第25回  JISSと日本ハンドボール協会との連携

 

白井 克佳(スポーツ情報研究部)



  去る7月22日から24日まで広島市で開催された第10回ヒロシマ国際ハンドボール大会においてナショナルチームのゲーム分析を支援した。ヒロシマ国際 ハンドボール大会はナショナルチーム強化のため、毎年開催されているもので、分析支援は昨年に引き続き2回目である。今回のスポーツ医科学最前線では 2003年から始まった日本ハンドボール協会(以下、JHA)へのサポートで実施した内容と研究面を含めた今後の取り組みについて紹介したい。

 JHA分析班は二つの視点を持ってゲーム分析を行っている。一つは相手チームの得意な攻撃パターン、強み、弱みなどの特徴を明らかにすることであり、もう一つは自チームの分析である。 

 大会における実際の作業の流れに沿って具体的な活動内容を紹介したい。

 本大会は韓国(コロサ)、エストニア(チョコレートボーイズ)、チャイニーズタイペイからチームを招聘し4チームのリーグ戦で優勝を争った。大会初日の 第1試合は「韓国vsエストニア」、第2試合は「日本vsチャイニーズタイペイ」であった。事前のコーチとのミーティングで第1試合、特に大会二日目で対 戦するエストニアの分析と日本チームの分析を依頼された。このような大会で欠かすことが出来ないのはカメラを設置し、ゲーム分析を実施する分析ブースの設 置である。試合の分析においてよい位置からの試合映像の撮影は非常に大きな意味を持っている。

 
分析活動中の分析スタッフ
 
分析活動中の分析スタッフ
   
 
チームミーティングの様子
 
チームミーティングの様子
   
 
エストニアとの試合
 
エストニアとの試合
   
 
サポーターに挨拶する代表チーム
 
サポーターに挨拶する代表チーム
   

 海外の大会ではカメラの位置について融通が利かないこともあるが国内での大会は交渉で何とかなることが多い。事前に協会の大会運営側と体育館に分析活動 を実施することを連絡し、分析に必要な機材を接続する電源やPCで作業する机を設置する。分析チームの活動が認知された現在ではこのような手続きもスムー ズであるが発足当初は苦労した。

  試合が始まると試合映像をビデオカメラで記録するのだが、この映像は同時にPCに取り込み、映像に必要な情報を添付する。JISSではあるゲーム分析ソフ トを使ってこの作業をするが、これが分析作業の一つの鍵になる。試合が終わるときには、例えばその試合において誰が何本シュートを打って、その内何本が ゴールインしたか、という簡単な統計とその場面の映像を抽出することが出来る。

 試合が終わると、ホテルに戻り早速、明日の試合に向けての分析に関するミーティングを実施した。第1試合についてはエストニアが韓国のディフェンスをよ く攻略したシーン、逆に韓国がエストニアの攻撃をよく攻略したシーンを映像で抽出し、その特徴を明確にすること、第2試合については、日本が大差で勝利し たが、そのなかでも日本のディフェンスに問題があった場面を抽出し、翌日の試合に反映させるための資料を作成することにした。

 これらの分析結果をもとに、翌日のエストニア戦に向けたオフェンス、ディフェンスについての注意点をミーティングでナショナルチームのコーチにプレゼン テーションした。その詳細をここで述べることは出来ないが、分析結果は要点を2、3点にまとめた非常にシンプルなものである。ミーティングの結果、その中 でプレゼンテーションの中でさらに選りすぐった要点、選りすぐった映像を試合前のチームミーティングで選手にプレゼンテーションすることになった。

 チームミーティングでは、基本的に分析スタッフが選手にプレゼン テーションをすることはない。なぜなら、選手に情報提供するのはコーチから、というルールを作ってあるからである。分析結果の中には戦略上、選手に伝えた くない情報や映像もある。これを分析班が判断することはない。監督、コーチが判断するものである。分析班を含めた第三者が、チームの望まない情報を提供し た場合、チームがチームとして機能しなくなってしまう危険性をはらんでいるため、このようなルールを作った。これは分析班として活動した当初から現在まで 変わっていない。

 分析活動とそのフィードバックの結果、日本チームは初日のディフェンスの問題点を修正し、エストニアの攻撃をよく防ぎ、また、その隙をついた攻撃を繰り 出し、36-18とダブルスコアで勝利した。同様の分析作業を翌日も実施し、日本チームは3戦全勝の優勝で同大会を終えた。

 大会における分析活動は上記のような流れであるが、分析班の分析結果は最終的にテクニカルレポートとしてまとめ、その後の強化に役立てる資料としてい る。これは2003年から毎年続けている。特に、JHAはNTS(ナショナル・トレーニング・システム)という一貫指導のシステムを構築しており、ここで 選手を育成するための指針を策定するために、このテクニカルレポートは欠かせないものとなっている。

 話しは変わるが、本年度からJHAは強化部の下部に情報科学専門委員会を設立した。委員会設立には2つの理由がある。一つは2年間の分析班の活動が認め られ。強化部の中に明確にそのポジションが位置づけられたことである。そしてもう一つは、科学部門との密接な連携が見込まれるようになったためである。分 析チームの大会の分析結果を踏まえ、ナショナルチームに必要なスキルやフィットネスを明確にし、一貫指導に反映させていく、このようなシステムの完成が将 来、日本のハンドボールが世界を舞台に活躍するためには必須であり、情報科学委員会の設立はその第一歩であると考えている。そして、JISSとの連携はこ こにもある。本年度の医・科学研究事業では「ハンドボール競技者に必要な体力要素とその評価法に関する研究」という研究テーマで、体力面からとらえたハン ドボール選手の評価法の確立を目指している。今後も、JISSとJHAがよい連携関係を保ち、その結果、オリンピックで日本のハンドボール選手が活躍する 場面を分析する日が来ることを切に願っている。


※本文は「国立競技場」平成17年9月号に掲載されたものを転載しました。

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