スポーツ医科学最前線



第10回 筋力測定装置のあれこれ
―筋力発揮のメカニズムと測定法―

船渡 和男(スポーツ科学研究部副主任研究員)

1 筋力測定の基本的理解

図1. 肘関節屈筋群(通称
図1. 抵抗に対する肘の屈曲。
F
M=筋張力、FR=抗力、
MM=筋力のモーメントアーム、
MR=抗力のモーメントアーム。
MMはMRの約1/5の長さのために、FMはFRの約5倍の力発揮が必要になる

筋力測定においては、「機械」としての筋や骨格の構造について知る解剖学と、人体各部の相互作用により生み出される"動き"のメカニズムについて知るバ イオメカニクスを理解しておく必要がある。先ずは筋骨格系のてこ作用について考えてみよう。図1は 肘関節屈筋群(通称"力こぶ"の筋肉)で発生した筋張 力(FM)が肘関節を介して手部で身体外部に作用する力(FR) に伝わる仕組みを示したものである。筋力測定とは正確には筋張力FMを求めなければならないが、生きた人間から直接測定することは不可能に近いため、多く は抗力FRを測定し通称筋力と呼んでいる。握力や背筋力測定ではともに手部で発揮された抗力測定を行っていることになる。FRからFMを求めるには次のように考える。肘関節の回転中心から筋張力を伝える腱が付着している所までの距離MMと回転中心から抗力FRが発生するまでの距離MRを考慮して、筋が発生する回転力(力x距離)と抗力によって生じる回転力が釣合っていると考えると次式のようになる。

FM x MM = FR x MR
FM = FR x MR / MM


このことから、筋張力FM=抗力FRとはならないことがわかる。実際に筋が発揮した張力FMは、身体外部で測定された力FRのMR/MM倍ということになる。このMR/MMは発生した筋張力を身体外力として伝播する際の機械的有効性(通称"てこ比")としてとらえることが出来る。図1にみられるようにMRはMMよりはるかに大きく(肘関節屈筋群の場合、MRはMMの約5倍)なっていて、外部に発揮されるFRより実際に筋で発生している張力FMの方がはるかに大きいのである。(FMはFRの約5倍)。一般成人女性の肘屈曲力FRは平均20kg位であるが、筋は約100kgの張力を発生しているのである。ちなみに肘や膝の伸筋群で発揮される最大筋張力FMは、FRの8-10倍になる。このように筋力では損をしているのであるが、動きでは距離でも速さでも筋の動きよりもずっと大きくなっているのである。


2 筋の活動様式の違いと発揮される筋力

図2. 筋活動の様式と発揮される力と速度の関係。筋活動は等尺性活動と等張性活動に大きく分けられ、さらに等張性活動は、短縮性活動と伸張性活動に分かれる。筋が短縮しながら力を発揮する(短縮性活動;コンセント リックス)場合、筋張力の発生が大きいほど筋の短縮速度は遅くなり、張力と短縮速度は反比例の関係にある。一方伸張性活動(エキセントリックス)とは筋力 が外力より小さいために筋が強制的に伸ばされる状態をいう。強制伸張される速度が大きくなると、そこで発揮される筋力はある速度までは大きくなることが示されている。
図2. 筋活動の様式(上段)と
発揮される力と速度の関係(下段)

一概に筋力測定といっても、筋が発揮する力は筋の活動様式によって異なってくるため、どのよ うな条件で筋力を測定するかを考慮しなければならない。筋活動は等尺性活動と等張性活動に大きく分けられる(図2)。等尺性活動とは筋が長さを変えないで 力を発揮する場合をさし、等張性活動では筋が長さを変えながら力を発揮する場合をさす。握力や背筋力測定は、代表的な等尺性筋活動の筋力測定として行われ ている。一方等張性活動で発揮される筋力は、筋が短縮あるいは伸長する速度によって異なってくる。筋が短縮しながら力を発揮する(短縮性活動;コンセント リックス)場合、筋張力の発生が大きいほど筋の短縮速度は遅くなり、張力と短縮速度は反比例の関係にある。一方伸張性活動(エキセントリックス)とは筋力 が外力より小さいために筋が強制的に伸ばされる状態をいう。強制伸張される速度が大きくなると、そこで発揮される筋力はある速度までは大きくなることが示 されている。しかも伸張性活動で発揮された筋力は、等尺性活動での筋力を上回っていることから、握力や背筋力などで計測された筋力は必ずしも最大筋力では ないとも言える。このようなことから等張性活動での筋力測定では、力(負荷)あるいは速度を一定にした条件を設定しなければならない。負荷を一定にして行 う筋力測定では、動作速度が一定(加速度=0)の条件を取り出し、負荷=筋力とみなし、負荷と動作速度から筋パワーを計測する手法がとられている。一方測 定装置により動作速度を機械的に一定にした状態で発揮される筋力は等速性活動(図2)と呼ばれている。等速性活動では関節の回転角速度を一定にしてそこで 発揮されるトルクを計測したり、レッグプレスやアームプレスのような直線動作では、線速度を一定にして発揮される力を計測し、パワーに置き換えて評価して いる。


3 スポーツ動作を考慮した筋力測定

図3. 重量挙げ動作による筋パワーの測定。慣性車輪を応用した測定装置を用いてパワーという指標で測定 図3. 競技の様子
図3. 重量挙げ動作による筋パワーの測定

重量挙げ選手の競技成績を評価するために背筋力と筋パワーの測定を行った結果、等尺性活動で 発揮された背筋力の値とトータル重量の間には相関関係は示されなかった。つまりある程度トレーニングされた重量挙げ選手の背筋力は一定の基準値をクリアし ていて、背筋力の強さ=競技成績とはなっていないことを示している。ところが実際の競技成績に類似した様式で発揮される筋力を、慣性車輪を応用した測定装 置を用いてパワーという指標で測定(図3)して競技成績と比較してみると、統計的に有意な相関関係が示された(図4)。このことは競技成績を推し測るため の筋力測定では、実際の競技に類似した動き、あるいは筋にかかる負荷様式で筋力データを収集する必要があることを示している。JISSでは、競泳選手の牽 引力を測定したり、回流水槽を用いてボート・カヌー動作のオールにかかる力や艇の推進力を測定する装置が独自に開発され、実際の競技動作中の力を測定して 競技力向上に生かす試みがなされている。

図4. 重量挙げ動作中に発揮された筋パワーと競技成績(トータル重量) の関係。実際の競技成績に類似した様式で発揮される筋力を、パワーという指標で測定して競技成績と比較してみると、統計的に有意な相関関係が示された
図4. 重量挙げ動作中に発揮された筋パワーと競技成績(トータル重量) の関係




4 筋力測定の方向と意義

今日まで、スポーツ選手を対象として、競技力向上のために各種の筋力(力、トルク、パワーなどを含めて本章では筋力と いう)測定装置が考案されてきている。ところが果たしてそれらの筋力がパフォーマンスに直接的に影響を及ぼしているかどうかが、多くは確認されてきていな い。また一般人の健康体力の保持増進という面からも筋力測定の方向付けは必ずしも明確にされていない。今後、筋力測定を行うにあたっては、その目的を何に 設定するかを明確に示す必要があると考えられる。筋力を測定することによって何をみるか(例えばスポーツの競技成績、体力水準、トレーニング効果、発育発 達、加齢など)を明確にし、その目的を達成するための筋力トレーニング方法(単一筋群、複合関節動作、生活様式やスポーツ動作様式など)が決定されるとい う一連の流れの中で、筋力測定装置を選択することが大切である。同時に、更なる競技力向上を目指すアスリートに対して、筋力測定と筋力トレーニングを通じ て、筋力に影響を及ぼす生理学的およびバイオメカニクス的因子に関して検証することは、JISSに課された医・科学研究の使命でもある。


※本文は「月刊国立競技場」平成15年9月号に掲載されたものを転載しました。

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