スポーツ医科学最前線

第12回 スポーツ向け多視点映像撮影閲覧システムの開発の取り組みについて
―国立競技場における撮影実験を12月に控えて―

吉川 文人(スポーツ情報研究部)

スポーツ動作を観察し、さらにそれを詳細に分析するには、スポーツ動作の特徴的な様相を最も良く観察できる視点を選択できることが望ましいが、通常は、 観察者の位置やカメラの配置の制約により、限られた視野のなかで得られた映像を参考にしているのが実状であろう。仮に、死角が生じることのないように配置 された多数のカメラから同一のスポーツ動作を記録し、すぐに同じシーンを様々な方向から簡単にみることができる映像処理システムがスポーツ施設に備えられ ていたならば、そのようなシステムを選手や指導者は活用しようとは思わないだろうか?これが多視点映像システムの一つの開発目的である。

国立スポーツ科学センター(JISS)では、スポーツ医科学研究事業のなかで「多視点映像撮影閲覧システムの開発」サブプロジェクトを立ち上げており、 私はそのシステムのアプリケーションソフトウェアの開発に携わっている。本稿では、筑波大学と共同で実施する国立霞ヶ丘競技場における撮影実験を12月に 控え、現在進行中の「多視点映像撮影閲覧システムの開発」の取り組みについて紹介したい。

開発に至る経緯

図1 多視点映像システムの構成例
図1 多視点映像システムの構成例

スポーツに関係する領域において映像の利用が広く見受けられるなか、コンピュータの処理能力やビデオ機器の発達に伴い、従前にも増して複数の映像を取り 扱う場面が容易に想定されるようになってきた。複数のスポーツ映像を取り扱う道具に対する要求は、潜在的に数多くあるに違いない。例えば、同一選手につい て過去と現在で、あるいは異なる選手間で、同じ視点からのスポーツ動作の様相を比較するといった場面や、全体を捉えられるように俯瞰して撮影した映像とあ る局面に焦点を当てて撮影した映像からスポーツの戦術面や技術面に関わる内容をチェックするといった場面を容易に想像できるであろう。しかしながら、現段 階では、目的や状況に合致した形で複数のスポーツ映像を取り扱う上で必要となるハードウェア、ソフトウェアを取り揃えるということは、経済的にも技術的に も様々な要因から難しい。それは、スポーツに関係する領域に導入されてきている映像処理技術や映像に付随するデータ管理技術が、映像利用の多様性や映像の スポーツ応用への多大な可能性からするといまだ成熟しておらず、特にソフトウェアはスポーツ向けに特化する余地が多分に残されていることを意味している。

ある文献に、スポーツ施設において多視点から撮影されたスポーツ動作の映像を、利用者がブロードバンドネットワークを介して取得し、遠隔地に居ながら自 由な視点からシーン合わせがなされた映像を即時的に閲覧できるような技術が紹介されていた。そのような先進的な研究が競技スポーツの現場に応用できるよう になれば、競技力向上の一助として有用なのではないかと思われた。このような研究を実施している筑波大学機能工学系大田教授、北原助手を中心とする研究グ ループから技術面でのバックアップを受けられるきっかけを得たのは2001年11月頃のことであった。2002年5月にはその研究グループよりJISSで 多視点映像システムの基本型の動作確認ができるところまで一気に技術を提供していただき、そのおかげで2002年度内に、開発中のシステムをウエイトリフ ティングと体操競技のトレーニングの場面で試験的に活用することができた。これらの実地撮影実験を通した、システムに対する要求の調査を踏まえ、現在 JISSではスポーツ動作の観察ひいてはその分析を支援するための基本的な機能を具備した多視点映像システムを2003年度内に構築することを目標として 開発に取り組んでいる。

多視点映像撮影閲覧システムの概要と活用例

図2 ウエイトリフティングトレーニングキャンプでのカメラ配置と映像。選手を取り囲むように8台のカメラを設置
図2 ウエイトリフティングトレーニングキャンプでのカメラ配置と映像
図3.a 選手にフィードバックされる映像。8箇所から撮影された映像を同時にフィードバック
図3.a 選手にフィードバックされる映像
図3.b 選手にフィードバックされる映像。8箇所から撮影された映像を同時にフィードバック
図3.b 選手にフィードバックされる映像
図4 指導者が画像を示しながら選手を指導している様子
図4 指導者が画像を示しながら選手を指導

多視点映像システムは、複数台のカメラ(多視点)から撮影され計算機に取り込まれた映像を、すぐに(準実時間で)みることができる機能を備えたシステム である。図1は、システムの構成例を示している。このシステムは、カメラが接続されている複数の撮影用計算機において記録された映像を、制御用あるいは閲 覧用の計算機で多視点映像を閲覧する仕組みになっている。

図2は、JISSで実施されたウエイトリフティングトレーニングキャンプにおいてシステムを活用したときのカメラ配置と記録された映像のスナップショッ トである。その実地撮影実験では、図2のように選手を取り囲むように配置した8台のカメラから試技を記録し、随時、試技の直後に多視点映像をフィードバッ クする予定であったが、現場の指導者の意向によりトレーニング終了後に多視点映像を参加者各自にフィードバックした(図3a, b)。図4は、指導者が、複数の視点、複数のフレームにわたって画像を指し示しながら挙上動作の問題点を選手に指摘しているときのスナップショットであ る。



国立霞ヶ丘競技場における自由視点映像の撮影実験

図5 実地撮影実験のための調査をしている様子
図5 国立霞ヶ丘競技場での実地撮影実験のための調査

今年の12月中旬に、共同研究の位置付けで連携している前述の筑波大学の研究グループとともに国立霞ヶ丘競技場で撮影実験を予定している。今回の実験 は、筑波大学の研究グループが研究開発を手がけている、大規模空間に適用可能な実時間自由視点映像提示システムの検証が中心的な課題となる。その概要は、 競技場を取り囲むように設置した十台前後のカメラで撮影した映像を、実時間で加工して、ネットワークを経由して遠隔地まで配信し、遠隔地にいる利用者が、 自分の好きな視点から映像を見ることができることを想定したシステムにかかる実験である。主な実験項目は、次の通りであり、新しい映像処理技術の創出に焦 点を置いた実験内容になっている。

・ 競技場に設置した多数のビデオカメラの校正を迅速に行う実験
・ 観察者が自由に視点を選べる映像をライブでネットワーク配信する実験
・ 複数台の首振りカメラを連携させて選手を追尾撮影する実験

他方、JISS側では、その場で撮影した多視点映像を即時的に選手や指導者にフィードバックするときの活用面に焦点を置いた実験内容を計画している。

上記の実地撮影実験を計画するにあたり、実地調査(図5)を含め様々な調整が必要となるが、国立霞ヶ丘競技場の職員の方々にはJISSと国立競技場との 連携事業としてご協力を頂いており、そのおかげで現在に至るまでの過程を円滑に推進することができている。本稿をかりて、ご協力頂いている多くの方々に感 謝を申し上げたい。


※本文は「月刊国立競技場」平成15年11月号に掲載されたものを転載しました。

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