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芝生の話 「なぜに国立競技場の芝生は美しいのか? 
~グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記~」

第9回 「新生秩父宮ラグビー場ができるまで!Part.2」

 前回は、ラグビー場がなぜ芝生を張替えなければならなかったのか?その原因についてお話をしました。夏芝の老朽化、土壌中に有機物が堆積したことで、少しずつコンディションが悪化していた、そして定期的な調査により数値にもはっきり表れていました。グラウンドキーパーはこれらの原因を解消するために、芝生の全面張替を行うことを決めました。

 さて今回は、その張替工事が実際にどのように行われたのか?最新の技術とノウハウを駆使して改修された、「新生ラグビー場」誕生までの45日間の記録をご紹介します。

 その前に、改修する前の秩父宮ラグビー場のグラウンドをご覧いただきましょう。


【改修前のグラウンド】

改修前グラウンド左側 改修前グラウンド正面 改修前グラウンド右側

 

 この写真は、改修工事直前に撮ったものです。5月頃は気温的にも芝生が最もよく成長し、青々とする時期です。写真では天気が悪いことも影響していますが、明らかに緑が薄く元気がないように見えますよね。さあ、この芝生が45日後にどのように生まれ変わるのでしょうか。

 今回の改修工事では、老朽化した夏芝と表層から深さ8cmまで堆積した有機物を取り除き、新たに「砂+土壌改良材」を混合した客土を敷き均し、畑で育成された夏芝を張り付けました。それぞれの工程で様々な工夫がされました。工程順にご紹介しましょう。

 

◆既存芝はぎ取り(5月7日~5月9日)
 元気のなくなった芝生を、ソッドカッター(芝生はぎ取り機)で厚さ3cmにはぎ取りました。


【芝生はぎ取り機/ソッドカッター】
芝生はぎ取り機

◆既存床土掘削(5月9日~5月10)
 芝生と同じようにソッドカッターで、今度は既存の床土を5cm厚ではぎ取りました。はぎ取られた芝生と床土は、大型のタイヤローダーで集積され、ダンプで次々と運び出されました。


【タイヤローダーによる掘削】
タイヤローダー

◆床土耕転(5月13日~5月17日)
 耕うん機で、深さ10cmまで耕うんしました。床土をほぐすことで、中にたまった余分な根を浮き上がらせ、それをレーキで取り除きました。

 

【耕うん機】
耕うん機
【回収された根塊】
根塊

 

◆客土搬入(5月21日~5月23日)
 既存の床土と同じ砂(木更津産 vol.4参照)に三つの土壌改良材を超大型のタイヤローダーで混合して、ダンプでグラウンドに運び入れました。混合するタイヤローダーの作業風景は迫力満点です。砂に混合した三つの土壌改良材の種類と効果は以下のとおりです。


【砂と土壌改良材の混合の様子】
混合の様子

(1)有機物分解材
 有機物分解材は名前のとおり、床土に蓄積された有機物を分解する役目をします。vol.8でお話しましたが、張替えなければならなかった原因に「有機物の堆積」がありました。有機物の堆積は、芝生のグラウンドを管理する上で避けられないものですが、この分解材を混合することにより、少しでも堆積を防ぎ、床土を長持ちさせることができます。

 

(2)多孔質セラミック体
 硬質粒状物。微細な気孔(隙間)があるため、床土中に空気や水分を保持することができます。硬質なため、物理的にも変化が少なく、固結しないのが特徴です。

 

(3)ピートモス
 ピートモスの特徴は、水分を保持し、保肥力を高めることです。排水がよく、養分が流出しやすい砂の土壌には、欠かせない土壌改良材です。

 

 以上の3種類の土壌改良材を新しい砂に混合し、ラグビー場に搬入しました。搬入後は、既存の床土とよくなじませるため、再度耕うんしました。

 

◆転圧・整地(5月24日~6月4日)
 整地は機械と人力の両方で行いました。写真のブルドーザーで粗整地をし、その後、測量しながら人力で修正します。ブルドーザーでの整地はまさに職人技です。手元のレバーでブレードを上下左右に調整しながら、ミリ単位の整地をします。特に砂の整地は砂漠の上を整地するようなものですから、変化しやすく熟練、していなければこなすことのできない作業です。

 

【機械による整地】
機械整地
【人力整地】
人力整地

 

◆芝生切出し(6月5日~6月12日)
 芝生は三重県鈴鹿市の畑から切出したものです。この芝生は、ラグビー場同様に砂の土壌で育成され、スポーツターフ(競技用芝生)として大事に管理されました。茎が太く、根もしっかりと深く伸びています。この芝生を厚さ3cm、37cm×45cmの大きさで切出しました。そしてここからが「ミソ」です。砂がついたままの芝生はベルトコンベアに乗せられ、特殊な機械の中へ…。

 

【畑の全景】
畑全景
【切り出し状況】
切り出し状況

 

 下の写真をご覧ください。機械に入る前と出た後の違いがわかりますか?砂付きのまま入れられた芝生は、きれいに砂が落とされ、ヘチマのようになって出てきました。この機械は芝生の根や畑の床土を洗い落とす「芝生洗浄機」です。なぜ畑の床土を洗い流してしまうのでしょうか?
 これは、「洗い芝」という工法で、次のような効果があります。

 

洗浄前
1.洗浄前の芝生
ベルトコンベアへ乗せる
2.ベルトコンベアに乗せられて・・・
洗浄中
3.洗浄機できれいに洗って・・・
洗浄終了
4.出てきたら・・・
芝生マットの完成
5.芝生マットのできあがり!
クールコンテナへ搬入
6.クールコンテナではるばる東京へ

 

効果1: 芝生に付着している害虫や雑草及び雑草の種子を洗い流し、グラウンドへの侵入を事前に防ぐことができます。
効果2: 土壌付きの芝生をそのまま張ると、グラウンドに活着(根が下りる)するまでに時間がかかります。畑の土壌を洗い流すことで、根がとられてしまいますが、芝生はもう一度根を出そうとして活動が活発になり、グラウンドへの活着が促進されます。
効果3: 洗い流すことで軽量化でき、運搬、作業効率の向上を図ることができます。

 

 芝生洗浄機に掛けられた芝生は、蒸れを防ぐため、室温5度のクールコンテナに積み込まれ、遠路はるばる東京まで運ばれてきました。クールコンテナの設置温度はなぜ5度なのでしょうか?「5度」が大変重要な温度なのです。夏芝は5度を境に休眠あるいは活動をします。設置温度が5度以上だと活動を続けます。活動をするということは、それだけ熱を発散するということなので蒸れが生じてきます。逆に5度以下だと夏芝は休眠しはじめてしまいます。設置温度を5度にすることで、芝生の鮮度を維持することがができるのです。

 

◆芝生張り付け(6月6日~6月13日)
 仕上げは、グラウンド面の凹凸修正のために目砂作業を行いました。張り付けられた芝生に上から砂をまいて芝生にすき込みました。

 

【芝生張り付けの様子】
芝生張り付け作業
【目砂作業】
目砂作業

 

 こうして、ラグビー場の芝生張替工事45日間は無事に終了しました。

 

【新生秩父宮ラグビー場】    
改修後グラウンド左側 改修後グラウンド正面 改修後グラウンド右側

 

 改修前の写真を思い出してください。明らかに色の違いがあるのがわかりますよね。今回の改修では、この青々としたグラウンドを造るために、いくつかの工夫がされていました。ひとつは有機物分解材を土壌改良材として床土に混合したこと。これにより有機物の堆積が抑えられ、床土の劣化を遅らせることができます。二つ目は畑です。土の畑ではなく、砂で造成された畑の芝生を使用したことです。砂の畑で育成された芝生は茎が太く丈夫でしっかりとしていました。また、ラグビーという激しい競技に耐えられるようにスポーツターフ(競技用芝生)として、経験豊かな職人さんの手で大事に育てられました。三つ目は洗い芝です。切出した芝生を高圧洗浄することにより、害虫や雑草を取り除き、グラウンドへの侵入を防ぐ効果がありました。また、根を洗い流すことで芝生を活発化し、グラウンドへの活着を促進することができました。その他にも運搬する際には、蒸れを防ぐためにクールコンテナを使用したのも工夫のひとつです。
 様々な工夫が施されましたが、改修後の芝生は順調に成長したのでしょうか?洗い芝は果たして効果があったのでしょうか?記録写真で追ってみましょう。

 

○張り付け6日後 ○張り付け13日後 ○張り付け20日後
白い根が出ているのがはっきりわかると思います。はがすのに多少の抵抗有り。 白い根がさらに伸びているのがわかりますか?もうこの時点で10cm以上の根が伸びていました。 細かい根がたくさん伸びています。比較で置いたライターも巻き込んでしまう勢いです。
6日後 13日後 20日後

 竣工から約3か月間にわたり育成・養生が行われ、グラウンドキーパーの努力と自然の恵みを得て完璧なグラウンドに仕上がり、新生秩父宮ラグビー場として、9月の開幕戦を無事に迎えることができました。緑の芝生の上で繰り広げられるスピーディーで迫力あるプレーは、観客に大きな感動と満足感を与えてくれたことでしょう。

 さて次回は、国立競技場で行われたイベントについてお話します。国立競技場の歴史的イベントといえば…あげればきりがないですよね。国立競技場というと、陸上競技場、サッカー、ラグビーなどなど様々な大会が開催されますが、その中でも特異なイベントといえる「コンサート」のお話です。題して「唄う国立競技場♪」。芝生を観客席として行われたこのコンサート、グラウンドキーパーがぶつかる更なる問題とは?果たして芝生の運命は…?どうぞお楽しみに!

 

 

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