スポーツと二人三脚

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第35回 ゆれうごく北京五輪の聖火 2008年5月9日


笠原 一也

 

  国立スポーツ科学センター センター長 笠原 一也
  かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長  
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.

 今回、リレーされている北京五輪の聖火は、恒例により古代オリン ピック発祥の地ギリシャのオリンピアで採火されたあと、130日間をかけて五大陸をめぐり13万7000キロをリレーし、中国に運ばれ、国内をリレーして 2008年8月8日午後8時から始まる開会式で点火される。

 その北京五輪の聖火がまさにゆれうごいている。

 北京五輪の聖火が通過した海外の都市では、激しい抗議や妨害にさらされ、厳重な警備の中をリレーされたこともあって、日本での聖火リレー会場となった長野市では厳重な警備体制が敷かれて実施された。
 長野では、多少の小競り合いはあったものの、予定通り、無事に聖火リレーが行われたことにホッとしているが、平和と友好の使者であるべき聖火リレーがど うしてしまったのだろうか。特に10年前、長野五輪を経験した長野市民はどんな思いで今回の聖火リレーを見守ったのだろうか。
 長野五輪での聖火リレーは、予想をはるかに超える人々が連日沿道に押し寄せ、歓迎の笑顔の中で拍手と歓声に迎えられ、送られてリレーされていたのに。

 従来、聖火リレーは、開催国内で引き継がれていくのが通常だったのだが、前回のアテネ大会から史上初めて、五大陸を回り世界一周する長大なルートをたど ることになった。この計画は、オリンピックがふるさとのアテネに帰ることを記念して、過去の夏のオリンピックを開催したすべての開催都市と象徴的な数都市 を選んで、五輪の五つの輪に象徴される五大陸を回ることにしたのだといわれている。しかし、今回の騒動で聖火リレーそのものの意義まで疑問視されてしまっ た。

 私は、このコラムでも書いたように長野オリンピック聖火の採火式に立会い、その聖火リレーの企画にも関わった者として、ヘラ神殿での採火やオリンピアか ら第一走者を送り出したことを思い出しながら、今回の聖火リレーの報道に接するたびに非常に悲しい気持ちになってしまった。

 なぜこんな思いをしなければならないのかと一番悲しんでいるのは聖火自身なのではないだろうか。

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