第22回 |
北京オリンピックで競泳・体操の決勝が午前中になったことについて |
2007年3月23日 |
笠原 一也
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かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.
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北京オリンピックの競技日程で、競泳全種目及び体操の団体・個人総合の決勝が、午前中に実施されることになったことに触れてみたい。
新聞報道によれば、米国向けの放送権を有する大スポンサーのTV会社が北米地域でのゴールデンタイムにあわせるため要求したことによるとされている。
国際オリンピック委員会(IOC)はソウルオリンピックなど過去にも同様のケースはあったと述べているが、選手は普段と違う時間にピークを合わせること が必要となり、ベストパフォーマンスを妨げることになるのは間違いないとの記事となっていた。
この背景には以前から指摘されていたように、オリンピックの巨大化や商業主義化してきたことが大きく、オリンピックマーケティングの総収入の半分を占め るのは放映権料であることからそれを支払うテレビ局の発言力が増大してきているのである。そして、IOCも近年このようなスポンサーに対して配慮し過ぎて いるように思えてならない。
2006年のトリノ冬季オリンピックで特にその印象を強く持った。トリノの町のメイン広場がスポンサービレッジになっており、幔幕で覆われ一般市民は入 れないようになっていたり、組織委員会のスポンサーがフィアット自動車になっていたため、駅前ビル上の日産自動車の広告が布で覆われていたり、長野オリン ピックでは市内にオリンピックグッズがあふれていたのに、トリノ市内には見当たらずグッズは限定された場所でしか販売されていなかったことなどなどであ る。
このようにIOCがスポンサーの意向に配慮しすぎるようになると市民・選手不在となって、オリンピックが、世界の異文化が集いそれを楽しむ場でなくなってしまい、盛り上がりに欠けてしまうことを危惧してしまうのは考えすぎなのだろうか。
北京オリンピックの競泳、体操の決勝を午前中に実施することに対しては、欧州などの公共テレビが加盟するEBCも、オリンピックは開催地がどこであれ決 勝は夜に行う伝統を守っていかないと混乱を招くとIOCに抗議し、日本のNHK会長も遺憾の意を表明していた。
でも、水泳、金メダリストの北島選手や、体操、金メダリストの富田選手などはこのことを冷静に受け止めてくれていることが救いである。
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