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学校現場での取組(事故防止対策) 仙台第58号(2020.01)

 
 日本スポーツ振興センター(以下「JSC」)では、災害共済給付から得られた様々な統計データや死亡・障害事例などの情報を提供しています。今回は、これらの情報の活用事例についてご紹介します。 
 
高等学校における部活動ごとの
事故防止啓発資料作成事例
 
 
 福島県高等学校教育研究会の養護教諭部会県南支部グループ研究E班(以下「E班」)では、事故の未然防止や応急処置等の情報を部活動顧問や生徒に提供することをグループ研究として取り組み、事故防止の啓発資料を作成しています。この資料作成に当たっては、災害共済給付オンライン請求システムから出力した統計データや、学校安全Webにある学校事故事例検索データベースから抽出した死亡・障害事例などを活用し、部活動の種目ごとに掲載するなど役立てていただいております。 今回、この取組について、E班の先生方にお話をうかがってきました。
 
 福島県高等学校教育研究会が作成した、平成30年度の研究集録「あゆみ」の表紙の写真とバレーボール部及びバスケットボール部の統計情報、事例、考察が掲載されているページの写真
 平成30年度 研究集録「あゆみ」
             

統計データや死亡・障害事例を活用したきっかけについて

 保健室における応急処置の中でも、部活動によるケガは重症度が高い場合が多く、特に、高校生の体育的部活動は、より専門的に高度な技術を追求しており、それによって起きるケガも種目によって特徴的な傾向があります。また、「ホッケー」や「自転車競技」などは体育の授業にない種目であり、且つ、福島県の県南地域の学校に特有の部活動です。 
 そこで、部活動の種目ごとに特徴的なケガとその対応について考察していきたいと思い統計データを活用しようと思いました。
 平成30年度は、統計データと併せて、全国で実際に発生した死亡・障害事例を抽出するという調べ学習を行いました。例えば、「自転車競技部」では、公道での練習中に停車中の車に追突し、せき柱に後遺症が残る災害や、下り坂を走行中にコースアウトし、4m下に転落し死亡してしまう災害が発生していることを知ることができました。このような調べ学習によって、重大事故が起きる可能性が常にあることを再認識するとともに、部活動ごとに災害発生時の対策等を提案することができ、高等学校の養護教諭である自分たちの意識向上につながりました。 
 
平成30年度に調べ学習をした自転車競技部の特徴と考察 
平成30年度に調べ学習をした自転車競技部の特徴と考察。部活動名は自転車競技部。学校安全Webより抽出した平成29年度の統計情報。負傷・疾病の種類。福島県の1位は骨折、捻挫。全国の1位は挫傷・打撲、2位は骨折、3位は捻挫。負傷疾病の部位。福島県の1位は頚部、手・手指部。全国の1位は肩部、2位は頭部、3位は手・手指部。災害発生月。福島県の1位は4月。全国の1位は5月、2位は6月、3位は8月。曜日。福島県の1位は木曜日、日曜日。全国の1位は日曜日、2位は土曜日、3位は水曜日。時間帯。福島県の1位は9時から10時、2位は16時から17時。全国の1位は17時から18時、2位は10時から11時、3位は16時から17時。学年。福島県の1位は1年、3年。全国の1位は1年、2位は2年、3位は3年。学校事故事例検索データベースから抽出した平成17年度から平成28年度までの全国の障害・死亡の事例。障害は10件。種別1位の精神・神経障害が5件、2位の歯牙障害が3件、3位の手指切断・機能障害、せき柱障害が1件ずつ。1つ目の事例は、平成28年度の精神・神経障害で、日曜日に、自転車競技部の公道での練習中、峠下り坂カーブで減速の調整がうまくいかず、ガードレールに衝突し、乗り越え、深さ1mの側溝に落下したというもの。2つ目の事例は、平成25年度のせき柱障害で、自転車競技部の部活動中に、ロードワークで道路を走行していたところ、前方不注意により停車中の車に追突し転倒したというもの。死亡は4件。種別1位の全身打撲が2件、2位の頭部外傷、内臓損傷が1件ずつ。事例は平成21年度の全身打撲で、自転車部活動中、ロードレースの練習を、部員全員が1分間隔で発走して、集合場所にて点呼したところ本生徒がいないことに気付き、顧問が捜索したところ、集合場所から5km位下った道路わきの4m下の杉林の斜面に自転車ごと転落しているのを発見した。転落時の目撃者はいなく、現場は、左カーブであり、曲がりきれず道路から転落した模様。発見したときは、意識はあったものの、出血も多く朦朧状態であった。消防署に救急要請、レスキュー隊が救助に来るが、その間も大量出血が続いた。CPRを行い、ヘリコプター離着場所まで救急車で搬送、ヘリコプターで病院へ搬送したが、死亡したというもの。E班の考察。自転車競技部は、データベースの事例にもあるように、公道を使用して練習するので交通事故も含め非常に危険を伴う部活動である。普段の練習では、自転車同士の接触による転倒での擦過傷が最も多い。統計の「負傷の種類」全国1位は「挫傷・打撲」だが、センター申請までいかなくても、全身に及ぶ傷の深い擦過傷で病院を受診することも多い。練習の際は、擦過傷の処置に必要な衛生材料の常備と、万が一のためできればAEDの携帯が望ましいのではないかと思う。
 
 令和元年度は、統計データをグラフ化したものと、ふだんの部活動でよく見られるケガや救急バッグの中身などについて部活動顧問に行ったアンケートの結果を基に、事故防止の啓発資料を作成しています。作成した資料は、部活動顧問や生徒に配布するとともに、養護教諭部会県南支部の令和元年度研究集録「あゆみ」に掲載する予定です。 
 
令和元年度に調べ学習をしたバスケットボール部の特徴と考察 
令和元年度に調べ学習をしたバスケットボール部の特徴と考察。日本スポーツ振興センターのデータを参考に、高校の部活動で起こりやすいケガについて調べてみました。バスケットボール部で多いケガの特徴は・・・。全国の平成30年度バスケットボール部における負傷・疾病の部位別割合の円グラフ。足関節が31.0%、手・手指部が17.5%、膝部が13.9%、下腿部が4.6%、腰部が3.6%、他22部位が29.4%。全国の平成30年度バスケットボール部の負傷・疾病の種類別割合の円グラフ。捻挫が28.2%、骨折が23.5%、挫傷・打撲が18.6%、靭帯損傷・断裂が13.4%、外部衝撃に起因する疾病等が6.0%、その他17種類が10.3%。考察:身体が接触するため、相手との接触や転倒で起きるケガが多くなっています。捻挫が多く、顧問へのアンケートでも、アイシング用具、テーピングの準備がされていました。全国のデータでは足関節の次に手・手指部の負傷も多く、選手、マネージャーのテーピング技術の習得も必要でないかと思われます。また、「学校の管理下の災害」(独立行政法人日本スポーツ振興センター発行)では、事故防止の留意点として、ルールを遵守して危険なプレーを避ける、能力・体力差の著しい者同士を避ける配慮、基本的な練習を十分に行い危険回避能力を身に付ける指導が求められる。と述べられています。障害事例では「歯牙障害」が1位となっています。歯を失うことで、食事や会話に支障をきたすだけでなく、噛み合わせが脳機能や運動能力にも影響を及ぼす可能性もあります。応急処置方法の習得や、速やかな受診のために、病院の情報収集が大切になると思われます。よろしければ参考にしてください。県南支部養護教諭部会E班(西白河・東白川地区) 
                                                                       

部活動顧問に配布する啓発資料作成のプロセスについて

~研修~
 スポーツによるケガの正しい応急処置を学ぶため、E班全員で医療関係者を講師に迎えて実技研修を受け、知見を深めました。昨年度は、足・手・膝・肩などの骨折と靭帯損傷の評価の仕方や脱臼・肉離れの応急処置について、今年度は、足関節や手・手指部の負傷が多いことから、応急処置としてのテーピングの実技を中心とした研修を行いました。学んだ知識については、部活動顧問への啓発資料のコメント欄作成の参考とする予定です。 
 
E班の養護教諭が医療関係者からテーピングの講習を受けている写真
テーピング実技研修の様子 
 
~調べ学習~
 JSCの災害共済給付オンライン請求システムを活用し、高等学校に多い体育的部活動(17種目)ごとに全国と福島県の統計データを抽出し、特徴と考察をまとめました。同じ種目でも、全国と福島県ではケガの部位やケガの種類が異なっており、傾向を把握するのに大変役立ちました。また、冊子『学校の管理下の災害』に掲載されている「学校生活における事故防止の留意点」も専門家の意見が述べられていて大変参考になりました。 
 
部活動顧問に配布する今年度の啓発資料に掲載するグラフの一例
平成30年度サッカー・フットサル部における負傷・疾病の部位別割合(全国・福島県)
  
※災害共済給付オンライン請求システム82帳票より抽出 
H30年度 サッカー・フットサル部 
負傷・疾病の部位別割合(全国)
H30年度 サッカー・フットサル部 
負傷・疾病の部位別割合(福島県) 
平成30年度、全国のサッカー・フットサル部における負傷・疾病の部位別割合の円グラフ。足関節は22.3%、膝部は12.4%、手・手指部は8.3%、大腿部・股関節は6.6%、手関節は6.4%、他22部位は44.0%。   平成30年度、福島県のサッカー・フットサル部における負傷・疾病の部位別割合の円グラフ。大腿部・股関節は21.4%、足関節は13.5%、下腿部は11.5%、膝部は9.5%、手関節は7.1%、他22部位は37.0%。
 
~部活動顧問への聞き取り~
 JSCの統計データは、生徒がケガをして医療機関を受診し、JSCに医療費の請求を行い給付されたものが件数としてカウントされますが、受診に至らないケガも多く発生していることから、部活動顧問へアンケートを実施し、ふだんの部活動でよく見られるケガや、部で所持している救急バッグの中身などを把握しました。これらを参考にして、事故の未然防止や救急バッグに備えておいた方がよい救急用品の提案などを記載した啓発資料を作成する予定です。
 作成した啓発資料は、学校安全Webからダウンロードできる「教材カード」と組み合わせて部活動顧問や生徒に配布し、事故の未然防止に役立ててもらいたいと考えています。 
 

JSCの事故防止情報に対する要望等について 

・学校安全Webの学校事故事例検索データベースや冊子『学校の管理下の災害』について、地域ごとに
 比較した資料を作成することが多いので、都道府県ごとの出力・掲載をお願いしたい。
教材カードを運動種目別でもっとたくさん作ってほしい。
無料ダウンロードのフリーイラストももっと種類を増やしてほしい。
・一枚刷りや冊子の形ではなく、保健だよりの一部に素材として使えるようなフリー教材になっていると
 よい。


取材を終えて 

 事故防止を考える上で、事故の傾向を調査分析することは非常に重要です。今回のE班の取組のように、部活動の種目ごとに統計データと死亡・障害の事故事例を併せて分析することで、より事故情報の精度が高まり、具体的にどういった状況でどういう災害が起こりやすいのかが見えてくることから、事故の未然防止等の対策を講じる上で、効果的な情報として活用できると思います。
 また、部活動顧問に対して聞き取りを行った、「よく見られるケガ」や「救急バッグの中身」の情報も加味して資料を作成することにより、現場に即した事故防止情報となるということが認識できました。 

お願い 
 JSCが提供している事故防止情報を活用している先生方がおられましたら、ウェブサイト等で共有したいと考えておりますので、担当地域事務所にご一報ください。よろしくお願いいたします。 
 


 

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