第13回 |
水泳1500mは本当に1500mを泳いでいるの? |
2006年6月27日 |
笠原 一也
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かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.
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日本水泳連盟名誉会長である古橋会長と個人的に飲む機会が時々あり、(古橋会長は今はもっぱらノンアルコールビールだが)その席での話しである。
会長から「今の水泳1500mは1500m泳いでいないのでは」と疑問を投げかけられた。世界水泳連盟副会長、アジア水泳連盟会長であり、かつて 1500m自由形で世界記録を数々塗り替え、フジヤマのトビウオといわれた古橋会長の発言である。正にドッキリ発言である。
でも言われてみるとなるほどと思えるのである。今、自由形や背泳ぎでは、折り返しで手を着かず、その前で身体を回転させるクイックターンにより足で壁を 蹴って折り返す。それに比べて、平泳ぎやバタフライは、従来と変わりなく、折り返しは手を着きそれから足で蹴ってターンしている。
確かに同じ距離を泳いでいるとは思えない。
故に古橋会長が言っているように、当時の1500mと今の1500mでは距離が違っているといえる。ルールの改正、用具、機材、ユニフォームの開発・改善などの関係により、似たような話はスポーツ界では数多く聞く。
スキージャンプのスキー板の長さなどもその1つであるが、代表的なのは棒高跳ではないだろうか。竹の棒を使っていた時代からみると、今のグラスファイ バーでのジャンプは、その弾力を利用してのジャンプであり、1936年のベルリンオリンピック・棒高跳、友情のメダルで有名な西田さん、大江さんはどのよ うに思っているのだろうか。
しかし、同じ種目で距離の長さが異なるのは水泳の自由形と背泳ぎだけではないかと思う。古橋会長はこんなことも話しておられた。今の選手達がコースラインも見えない、波も消えない細いコースロープの昔のプールで泳いだらどうなるのかなと。
私達は過去の記録と現在の記録を単純に比較することがあるが、過去の状況などを充分理解したうえでのことが大切ではないだろうか。古橋会長の発言は現在のスポーツに対する1つの警句ではないだろうかと思っている。 |