スポーツ医科学最前線

第6回 JISSスポーツ情報研究部の活動

和久貴洋(スポーツ情報研究部)

33年前の1970年4月11日、13時13分に打ち上げられたアポロ13号は、地球から33万km離れた宇宙で発生した爆発事故により、搭載していた 酸素ボンベ、電力供給ライン、燃料電池を失った。当時、有人宇宙飛行史最大といわれたこの事故において、アポロ13号クルーとミッション管制センターは、 現状把握のための情報の収集・分析、課題解決策の立案・開発、意思決定を繰り返し、奇跡の生還を成し遂げた。このように情報は人の意思決定や行動に不可欠 であり、またそれらに大きな影響を与える。

1. 国際競技大会における情報サポート活動

2002年に行われたソルトレーク冬季五輪と釜山アジア大会において、我々は、JOCと協同で、現地日本選手団を支援するためのバックアップ体制を選手 村村外(ソルトレーク;ジャパンハウス)と国内に整備し(ソルトレーク;東京オフィス、釜山アジア大会;東京Jプロジェクト2002)、各拠点においてさ まざまな情報の収集・分析・提供を行なった(図1)。

図1 国際競技大会における情報サポート。世界との戦いに必要な情報はリザルト、スケジュール、ゲーム分析、各国の選手情報、村内情報、メディア情報、競技映像、各国の強化関連情報、コンディション管理情報、応援メッセージなどがあります。

ソルトレーク五輪では、選手村村外拠点にJISS研究員2名を、釜山アジア大会では選手団史上初の「情報チーム」のメンバーとして2名の研究員をそれぞ れ派遣した。また、釜山アジア大会では選手村での情報ステーションの設置にあたり、JISSのゲーム分析や映像編集のための機器・機材、ソフトを提供する 等の支援を行った。

国内バックアップ体制では、国内外の新聞を中心としたメディア情報、国内で放映された競技映像、各国の競技成績状況、選手村レストランでの食事メニューやコンディション管理のための情報、応援メッセージ等を収集・分析・提供した。

これらのサポート活動は、いわば、国際競技大会という戦いのフィールドの後方から、我が国のトップ競技者、コーチ、スタッフを支えるフィールド外の組織的サポートである。

2. プロジェクト活動

こうした国際競技大会での情報サポートのほか、スポーツ情報研究部は、JISS事業において、次のようなプロジェクト活動を行なっている。

戦略情報プロジェクト
JISSに設置された情報機器やソフトを利用し、いくつかの球技系種目をモデルとして、競技団体の行なうゲーム分析を支援している。また、戦略・戦術に関わるさまざまな資料の収集を行なっている。

画像データベースプロジェクト
国内外の競技大会の映像や国内で放送された各種スポーツ関連映像の収集を行なうほか、収集した映像の提供・管理システムの整備を行なっている。

記録データベースプロジェクト
ソルトレーク五輪とシドニー五輪の大会リザルトをモデルに、記録データベースの構築に取り組んでいる。

スポーツIT/情報普及プロジェクト
各種スポーツ情報の提供、スポーツ情報サービス室の機能充実とその利用に関する講習会を行なっている。

地域ネットワークプロジェクト
福岡県、富山県、及び岐阜県の地域スポーツ医・科学センターをモデルとして、スポーツ情報や医・科学サポート等の面での地域との連携体制の構築に取り組んでいる。

体育系大学ネットワークプロジェクト
筑波大学及び鹿屋体育大学をモデルとして、人材面、研究面、情報面における体育系大学との連携体制の構築に取り組んでいる。

JISS-JOCネットワークプロジェクト
JOCの各プロジェクトと連携して、国際競技大会における情報サポート活動のほか、タレント発掘に関する情報や各国の強化情報の収集・提供等、国際競技力向上の取組みへの包括的支援を行なっている。

国際スポーツ情報ネットワークプロジェクト
国際スポーツ情報協会の構成メンバーとして関連会議に出席するほか、イギリスやドイツ等のスポーツ情報関連機関との情報交換や人的交流を行なっている。

ゲーム分析によるフィードバックシステムの開発プロジェクト
複数のカメラからの撮影を同期させ、多視点の映像を収集し、多角的に分析を行なうことができるシステムの開発研究等を行なっている。

国際競技力向上のための国際戦略に関わる情報に関する研究プロジェクト
国際競技力向上のための国際戦略に関わる課題として、ルール、レフェリング、競技記録を取り上げ、これらの課題への研究の在り方の検討、関連情報の調査を行なっている。

3. プロジェクト外の活動

このほか、スポーツ情報研究部研究員、テクニカルスタッフ、及び事務スタッフが中心となり、JISS情報システム及びスポーツ情報サービス室の運営・管理、並びに本部情報システムとのネットワークの管理・運営支援等を行なっている。

4. まとめ

平成14年度スポーツ医・科学研究事業の一環として招聘したRozeneck博士(カリフォルニア州立大学教授)は、招聘期間中、JISS内に発行した ニュースレターの中で、「JISSのスポーツ情報部門は、現場と科学、JISS内の各部門間、外部機関とJISSとの連携をコーディネートする包括的機能 を担っている」と述べている。

また、釜山アジア大会日本選手団メディカルスタッフとして活躍した中嶋研究員は、JISSによる"LOGISTICS(後方支援)"の必要性を、この連載(第3回)の中で指摘している。

1590年、小田原攻城戦において、豊臣秀吉は北条氏を破り、事実上の天下統一を完成した。この戦いにおける豊臣氏の勝因は、北条氏の籠城戦略に備えた 十分な物資補給システムの確立と実行、すなわち"LOGISTICS"であったことは有名な話である。

近代戦では、そこに情報という見えないLOGISTICSが必要である。スポーツ情報研究部は、この情報を中核として、戦いの前線から後方までの包括的な支援を行っている。


※本文は「月刊国立競技場」平成15年6月号に掲載されたものを転載しました。

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