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スポーツ施設の安全管理 ~第6回(最終回)~「 法的対処法など」

瀬戸口 祐剛
セノー株式会社 営業本部・企画部・企画課長
財団法人 日本体育施設協会
スポーツ施設研究所 専門委員

 万一、スポーツ事故が起きてしまったら、指導者や管理者は、(1)刑事責任(刑法に基づく刑事罰)、(2)民事責任(民法に基づく損害賠償)、(3)行政責任(関係法に基づく、指名停止や営業停止各種の効力停止などの処分を受ける)、(4)社会責任(新聞やテレビ等の報道による制裁:利用者・利用団体からの指摘を受ける)などの問題解決を迫られることになります。訴訟に発展した場合、最終的には社内法務部や弁護士と協議しなければなりませんが、そのような問題に発展する前に当事者と誠意をもって解決に当たることが望まれます。

 被害者への対応には、陳謝(状況を適切に説明)・誠意(苦しみを和らげる表現)・補償(治療費や慰謝料など)・反省(再び同じ事故を繰り返さない決意再発防止策)が必要です。また、被害者の被った実質的な損害を救済するための補償も適切にしなければなりません。

 そして事故の際は被害者の人命救助、被害拡大の防止に最善を尽くすのは当然ですが、後の問題解決のために、事故が起きたときの状況をできるだけ正確に把握し、記録しておくことも重要でしょう。

法的責任の構造

 法的責任が問われることを恐れて、被害者に対して誠意を尽くさないことは、道義的にも望ましくなく、かえって紛争や問題を大きくしかねません。もしも安全に対する万全の配慮をして活動していれば、法的責任を裁判で問われても、法的責任を負う判決が下ることはありません。指導管理の立場の人は、事故の責任についての基礎的な法律知識を持ち、法的責任がどのような場合に発生するのかについて十分に理解しておく必要があります。

 スポーツの中で法的責任が追及されるのは、故意であろうが過失であろうが、何らかの事故が生じた場合に限られます。故意によるスポーツ事故は単なる事故でなくなり、刑法上の問題に発展します(刑事責任)。

 民事責任が問題となる場合は、スポーツ事故によって不法行為責任(民法709条)が発生する要件がそろったときで、(1)故意または過失、(2)他人の権利ないし利益を違法に侵害、(3)責任能力、(4)因果関係から検討されます。

 判例から見る安全対策として、「事故現場やその付近でのスポーツ施設の利用状況はどうだったのか」「事故現場のスポーツ施設自体の構造上の危険性の存否」「とるべき安全対策は最大限どれを選択するのが正しいのか」「具体的に管理責任者としてどんな安全対策を選択して講じていたか」などの観点からスポーツ施設の指導者・管理者の法的責任を判断されます。

 また、事故が発生した場合に対処する指針として、「人命救助など果たすべきことを果たす」「事故の事実関係を把握する」「先例を学ぶ」「説得と論証」「仲間、後援会の信頼を得る」「自己の行動に正しいという確認を持つ」ことが重要となります。

 

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