スポーツと二人三脚

第11回 トリノオリンピックで出会った怖さと親切 2006年4月28日

笠原 一也


  国立スポーツ科学センター センター長 笠原 一也
  かさはらかずや
1938年 埼玉県生まれ
国立スポーツ科学センター長
和歌山県保健体育課長,文部省競技スポーツ課長,JOC事務局長、東京女子体育大学教授など歴任し現職.

トリノオリンピックについてはJISSのホームページにも書いているが、変わった思い出があるので忘れないうちに紹介してみたい。

トリノオリンピックは、前半多くの日本国民をいらいらさせていたが、女子フィギュアの荒川静香選手の金メダルで、そのいらいらも一気に吹き飛び、最高の 視聴率を稼ぎ出したといわれている。日本には「終わりよければすべて良し」という言葉がある。正にそのとおりになったが、厳しい結果は二年後の北京オリン ピックに向けて多くの教訓を与えてくれたのではないかと思っている。

私はオリンピックの前半を視察したのだが、トリノの街に着くや関係者からトリノではスリに気をつけろといわれ、窃盗団が大挙してトリノに来ているとの話 もあった。事実、JOCの関係者でもホテル内でかばんをこじ開けられたという。貴重品は身に着けていたので被害はなかったが、同日、同ホテルで4件の被害 があったそうである。

私が、オリンピック競技の合間に市内で博物館を見学していた折、館内のガイドが英語で話しかけてきた。最初は良く意味が分からなかったがどうも私のかば んの口が開いていたので、そんなふうにして街を歩くとスリに会うと注意をしてくれているようだった。お礼を言って別れたが、早速その夜、満員のバスに乗っ たら、後ろからどんどん人が押してきて私の長いコートがまくれてきたので不思議に思い、手を後ろに回すと財布のところに手がかかっていた。強く手を振り 払ったため幸い被害には会わなかったが、油断も隙もないということである。

一方、ショートトラック競技を視察するためバスを利用したのだが、迷ってしまったので乗客の若い女性に地図を片手に声を掛けると、私がどぎまぎするほど 体を寄せてきてイタリア語で説明してくれた。よく理解できないでいると近くのおばさんも輪に加わり、また一人、また一人と集まり4人のイタリア女性に囲ま れることになってしまった。そこにボランティアのユニホーム姿の若い男性が加わってきて自分が案内すると言ってくれた。てっきり、ショートトラック競技会 場に向かうボランティアだと思っていたら、どうも家路に向かう途中にわざわざ案内してくれたようであった。

博物館の案内人やボランティアの人の親切さ、またスリなどの怖さを味わったトリノオリンピック、正にオリンピックは色々な文化の集う場でもある。

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