スポーツと二人三脚

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第51回 好(い)いかげんといいかげん 2009年11月13日


笠原 一也

 

  国立スポーツ科学センター センター長 笠原 一也
  かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長  
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.

 以前、大学に在職中、事務局のある課長から「笠原先生はいいかげ んですね!」と言われ、「なに! いいかげん?」」と聴き直したら「好いかげんと言ったのです。」と言いなおした。改めて落ち着いて考えてみると私のことを言い表す言葉として的を射ている なと思ってしまった。
 「いいかげん」を辞書で見ると二通りの意味があって、よい程あい、適当という意味と徹底しないこと、深く考えず無責任な意味とがある。

 このことから考えてみて、私の今日までの仕事ぶりを振り返って、全力で死に物狂いにぶつかって取組んだのはどの位あったのだろうか。それほど多くはない ように思うからである。正にいいかげんではないが、よい程あい、好い加減に取組んで来たように思う。自分の精神的体力、肉体的体力からして常に本気で物事 にぶっかっていたら疾うの昔に壊れていってしまっていたのではかと思っている。

 今まで、全力を傾注し精神を、肉体を消耗しきって壊れていった友人たちを数多く見てきてしまった。
 そのようなこともあって、若い後輩たちの集会で話しをする機会があり、偉そうに「人生には全力を傾注しなければならない時はそれほど多くないと思うので、 そのときは命がけで頑張ることが大切だが、平素はいいかげんでは駄目だけど、好いかげんに過ごすことも大切。遊び心を持つことが大切。」などと人生訓を話 したことがある。

 その会に出席していた先輩から「いい話を聞いた。これから使わせてもらうぞ」と、そして「そうなんだ、人生いいかげんじゃあ駄目だけど好いかげんが大切 なんだ」と言ってくれた。物事に本気で全力でぶっかって行けば多くが解決すると言う人がいるが、人それぞれの能力には差があるので必ずしもそうとは言いき れず、ゆとりを持って臨むことも大切ではないかと思っている。

 自分の能力がどの位なのかを知ることは難しいのかもしれない。自信過剰で過信しすぎている人、過小評価していて才能を出し切っていない人等々色々であ る。良き師、良き指導者、良き上司、良き仲間に巡り会い適切な指導、アドバイスを受けて自分の能力をできるだけ100%近く発揮したり、引き出せるように することが人を大きく成長させていくことになるのではないかと思う。

 スポーツに関係した仕事に従事してきたことから数多くのスポーツ選手達を見てきたが、まったく同様のことが言えるのであって、良き指導者に、良き環境に 恵まれず優れた素質を持ちながらそれを発揮することなく埋もれていった選手がどの位いるのだろうかと考えてしまうのである。

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