第1回
はじめに
本誌にはこれまでも国立スポーツ科学センター(JISS)の研究員が「スポーツを科学するってどんなこと?」というタイトルで何回か記事を書いてきた が、今回からは装いも新たに、「スポーツ医・科学最前線 in JISS」のタイトルで連載を始めることになった。その第1回というか、予告編的なものを私が書くことになった次第である。
ご承知のようにJISSは機関としては13年4月1日に設立されたが、実際に営業を開始したのは半年の準備期間を経た10月1日である。これを書いてい る時点ではそれから1年と1か月もたっていないところで、ようやくひとり立ちして危なっかしく歩き始めたといったところである。
JISSが担う役割
スポーツ大国といわれるような国には、10年、20年、あるいはそれ以上の歴史を持って活動し、かつ成果をあげているJISSと同種の機関が必ずといっ てよいほどあるので、そのいくつかには視察にも行ったし、それはそれで大変参考にさせてもらっている。しかし、日本ではトップスポーツに特化したスポーツ 医・科学・情報の専門機関は初めてのものなので、赤ん坊と同じく、すべてのことが新鮮であり、ある意味ではあらゆることで新しい挑戦を続けてきていると いってよいだろう。JISSのスローガンは「挑戦への新しいカタチ」(英語ではNew Spirit of Challenge)であるが、まさにそれを実際に示そうと努力を続けているところである。
そうしたことから「スポーツ医・科学最前線」というタイトルを選ばせていただいた。もっともスポーツ医・科学にもいろいろな切り口があり、基礎的な研究 でも日本の研究者は世界の最先端に伍して研究を行っていてこれも最前線といえるし、そのほかにも切り口によって異なる最前線があるが、ここでは国際競技力 の向上に貢献するスポーツ医・科学の研究とサポートというJISSに託された使命を果たすための取り組みという面での最前線ということで、後ろに「in JISS」とつけたのである。
研究部の4つの事業
JISSにはスポーツ科学研究部、スポーツ医学研究部、スポーツ情報研究部と3つの研究部門があり、それぞれに24、20、9名の計53名がフルタイム の研究員あるいはそれをサポートする技術者として働いている(14年11月1日現在)。これらのスタッフが協力し合って、研究部が中心となる事業としては 以下の4つの事業を展開している。
1.トータルスポーツクリニック事業
トップクラスの競技者の心身の現状を、医学、体力、スキル、心理、栄養などの各面から多角的に1日で測定、分析して、その後のトレーニングに役立てても らうためのデータをその日のうち選手にに提供する「チェックサービス」と、そのチェックから出てきた、あるいは日ごろのトレーニングや競技での課題につい て、必要に応じてその解決のための医・科学面からのサポートを専門的、継続的に行う「サポートサービス」とを行っている。
2.スポーツ医・科学研究事業
国際競技力向上に直接役立つ新しいトレーニング方法や、前記のチェックやサポートをよりよい形で行うための測定・分析方法の開発、あるいは戦術分析の開 発など、現場の要求に応えるための応用的、実践的な研究を行っている。JISS特有の施設である低酸素宿泊室や低酸素トレーニング室を活用したトレーニン グ方法の開発や、その高地トレーニングへの応用研究、NMR(核磁気共鳴装置)を用いた筋量あるいは筋内代謝物質の測定方法の開発、あるいは高速度カメラ とフォースプラットフォーム(床反力測定盤)などを活用した動作分析など、JISSに設置された最新の測定機器を有効に活用して研究が進められている。
3.スポーツ診療事業
長年激しいトレーニングを続けているトップアスリートは多かれ少なかれ何らかの外傷や疾病を過去、現在に持っていて、それがより高いパーフォーマンスの 発揮にマイナスに作用していることがある。また来るべき大会に向けて障害の発生や再発を予防することも重要である。そうしたマイナス面を排除するために、 経験豊かな専門医による診療と、治療へのアドバイス、あるいは外傷からの復帰のためのリハビリテーションを行っている。
4.スポーツ情報サービス事業
情報は国際的な競争ではきわめて重要な役割を果たすが、スポーツもその例外ではない。国際競技力の向上に役立つさまざまな情報を多角的に収集、加工、蓄積して、スポーツ現場に有用な情報を提供することを中心的な事業として展開している。
次号のお知らせ
次回からは、これらの事業の最前線で活躍しているスタッフに次々と登場してもらって、JISSのしていること、またしようとしていること、あるいはス タッフのJISSでの仕事に対する思いを、なるべく分かりやすく紹介してもらおうと思っている。またJISSに設置されている最新鋭の各種機器について も、それがどんな機能を持っていて、どんなことに役立てようとしているのかも紹介の中に加えたいと思っている。
さしあたって次回は、ホットな情報として、先の釜山アジア大会に選手団本部の「情報チーム」の一員として参加してきた白井克佳君に活動の一端を紹介してもらう予定である
※本文は「月刊国立競技場」平成14年12月号に掲載されたものを転載しました。 |