ツルのひとこと

 

ツル 浅見前センター長の
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第1回『♭&♯』

浅見 俊雄

 

  浅見俊雄イラスト
  あさみ・としお
1933年生まれ.
国立スポーツ科学センター長.
(財)日本サッカー協会顧問、
アジアサッカー連盟規律委員会委員、文部科学省中央教育審議会委員など.

 JISSのホームページに月に一回くらいのペースで短い文章を書くという ことに何となくなってしまった。内容は随筆風になんでもいいし、シリーズのタイトルも自由につけろという。まずタイトルについて考えたのだが、なかなかい いものが浮かばない。 考えたといっても電車の中でとか、仕事の合間にちょっとという程度だから、いい案が浮かんでくるはずもない。短いものということか ら、一声が浮かび、そこから鶴の一声が出てきたが、これは「権威者、有力者などの、衆人を威圧し、否応なく従わせる一言(広辞苑)」という意味だから、セ ンター長の立場では具合が悪い言葉だ。

 ほかのタイトルも思い浮かばないままに、鶴ではなくツルなら私の頭だと思い当たった。まだツルツルとまではいかないからツルがちょうどいいところだ。母 方の祖父と伯父が見事なツルツルだったから、私もまもなくそうなるに違いない。夕鶴が羽根を1本1本抜きながら布を織ったように、私も毛を1本1本失いな がら、この文を織りつづけるということである。だからひそかに織っているところを覗いてはならないぞ。「ひとこと」にしたのは、ホームページからは声は聞 こえてこないということに加えて、鶴の一声との差別化を図りたかったからである。

 鶴の一声で長の命令一下組織が動くという行き方は、私にはできないし好みでもない。JISSが開所した時、最初の職員全員の会合で、「フラットでシャー プな組織でありたい」といったが、あれはとっさに思いついた言葉だった。フラットでは半音下がってしまうから、半音あげる機能もなければということと、平 らだけれども鋭く切れる組織という意味を引っかけた、われながら高級なジョーク(本心ではあるが)だったと今でもたいへん気に入っている。どうでもよいこ とだが、鶴は実際には何声も鳴くようである。

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