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芝生の話 「なぜに国立競技場の芝生は美しいのか? 
~グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記~」

第6回 「大自然の小さな助っ人」

 前回は、砂床構造の極意「30㎝と0.5㎜」のお話をしました。粒径0.5㎜の砂で造成した厚さ30㎝の床土が起こす摩訶不思議な現象、しかしその現象には、長年に渡る研究者の英知と技術の結晶が詰まっていたというお話でした。少し難しかったでしょうか?  
 さて今回は、みなさんの身近にいてグラウンドキーパーに芝生の危機を知らせてくれる「大自然の小さな助っ人」をご紹介します。

 芝生は1年を通してあらゆる環境下で日々過ごしています。特に日本は四季があるので、暑さ、寒さ、雨季など年間の環境の変化が激しく複雑で、芝生にとっても管理するグラウンドキーパーにとっても良好なコンディションを維持するのに様々な苦労があります。

 良好なグラウンドコンディションを維持するためには、毎日、芝生をよく観察することが大切です。芝生の体調がどんな状態で、何を必要としているのかを読み取るのです。芝生の健康状態を把握することで、その時々に合った管理を行い芝生の健康を維持しています。

 しかし、毎日観察していても、芝生の微妙な変化に気付かないこともあります。例えば病気や害虫に侵されていても芝生の色が変わるというような、大きな変化がなければ気付かないこともあるのです。芝生の元気がなくなったり、枯れたりしてから気付くのでは手遅れになってしまうこともあります。そんな芝生の危機的状況を前もってグラウンドキーパーに知らせてくれる「大自然の小さな助っ人」がいるのです。  

 芝生の危機を知らせてくれる「大自然の小さな助っ人」みなさん誰かわかりますか?家の周りにもいるとても身近な生き物です。答えは「ムクドリ」です。ムクドリがどうやって芝生の危機を知らせてくれるのか不思議に思われるかもしれませんが、グラウンドキーパーはムクドリがやってくるのを見るとあることに気が付くのです。

ムクドリの絵

 一体、ムクドリはグラウンドに何をしに来るのでしょうか?グラウンドキーパーがムクドリの姿を最も多く見るのは8月から9月初旬にかけてです。グラウンドに来たムクドリをよく観察してみると、何やら芝生の表面をしきりとついばんでいます。何かを食べているのでしょうか?ムクドリが去ったあとはついばんだ小さな穴と、そこら中に糞が転がっています。そこでグランドキーパーはムクドリの糞を解剖してみました。すると…なんとそこには虫の姿が!そうです、ムクドリは芝生の中にいる虫を食べに来ていたのです。

【芝生に舞い降りたムクドリ】

ムクドリの写真 ムクドリの写真

 実はこの虫が芝生にとって危機となっていたのです。芝生の中にいる虫は芝生を好物とし、根や茎を食べてしまうのです。根や茎は植物体を支え、水分や栄養分を吸収しています。これを食べられてしまうということは、体を支えることができなくなり引っ張ると簡単に抜けてしまったり、水分や栄養分を吸収できずに、次第に元気がなくなってやがて枯れてしまいます。みなさんも食事ができなかったら、元気がなくなってしまいますよね。ところで、芝生の中にいる虫とはどんな虫でしょうか?それではこれから、国立競技場にいる3種類の虫についてご紹介しましょう。

 

 【シバオサゾウムシ】

シバオサゾウムシの成虫の写真
成虫

 ・成虫、幼虫とも根や茎を食害する。 
 ・太い茎の中に産卵する。

 【シバツトガ】

シバツトガの成虫の写真 シバツトガの幼虫の写真
成虫 幼虫

 ・高温、乾燥を好む。 
 ・幼虫は枯草や砂などで「つと」(袋状のもの)をつくる。

 【スジキリヨトウ】

スジキリヨトウの成虫の写真 スジキリヨトウの幼虫の写真 スジキリヨトウの卵魂の写真
成虫 幼虫 卵塊

 ・白い綿のような卵塊を葉に産み付ける。 
 ・卵塊を中心に同心円状に食害する。  

(写真提供「新しい芝草管理マニュアル」)

 この3種類の虫に共通して言えることは、夏に多く見られるということです。特にシバツトガは高温で乾燥した場所を好みます。国立競技場の床土構造を思い出してください。砂で造成されていて排水が良いというのが特徴でした。排水が良いということは逆に乾燥しやすいということでもあります。虫にとって大好物の芝生があり乾燥しやすい国立競技場のグラウンドは恰好のすみかなのです。そして虫に食べられるということは、それだけ芝生が健康で、元気ですくすく育っている証拠でもあります。かといって虫をこのまま放っておいたら根や茎を全部食べられて芝生は元気がなくなってやがて枯れてしまいます。  

 ムクドリが舞い降りることによってグラウンドキーパーは、芝生の中に虫を見つけられなくても、虫がいることを知ることができるのです。ムクドリが舞い降りるということは、虫の発生がピークに達しているときなので、虫を退治するには最適な時期であると言えます。虫を退治するにはいろいろな方法があります。例えばこのムクドリのように虫の天敵を利用するとか・・・でもこの方法はムクドリの気まぐれもあるので…。芝刈りの頻度を高めるのも一つの方法です。成虫は葉に卵を産み付けるので、葉を芝刈機で刈ってしまうことで卵を除去することができます。成虫や幼虫に対しては殺虫剤を使用することにより退治することができます。殺虫剤を使用する場合はただ闇雲に散布するのではなく、その虫に最も効果のある薬剤を選択し、多く発生している時期を狙って散布することによって、少ない薬量、少ない散布回数で最大限の効果を得ることができます。  

 グラウンドキーパーはムクドリのおかげで芝生の危機を知り、それに対して適切な管理を行うことでグラウンドコンディションを維持しているのです。  

 さて次号は、芝生を管理する上で重要かつ職人の命とも言える機械・器具についてお話します。国立競技場で使用されている普段目にすることのない数々の珍機械やおもしろ道具についてご紹介します。お楽しみに!!

 

 

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