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スポーツ施設の安全管理~第2回~「事故防止のポイント」

瀬戸口 祐剛
セノー株式会社 営業本部・企画部・企画課長
財団法人 日本体育施設協会 スポーツ施設研究所 専門委員

スポーツ施設の安全管理 タイトル

 事故防止は多くの現場で最大の命題になっており、如何に事故のリスクを減少させるかが課題となります。事故の原因には、「スポーツの持つ特性(内包する危険性)」「利用者自身の不慣れや過信による不注意」「指導者・管理者の過失」「施設・設備・備品の瑕疵」などがあげられ、その対処法を確立することが重要です。
スポーツのリスクマネジメントは、最小限の費用で事故を防止することや事故の再発を防ぐことです。「事故防止・回避、危険の減少、安全の確保」のために「質の高い活動・サービス提供」を可能にするポイントについて述べたいと思います。

(1)ルールの遵守

スポーツには、特性に適合した競技性と安全性の両面からルールや器具規格などの基準が規定されています。いかにルールやフェアプレーを守っていても不可抗力は常に存在し、不可避的な事故(衝突、転倒など)は起こってしまいますが、事故を最小限にとどめるには、指導者は安全指導の一つとしてルールを守ることを徹底させる義務があります。事故やけがに対する賠償責任を問う訴訟において、その原因となった行為がルールに抵触していないかどうかが判断の基準になることもあるそうです。

(2)指導計画の立案

事故やけがの防止に不可欠となるのが、適切な指導計画となります。計画を立案することで、リスクに対する事前準備が可能となります。競技前のメディカルチェックや問診の実施、個人差(年齢・性別・習熟度など)を考慮した指導を心掛けます。また、最新の科学的知見はもちろんのこと、危険対応マニュアルの更新、指導能力や危険回避能力の向上も併せて行います。(スポーツ指導者資格の獲得、学会・研究会へ参加することをお勧めします)

(3)自己管理の徹底

もっとも大切なことは、利用者自身が自己の能力や体力レベルや既往症などを十分に把握し、安全に関する自己管理の意識や責任を持つこと。無理をせず、中止する勇気も必要となります。(教育の徹底:水分補給のタイミングなど)同時に指導者の気配り(アドバイス、ドクターストップなど)も必要です。

(4)施設・設備・備品の管理

スポーツを行う「事前→活動中→事後」において、使用する用器具の不具合や破損などがないかの確認、施設や設備に問題がないか点検マニュアルに従い日常点検を徹底します。そのため、指導者や管理者が施設や用器具を正しく維持管理するための知識や技術を身につけることや専門業者による定期的な保守点検も事故を未然に防止するためには大変重要になります。修理予算の事前確保、点検スケジュール、重要部品定期交換スケジュールなどの計画も必要です。(予兆には敏感に対応する:「壊れそうだけど大丈夫かな」ではなく即修理など)

(5)自然環境への対応

スポーツ活動は行われる場所や環境も多様なため、競技別に特有の対応が必要です。共通性の高いものに暑熱環境下での熱中症や落雷の発生といった天候の変化への対処も必要となります。環境条件を把握し対処することが大切です。(熱中症指数モニターによる測定、落雷の危険性がある場合は即中止の指示など)

保険への加入

保険をかけることは、事故防止には直接つながりませんが、リスクマネジメントにおいて事故発生に備えた対策として不可欠となります。そのため、利用者や指導者及び管理者も保険に加入することをお勧めします。スポーツで利用されている保険制度は、活動中や活動場所への交通経路での事故に支払われる傷害保険と他人や物件に被害を与えた場合の賠償責任保険があります。(スポーツ安全保険に関しては財団法人スポーツ安全協会へ)

事故防止を意識するあまり、スポーツ本来の楽しさを欠いてしまっては本末転倒となってしまいます。事故防止対策は、常に継続的改善や質の向上を高める必要があります。計画を立て、実施し、結果を評価し、改善することで、次につなげるというサイクル(PDCAサイクル)を確立させることが大切です。

(次回は「事故後のポイント」についてです。)

 

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