ツルのひとこと

 

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第18回  季節のうつろいを大切に

浅見 俊雄

 

  浅見俊雄イラスト
  あさみ・としお
1933年生まれ.
国立スポーツ科学センター長.
(財)日本サッカー協会顧問、
アジアサッカー連盟規律委員会委員、文部科学省中央教育審議会委員など.

 前回三猿を書いたせいか、書かざるがしばらく続いてしまった。担 当者からの督促もあって何を書こうかあせっていたとき、通勤途上の和菓子屋さんの店先に立てられた水ようかんののぼりが目に入った。そういえば三猿を書い たころは寒餅つきますの張り紙があったと記憶しているし、さらに雛あられ、桜餅、柏餅と代わって、今は水ようかんである。頭の回転が遅くなって、ものを書 くのが面倒くさくなっている私とは違って、季節は着実に時を刻んでうつろっていることを実感させられた。

 東大で体育の教員をしていた頃は、実技も担当していたから、季節のうつろいを肌で感じることが出来た。それが今のような生活では、通勤での朝夕の歩きとたまの外出の時以外は、窓に目をやらなければ雨にも風にも気が付かないという情況にある。

 かつては八百屋に並べられた野菜や果物で季節を感じることが出来 たものだが、今はいつでも同じようなものが並んでいる。輸入品を含めて柑橘類は種類こそ違えいつでもあるし、スイカも値段こそ季節で違うがいつでも食べら れる。イチゴもいつが旬なのか分からないようになってしまった。魚屋でもカツオやサンマがいつでも並んでいて、初ガツオといういい方や秋刀魚という文字も 死に体同然である。そんな中で、和菓子屋の店頭に季節を感じて何となくうれしくなったのである。

 家に子どものいたころは、お節句だとか七夕だとか秋の運動会な ど、季節に絡んだ年中行事が家庭の中にもあったものだが、老夫婦2人だけの我が家では、生活の中にも季節感は薄れ勝ちになっている。それでも、正月の七草 粥、お鏡開きに始まって、豆まき、菖蒲湯など日本の伝統的な年中行事は何となく続けている。それをしないと生活のリズムの落ち着きが悪いような気がするの である。

 最近は地球環境のひずみからか、暑さ寒さといった気象の基本的な 変化にまで異常が出現しているようだが、それでも日本には、四季という気象の変化とそれにともなった自然の変化というすばらしい月日の流れがあり、それに 合わせたさまざまな行事や習わしが受け継がれてきている。八百屋や魚屋、そして生活空間に気節感がなくなってきている今だからこそ、自然にある季節のうつ ろいや、それに合わせた年中行事や習わしを大切にしたいと思うのである。

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