第17回 見ザル、聞かザル、言わザル
浅見 俊雄
|
 |
|
あさみ・としお
1933年生まれ.
国立スポーツ科学センター長.
(財)日本サッカー協会顧問、
アジアサッカー連盟規律委員会委員、文部科学省中央教育審議会委員など.
|
よく言われる「見ざる、聞かざる、言わざる」がどんな意味を持っ ているのか知らなかったので、今年はさるどしでもあり、ちょっと調べる気になった。広辞苑で「みざる」を引くと「三猿(さんえん)」参照とある。そこで 「三猿」を引くと、「三様の姿勢をした猿の像」でその姿勢の説明があり、「見ざる、聞かざる、言わざるの意を寓したもの」とある。これではどんないわれが あるのかさっぱりわからない。
次にインターネットで「三猿」を検索して、いろいろあるサイトの 中から、東照宮にある彫刻が有名なので日光観光協会のホームページを見てみた。それによると、「三猿(ここではさんざると読ませている)」は、神厩舎の長 押(なげし)の上にある、人の一生を猿の一生にたとえて描いた8面の彫刻のひとつで、子どものときは悪いことを「見ザル、言わザル、聞かザル」(右からこ の順で彫られている)という教育的意味をこめたものであるという。なぜ馬屋かというと、昔から猿は馬を病気から守るとされ、室町時代までは猿を馬屋で飼う 習慣があった、とある。
面白くなって別のサイトを見ると、なんと三猿は日本だけのことで はなく、中韓はもとより、ヨーロッパやアフリカなど世界中にあるものだとわかった。英語ではThree wise monkeysといわれ、悪魔よけ、厄除けのお守りとして親しまれているようである。中国も三賢猿である。
さらに興味は深まって、ついに「世界の三猿」という本まで買って しまった。文章は少ないが、世界の三猿の置物の写真がたくさん紹介されている。また四猿というのもあって、それは「せザル」で下半身を抑えているから面白 い。五猿もあり、お尻を抑えていて、エイズの脅威を先取りしている。三猿の起源は明らかではないが、インド発祥という説もあり、日本が起源ではないことは 確かなようである。論語にも「非礼なことは見るな、聞くな、言うな、するな」という教えがあるようだ。
知ったばかりのサル知恵をひけらかすつもりではなかった。この教 訓のうち悪いことを言わざるはその通りだが、目や耳をふさいでしまっていいのかを問いたかったのである。サルはともかく、人間は悪いことを含めてしっかり と見、聞き、調べ、その上で考えて、良いと思うことを言い、行動すべきだと思うのである。たとえ子どもであっても、わざわざ悪いことに触れさせる必要はな いが、何が良くて何が悪いのかを教え、自分で判断することが出来るようにするためにも、まったく目や耳をふさいでしまうのは良くないと思っている。無菌状 態はかえって抵抗力を弱めるだけである。
|