第2回 釜山アジア大会日本選手団情報サポート


白井 克佳(スポーツ情報研究部)

はじめに
去る9月29日から10月14日まで韓国釜山で行われた第14回アジア競技大会に、日本選手団に初めて編成された情報チームのスタッフとして私と科学研究部の高松潤二研究員が参加した。その際の活動内容を報告させていただきたい。
スタッフは我々の他に国際競技関連のスポーツ情報に精通したものが7名おり,合計9名でJOC情報チームとして大会中の情報サポート活動にあたった。し かし、アジア大会日本選手団は37競技団体1000人あまりと大所帯である。要求されるであろうすべての情報活動を9名でカバーすることはできない。そこ で国立スポーツ科学センター(以下JISS)の情報サービス事業で「東京Jプロジェクト2002」というプロジェクトチームを編成してバックアップ体制を 整え、JOCとの連携のもと、我々だけではカバーできない部分のサポート活動にあたった。例えば、このメンバーにはJISSの栄養担当の研究員も含まれて おり、選手団に対する栄養関連の情報提供をサポートした。

活動内容

写真1:インターネットカフェを利用する選手の様子
写真1:インターネットカフェを利用する選手の様子

1.マイナスにしないための情報提供
今回の活動は大きく3つに分けることができる。1つめは,選手の競技力をマイナスにしないための情報提供である。オリンピック、アジア大会といった総合 型国際大会では選手村が設置され、選手団はここを活動の拠点とする。この選手村が情報過疎の状態にあることは意外と知られていない。特に海外の大会におい ては、テレビ、新聞のニュースも当然のことながらすべてその国の言葉である。したがって同じ日本選手団にいながら他の競技団体の試合結果を帰国後知ったな どという笑い話にも似たことが現実に起こっている。もちろん、自分の競技に必要な情報についても非常に入手困難な状況にある。すなわち、選手はこと情報に 関していえばマイナスの状態で競技を行っているといえる。このマイナス状態を極力軽減するための各種情報提供活動を行った。
具体的には、選手村内に情報ステーションを設置し、ここを中心にメディア情報、選手村や競技会場に関する情報、またメディカル情報(例えば、風邪が選手 団ではやっていますよ、といった類のもの)を提供した。その他、ノートパソコン4台を選手が自由に使えるインターネットカフェを設置したり、国内の主要新 聞を準備したりして、日本語の情報提供を試みた。選手村にインターネットプラザが設置されていたが、日本語に対応しておらず、そこでは選手、コーチが電子 メールを使用できなかったため、インターネットカフェは連日大盛況であった。(写真1)

2.プラスにするための情報提供と環境整備
2つめは,プラスにするための情報提供およびそのための環境整備である。これは大会中、競技をする上で選手にとってプラスになるような情報および環境を 提供するといった位置づけである。大まかにいうと対戦相手や日本選手の競技映像を積極的に収集し、その分析をするための環境を提供した。競技映像に関して は、多くの方がご存じと思うが、試合映像は対戦相手の分析や自らのパフォーマンスを評価する上で大いに利用される。大会期間中、選手村内ではCATVを通 して各会場の映像がリアルタイムで放映されていた。これをビデオに録画し、各競技団体からの要望によりダビング、編集して提供した。ちなみに録画したビデ オは250本ほどになる。
また、サッカーとソフトボールにおいては、次の対戦相手の試合を実際に会場に出かけて撮影するなどのサポートを行った。ゲーム分析には頻繁にリプレーや スローモーションのはいるテレビ映像より、競技会場で撮影した映像が有用である。我々はサッカー男子代表チームのゲーム分析担当者と協議の上、2台のカメ ラで必要とする分析に適した映像を録画した。サッカー男子では史上最高の銀メダル獲得となったが,我々の活動が少しは寄与できたかもしれない。

写真2:ビデオで試合を分析する選手
写真2:ビデオで試合を分析する選手

ゲーム分析環境に関しては、情報ステーション内にゲーム分析エリアを設け、そこにノートパソコンと分析ソフトを準備した。また、試合やゲームの映像を選 手とコーチが一緒に見るためのビデオデッキとモニタ、大人数用に液晶プロジェクタを準備した。ゲーム分析ソフトに関してはハンドボールが大会期間中を通し て活用した。その他、バスケットボール、テニス等の関係者が分析に関して相談に来たが、大会期間中に活用することはなく、帰国後活用に向けて話し合いを持 つことが確認された。
ビデオに関しては、野球が試合のビデオを持ち込み、選手、コーチで試合前の分析に活用していた。またカヌーやレスリングの選手とコーチは自分たちの映像 をチェックするために活用していた。各競技のコーチやゲーム分析担当者は、試合が終わると即座に次の試合に向けた分析活動を開始し、夜を徹するスタッフも いたと聞く。このような活動をサポートする我々の役割は非常に重要であると実感した。(写真2)

3.競技力の分析
3つめは各競技種目の競技力の分析である。これは主に大会前に実施し、具体的には各競技が世界的にみてどれぐらいに位置づけられているのかを調査した。 例えば、サッカーのFIFA Rankingは有名であるが、他の競技のランキングがあるのかないのか、また日本がどれくらいに位置しているのかは意外に 知られていない。試合に勝つにはまず己を知れというが、競技団体はもちろん我々JISSやJOCが日本代表選手の世界の中での実力を知ることは最低限必要 な事柄といえる。

最後に
最後に以上の活動を総括する。今回の活動に対する競技団体の評価は概ね良好であった。情報ステーションが持ったような機能を一競技団体が準備することは 難しく、今後、世界大会等でこのようなサポートは必須となるであろう。しかし、その反面、多くが初めての試みであったため活用が不十分であった点も多い。 たとえば分析活動の機能はもっと多くの競技団体に利用してもらえると踏んでいたが、非常に限られた競技団体にしか活用されなかった。大会期間中の分析活動 はすでに競技団体スタッフのルーチンとなっており、事前にこれを固めていることが普通であろう。大会期間中に、たとえどんなによいシステムがあることを 知っても、準備したルーチンを壊してまで新しい仕組みを導入することはない、とある競技団体関係者から聞いた。今回は、事前にコーチや選手も含めた現場の ニーズを聞く事から分析活動を開始したが、あらためて大会前も含めた平素の強化現場との関わりの重要性を認識した。
情報ステーションについては、予想以上に好評であったが、用意した端末の数が少なく、待ち時間が長いといった苦情が聞かれることもあった。今後も総合的 な国際大会ではこのようなサポートが行われるようになると思われるので、今回の反省を生かし、JISSとしてよりよいサポートができるよう準備と努力を重 ねていきたい。

※本文は「月刊国立競技場」平成15年1月号に掲載されたものを転載しました。

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