関する留意事項]は、⑥グランドの整備をするなど、練習開始時に必ず設備や用具の点検を行い、ネット等に破損、破れがないか確認する。⑦ネットのフレームに緩衝材の敷設が望ましい。です。[指導面に関する留意事項]は、⑧競技への集中力を徹底させる。⑨危険な行為や、どのような場面でけがが起こりやすいかということを、ルールも含めて繰り返し安全指導し、とっさの場合の危険からの回避能力を身につけさせ、危険なプレーや無理なプレーを控えるよう、指導する。⑩ 他の部活動とグラウンドを共有する際は、相互に練習内容を工夫し、十分な間隔を取る。です。
映像資料DVD(スポーツ活動中の眼の事故防止と発生時の対応)

3.【別紙1】を使用しDVD視聴の復習をかねて怪我の対応について説明

災害時の実際の対応を紹介し、留意点について周知を図りました。
~実際の対応~
「腫れ、痛みが治まれば大丈夫」との認識があったため、受診までに少し時間が経過しました。
~今後留意する点~
 負傷後の対応に重点をおき、眼の怪我は、痛みが強くなくても重症化する場合があります。異変を感じたときは迷わず受診するように指導しました。負傷後の異変(痛みがない場合)にも適切に対処することを【別紙1】を使用しながら、共有を図りました。
【別紙1】
 学校安全Webで提供されている『教材カード』を利用して作成した【別紙1】 の画像内容は、令和元年10月号 中学校・高等学校向け野球での事故を減らそう!~予防と改善~知っていますか?野球での障害事故の約8割が眼と歯です!10年間(H20~29)に給付した野球の障害事例件数(中学校・高等学校/学校事故事例検索データベースより)の円グラフ総数608件、眼の障害283件(47%)、歯の障害195件(32%)、その他130件(21%)教材動画YouTubeで配信中!スポーツ庁委託事業スポーツ事故防止対策推進事業映像資料DVD「スポーツ活動中の眼の事故防止と発生時の対応」「スポーツ活動中の歯・口のけがの防止と応急処置」けがをしないためにできることをみんなで実行しよう!教材動画などでけがをしたときの対応についても知っておこう!どうしたら事故が防げるでしょう⁉こまめにグランドを整備しよう!周りを確認し、十分な間隔をとろう!防護ネットを適切な位置に置こう!破損?直そう!声を掛け合い、衝突をさけよう!令和元年10月号 中学校・高等学校向け野球では障害が残る重大な事故が発生しています‼みんなで気を付けよう!眼の障害本生徒がティーバッティングの球出しをしていたとき、バッターが打ったボールをよけきれず、右眼に当たり負傷した。(中2・男)フリー打撃の練習をしているとき、防球ネットの後ろで投手にボールを渡す役をしていて、誤って防球ネットから顔を出した際、打者が打った球が本生徒の右眼に当たり、受傷した。(中2・男)歯の障害野球部の練習試合終了時、近くで他の生徒が素振りをしていたことに気付かないままバットを振り、口にバットが強く当たった。(高2・男)外野守備の練習中、ノックフライが内野と外野の間にあがり、内野手が捕ろうとしたためよけようとしたが間に合わず、ボールが口元に当たり歯を損傷した。(高1・男)眼と歯以外の事故にも気を付けよう!他校との練習試合中、正捕手が防具等を身につけている間、ブルペンで投手の球を受けている時、投手の球がショートバウンドしたため、それを止めに行ったところ、ボールが股間に当たり、負傷した(ファールカップをつけていなかったため、衝撃が大きかった)。(高3・男)(学校事故事例検索データベースより)学校安全Web「学校事故事例検索データベース」で死亡・障害事例を検索できます。どんな状況でどんな事故が発生しているのかを知って、事故防止策を考えよう!平成31年4月号 中学校・高等学校向けもし眼にものが当たってしまったら…?事故発生時の対応① 眼を無理に開かせない。 ② 強く押さえない。 ③ 外傷部分に異物が入らないように覆う。 ④ 眼と眼の周辺を清潔に保つ。 ⑤ 化学物質が眼に入った場合は、十分に洗い流す。怪我のあとにも注意!眼の怪我は、痛みが強くなくても重症となる場合があります。 また、怪我をした直後は痛くなくても、帰宅後や数日後に異常が現れる場合もあります。 異変を感じた時は、眼科を受診しましょう。●ダブって見えないか?●虫や糸くずのようなものが飛んで見えないか?●一部が見えなくなっていたり、暗く感じないか?●ぼやけて見えないか?●かすんで見えたり、まぶしく感じないか?痛みがないので注意 資料:日本スポーツ振興センター学校安全Web
学校安全Webで提供されている『教材カード』を利用して作成 
平成31年度4月掲載「もし眼にものが当たってしまったら・・・?」(中学・高等学校向け)
令和元年度10月掲載「野球での事故を減らそう!~予防と改善~」(中学・高等学校向け)「 野球では障害が残る重大な事故が発生しています!!みんなで気を付けよう!」(中学・高等学校向け)

4.各部顧問からの注意喚起

〇相撲部顧問(30代 相撲経験者)
 相撲部の顧問として自分の経験を含めて、眼の怪我については特に注意をしてきた。今回のように大きな怪我につながってしまったのは初めての経験であった。相撲競技においては、張り手などにより競技の特性として顔面に怪我を負う場合がある。特に眼に関しては、今回の指導を踏まえ早めに受診をしてほしい。また、怪我や心配な点については、自分だけの判断によらず、部顧問や保健室の先生にも相談して欲しい。同じような怪我を繰り返さない事が大事である。
〇野球部顧問(60代 野球経験者)
 他校で顧問をしていた時の体験談・・・「野球がしたい」と入学してきた教え子が、入学して間もない時、ピッチャーとバッターに分かれて生徒2人で自主練習をしていた。バッターをしていた教え子はヘルメットを着用しておらず、投げたボールが側頭部に直撃し、救急搬送後5日目に死亡してしまった。事故はちょっとした気の緩みや油断で起きてしまう。起きてからでは取り返しがつかない。練習中は、特に緊張感を持って安全面に注意して欲しい。

【保健指導時に使用した学校安全Webで提供されている資料】

 「学校事故事例検索データベース」において、他校の部活動の負傷等の状況を確認しました。また、教材カードは、部活動毎に種別を変えて分かりやすく説明を行いました。さらに、野球部には指導直前に掲載された「野球での事故を減らそう!~予防と改善~(中学校・高等学校向け)」「未然に防ごう!野球での事故(先生・顧問向け)」を活用し、災害発生の防止について啓発を行いました。
◎「学校事故事例検索データベース
  ・障害-視力・眼球運動障害 (競技種目:野球含軟式・相撲)で検索した情報を使用
 「学校事故事例検索データベース」の検索方法
学校事故事例検索データベース平成17~30年度に給付した総数7,515件の死亡・障害事例を検索できます。 学校安全Webのトップページから「学校事故事例検索データベース」のバナーをクリックし検索画面に進みます。
「学校事故事例検索データベース」の検索画面です。 例えば「給付年度平成17~28年度」「障害見舞金」のうち「歯牙障害」で「小学校」「6年生」の案件、災害発生の場合は「各教科」で災害発生場所は「学校内・校舎内」の条件で調べています。 検索結果が表示されます。どのようなときに大きなケガが起きているのか調べることができます!事故の再発防止にご活用ください。
◎「教材カード
〇令和元年10月掲載
・野球での事故を減らそう!~予防と改善~(中学校・高等学校向け)
・未然に防ごう!野球での事故(先生・顧問向け)

〇平成31年4月掲載
・眼のけがに気をつけよう!/もし眼にものが当たってしまったら…?(中学校・高等学校向け)

〇平成30年4月掲載
・マシン・ネットによる障害事故が発生しています!安全な環境でプレイしよう!~準備・片付け時のチェックポイント~(中学校・高等学校向け)

〇平成29年4月掲載
・眼の事故防止のポイント/もし眼にものが当たってしまったら・・・?(先生・顧問向け)

【保健指導後の感想】

生徒からの声
①野球部
・いろんな所に危険性がある事が分かった。部員がお互いに注意し合って、怪我を防止したい。
・自分達の使っている道具の再点検をしたいと思った。
・眼の怪我はとても怖いと思った。(マネージャー)
・怪我をしたときのケアについてしっかり覚えておきたい。(マネージャー)
・Tバッティングのときは、マネージャーも立ち位置等に十分気をつけなければ…と思った。(マネージャー)
②相撲部
・眼の怪我については、表面の傷が治っても眼の中の見えない部分が傷ついている事もあるので、早めの受診をしないといけないと思った。
・練習中、眼に指が入ったり、張り手や頭が当たる事が良くある。処置として、「眼を流水で洗い異物を取り除き、冷やし、安静にして早めの受診をする。」という事を相撲部で徹底していきたい。
・相撲部で発生しやすい怪我について定期的に保健安全指導があったら、忘れかけていた部分を思い出し確認が出来るのでお願いしたい。
顧問からの声
①野球部顧問
野球部ではこの指導後、部顧問、生徒、保護者でネットについて設置位置と破損個所の確認をし、破れている部分などの全ての修理を行った。安全点検を行う良い機会となった。
②相撲部顧問
自分自身も学生の頃から相撲をしており、他校での指導を含め眼の怪我については、一番注意をしてきたつもりでいた。このような怪我は初めての経験で、生徒には辛い思いをさせてしまった。同じような怪我が起こらないよう細心の注意をしていきたい。

【その他事故防止情報の利用について】

 熱中症予防のために、体育祭前に「保健だより」「校内掲示」として教材カードを活用しました。
 「校内救急体制」の横に教材カード「平成30年7月掲載 もしかして熱中症? 熱中症対応フロー(教職員・保護者向け)」を掲示しています。
 『熱中症』予防のための校内掲示の写真

【保健指導を終えた養護教諭からの声】

 障害見舞金の申請となるような眼の重傷事故が連続して相撲部で発生し、二度と同じような災害を発生させてはいけないとの思いで保健指導を行いました。また、部顧問も同じように「もっと注意しておけば・・・なぜ重症化するまで気づくことができなかったのだろう。申し訳ない。」と苦しい日々を過ごしていました。その思いを忘れないようにして現部員の指導に当たっています。
 「学校事故事例検索データベース」では、他校でも同じような事故が起こっていることが確認でき、同じ部活動で他にどのような事故が多いのか検索し、保健指導の際に併せて注意喚起することが出来ました。
 今回の学校安全Webを活用した保健指導は、本校で起こった眼の重傷事故がきっかけとなるものでしたが、保健指導を実施したことで、指導者の危機管理に対する意識や生徒の事故予防への意識向上につながっており、行動にも変化をもたらせていると思います。
 学校安全Webの中には、事故予防のための様々なヒントや資料が掲載されていることを改めて知る機会になり、今後も定期的な閲覧と活用を行っていきたいと思います。

【編集後記】

 部活動の練習中に、怪我が発生することを念頭におくことにより、危機管理への意識や事故予防への意識向上にもつながり、今後の部活動での事故防止につながっていくのではないかと思いました。また、教材カードDVDを視聴することは直接的に視覚に訴えることができ、具体的に事故への対応を想像することもできたのではないでしょうか。
お願い
 JSCが提供している事故防止情報を活用している設置者や先生方がおられましたら、本Webサイトで情報を共有させていただきたいと思っておりますので、是非担当地域事務所にご一報ください。お待ちしています。


 

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