第5回『ディベイト的考え方の奨め』
浅見 俊雄
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あさみ・としお
1933年生まれ.
国立スポーツ科学センター長.
(財)日本サッカー協会顧問、
アジアサッカー連盟規律委員会委員、文部科学省中央教育審議会委員など.
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アメリカなどでは学校でdebateの教育をするということを聞いたこと がある。Debateを辞書で引くと思案する、議論するなどとあるが、名詞の複数に賛否対立する論議という訳がある。学校では、ある課題について賛成派と 反対派に役割分担して、その立場で論拠をあげて主張しあい、議論の優劣を競うというやり方をするようである。以前日本で大学の弁論部がこうした大会を開い たことがあるが、そのときの課題は「オリンピックは参加することに意義があるのか、それとも勝利することが大切なのか」というものだったと記憶している。 それを直前の抽選でどちらの立場かが決まって議論を始めるのである。
日本人は議論するのが下手だと日頃から思っているので、日体大の大学院で何度かこのdebatesを試みてみたが、自分の考えとは違う側に回ると、うま く主張ができずに、すぐに相手の言い分を納得してしまうので、白熱した議論にはならなかったものだった。屁理屈でも何でもいいから自分の側に有利な論拠を 見いだして相手を論破するようにいうのだが、日頃の自分の考え方とは異なる見方や論点がなかなか見いだせないようなのである。
何もわざわざdebatesをすることはないが、自分の考えだけに固執するのではなく、時には意識して異なる考え方や見方に立ってみて、自分の考え方へ の反論を頭の中でしてみることは、自分の考え方の正当性を深める上でも有用であるし、頭を柔軟にすることにも役に立つように思われる。またよく考えてみた ら、自分のそれまでの考え方を修正しなければならないというようなことも起こり得るだろう。
他人と意見が違って議論しなければならないようなときも、相手の側にもなってみて論拠を探してみると、相手の立場も理解できるだろうし、そこから自分の主張を修正したり、あるいは補強できたり、また議論の落としどころも自ずと見えてくるものである。
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