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「平成22年度 第8回主要スタジアム情報交換会」 報告

 国立競技場では、スタジアムにおけるより良いグラウンドコンディションの維持や、施設の管理運営の方策について情報交換を行う場として、また、国内スタジアム間の連携を一層強めることを目的として、主要スタジアム情報交換会を年1回開催しています。

 今回は、1月25日(火)・26日(水)に福島県にあるサッカーナショナルトレーニングセンター「J ヴィレッジ」で開催し、全国より38施設85名が参加しました。

1日目 基調講演

高田豊治氏
㈱日本フットボールヴィレッジ代表取締役副社長

 今年の基調講演は、『J ヴィレッジの現状について』と題し、サッカー界の悲願であったナショナルトレーニングセンターが福島県に設置され、1997 年7月のオープンから13年を経過したJヴィレッジの現状について、運営主体である㈱日本フットボールヴィレッジで長年運営に携わっておられる高田豊治氏からお話しいただきました。

全体会の様子
全体会の様子

 まず、施設の設立経緯や、サッカーを通じたスポーツ振興への貢献、交流人口の拡大による地域振興への貢献を柱とした経営目的を掲げながら、緑あふれる広大な敷地に天然芝フィールド、アリーナ、ホテル施設などを備え、日本代表をはじめとするトップ競技者から、地域住民まで多くの方に利用されている現状を紹介していただきました。

 特に高田氏が強調されていた点は、利用実績と地域振興への貢献についてです。オープン以来、2010 年11月現在で来場者総数は約662万人にのぼり、宿泊者数は約57万人となっています。施設利用者に提供する食事には、福島県内の食材を多く使用していることや、地元旅館組合への宿泊斡旋も約24万人にのぼることから、地域経済への貢献は非常に大きなものになっているそうです。地域とともに生きる施設として、地域貢献を意識的に実践しているJヴィレッジの取組みは、参加されたスタジアム関係者にも参考になる点が大きかったのではないかと感じました。

 一方では財政面での課題を抱えていることもお話しいただきました。経済状況の変化もあり、オープン時から比べて企業協賛金の落ち込みが激しく、経営状況は決して楽観できないようです。支出の削減は必要ですが、ナショナルトレーニングセンターの機能を維持するため、芝生の維持管理経費など必要な経費は確保しなければならないという強い責任感を感じさせる高田氏のお話に、参加者も真剣に耳を傾けていました。今後は、新たな事業スキームを構築しなければ生き残っていけないという危機感を持って事業に取り組んでいかなければならない、という決意を表明し、講演を締めくくっていただきました。

 スポーツ振興や地域振興に貢献してきた実績をきちんと整理し、アピールしていくことや、経営環境の変化に対応した新たな事業スキームの検討が必要であるということを改めて認識させていただく、貴重な機会になったのではないでしょうか。

第1分科会(スポーツターフ部門)

 スポーツターフの維持管理に関する問題を考察する第1分科会では、芝生維持管理の取組み事例と、「屋根による日照不足に対する管理の工夫について」をテーマに2施設の事例紹介がありました。

芝生維持管理の取組み事例

○Jヴィレッジ
『J ヴィレッジにおける開場からこれまでの芝生維持管理について』

 11面ある天然芝フィールドをいかに維持管理していくか、今後の課題を含め発表されました。 年間を通じた使用と現地への適合性を考えた草種の選定法や管理機械の紹介、刈り芝の処分方法の検討等について、今後、参加者がそれぞれのスタジアムを管理していく上で大変参考になったのではないでしょうか。

屋根による日照不足に対する 管理の工夫について(事例紹介)

(1)フクダ電子アリーナ
『球技場の日照状況と芝生管理について』

 スタンド上の屋根被覆率90%という環境が芝生に与える影響について発表していただきました。 屋根を取り付けるにあたり、一部の屋根を透過性にする等のアイディアが盛り込まれましたが、その効果については確かなものはなく、芝生が傷みやすい等の問題点が上がりました。 改善策として、アンダーヒーティングや人工の太陽灯の使用などがあげられ、大変参考になったと、参加者からも意見が寄せられました。

(2)埼玉スタジアム 2002
『屋根による日照不足や通風問題とそれらが芝生の維持管理に与える影響等について』

 日照不足(日陰等)の影響による芝生の生育の片寄りを最小限にするための管理方法や、気温の問題を改善するため採用された地温コントロールシステムの効果等について発表されました。 暖房運転・冷房運転の両方を兼ねている地温コントロールシステムは、世界的に見ても実例が少ないことから、参加者の関心を呼んでいました。

第2分科会(管理運営部門)

 スタジアムの管理運営に関する問題を考察する第2分科会では、2 つのグループに分かれ、それぞれ別のテーマと共通テーマについて意見交換がされました。

第2分科会の様子
第2分科会の様子

ディスカッション

Aグループテーマ
『コンサートツアーの総括』

 近年、大規模スタジアム等でのコンサートが恒例化し、全国のスタジアムでコンサートが行われていますが、コンサートを実施するにあたり、各スタジアムにおいての様々な工夫や課題について意見交換が行われました。

 その中で、日程調整の難しさ、陸上トラック・天然芝の養生方法や本番時の音に対する近隣対策等について、各スタジアムの実情に合わせ試行錯誤している実例を挙げて幅広い議論が展開されました。

Bグループテーマ
『主催事業の工夫と課題』

 各スタジアムが行っている主催事業について、スタジアムツアー、スポーツイベントやフリーマーケット等の実例を挙げて情報を共有し、課題やノウハウ・工夫点等について意見交換が行われました。 その中で、参加者を増やすための広報、協賛企業やボランティアとの係わりなどの事業実施体制、イベントを通してスタジアムとイベント参加者が直接的に交流するための工夫など、幅広い事案について議論が展開されました。

共通テーマ
『お客様の居心地の良いスタジアムとは』

 お客様の居心地の良いスタジアムとはどの様なものなのか、また、そのためにできる取組みや工夫について意見交換が行われました。 管理運営する立場のスタジアムがお客様の目線に立ち、スタジアム到着から退場時まで時系列で追いながら、主にお客様の動線やスタジアム内外のサイン表示、スタンド座席や飲食売店等について、良い部分を共有すべく、積極的に意見交換が行われました。

2日目 施設見学

シート下の芝の状態を確認する参加者
シート下の芝の状態を確認する参加者

 2日目は、J ヴィレッジ近隣に2006年度に新設されたサッカーのエリート教育機関であるJFAサッカーアカデミー福島の柊寮(男子寮)と、J ヴィレッジのグラウンドを見学させていただきました。

 グラウンド見学では、養生シート下の芝生を熱心に観察する参加者の姿が印象的でした。その他、管理機械の展示も行われ、移動中は各所で意見交換が飛び交うなど、参加者の芝生に対する興味や熱意が感じられました。

 今回の情報交換会では、意見交換の場を多く設けることで、それぞれのスタジアムが持つ課題やその改善策について共有できたことはもとより、より具体的な議論に発展し、持ち帰るものも多かったのではないかと感じています。今後も引き続き、この会が有益な情報交換の場になるよう、また、スタジアム関係者間のより良い交流の場となるよう、更なる充実に努めたいと思います。

 

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