スポーツと二人三脚

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第21回 A面、B面を持つスポーツ選手 2007年2月28日


笠原 一也

 

  国立スポーツ科学センター センター長 笠原 一也
  かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長  
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.

 この冬、スキージャンプの金メダリスト、原田雅彦選手の姿はジャ ンプ台に見ることは出来なかった。トリノ五輪を最後に引退したのである。アルベールビル、リレハンメル、長野、ソルトレイクシティー、トリノとオリンピッ ク5大会を飛び続け、多くの話題、感動、感激を私達に与えてくれた原田選手に改めて本当にご苦労さん、そして有難うと申し上げたい。

 この原田選手の特徴は、出来、不出来が極端に現れる点であり、このような選手を、私は“A面、B面を持つ選手”と言うことにしている。
 今の時代では理解されないかもしれないが、A面、B面とは音楽のレコード盤のことで、売り出そうとするメインの曲をA面に、そうでない曲をB面に録音していたと聞いていたので、それを参考に表現したものである。

 原田選手のように素晴らしい能力を持ちながら、スランプではないのに、ある時極端に悪い結果になる選手がいる。アテネ五輪体操団体金メダリストの水鳥選手もある時「出来、不出来の波のある選手だった」と言っていた。
正に、スキーの原田選手、体操の水鳥選手などはA・B面選手の代表と言えるのではないかと思っている。

 私はかつて水泳の指導者として頑張っていた時代があるが、能力がありながら、出来、不出来が極端で、試合で泳ぎ出してみないとその調子が分からない選手 に出会ったことが何回かあった。「今日はA面だ!頑張れるぞ」とか、「B面なので駄目だ」とか、スタートして一かきしてみないと調子が分からないのであ る。

 原田選手の結果を見ると、リレハンメル五輪ジャンプ団体は確実に金メダルを掌中にしたのに原田選手の失敗で2位に。長野五輪のノーマルヒルは1本目トッ プで金メダルに届きながら2本目の失敗で4位に、ラージヒルでは1本目失敗で7位、2本目の成功で3位となり銅メダル獲得。団体では原田選手の1本目失敗 で4位とハラハラさせたが、2本目は大ジャンプで金メダルに輝く。コーチも原田選手の調子を把握しきれなかったのではないかと思っている。だってA面、B 面選手なのだから。

 原田選手は世界の頂点でこのA面、B面を思いっきり発揮し、多くの国民に感動を与えてくれたが、競技スポーツを目指す選手にはこのようにA面、B面を持 つ選手がいる。その特徴に気がつかない指導者によって潰れていった選手も少なくない。このこともJISSでの研究テーマの1つになるのではと思っている。

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