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芝生の話 「なぜに国立競技場の芝生は美しいのか? 
~グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記~」

第4回 「水と仲良くなる方法!Part2」

 皆さん長らくお待たせしました。グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記、水と仲良くなる方法!Part2。前回までのあらすじを少し振り返ってみましょう。

 グラウンドキーパーを困らせていた水たまり。なぜ水たまりはできるのか?水たまりが芝生に与える影響は?などなど水たまりに関するエピソードをお話しました。そして、水たまりを解消するためにさまざまな方法を試してみましたが、どれも解決策とはならなかったこともお話しましたね。今回はいよいよ、水たまりを解消する、水と仲良くなる画期的な方法をご紹介します。

 水たまりができる原因の根本となっているもの、それは、芝生の下の「土」でした。土が固まってしまうことによって水はけが悪くなってしまう。土よりも排水性が良く、且つ、植物が育つ土壌とはいったいなんでしょうか?皆さんはもうおわかりになりましたか?答えは「砂」です。砂の上に植物なんて育つの?と思われるかもしれませんが、この考え方は、1960年頃からUSGA(全米ゴルフ協会)のグリーンセクションにおいて砂と土壌改良剤のみの床土を造成する「サンドグリーン床方式」として考案されたもので、土壌の固結防止及び透水性の面で注目を集め、今では、ゴルフ場はもちろん、サッカー場などでも採用されています。グラウンドキーパーがこの方式を知ったのは平成元年のことです。競技場の敷地内に砂で造成した試験圃場を造り、数年間かけて観察しました。下の図は、平成2年に砂で造成した当時のグラウンド床構造です。

図1【平成2年当時の砂で造成した床構造】
平成2年当時の砂で造成した床構造の図
表層構成
 中目砂(粒径0.5mm)      85%
 改良材(ピートモス)        10%
      (タマライト)         5%
 有機改良材(グリーンファイター)3㎏/㎡


中層構成
 中目砂(粒径0.5mm)     100%




排水ホース
 ドレーンホース TGH-50
透水シート
 アピール 長繊維不織布
排水ホース固定砂
 粗目砂(粒径1mm)



 東京オリンピックから芝生を支えつづけた土を30cm削り取りました。図に示した下層部分の玉石層とヒューム管は、造成してから30数年経過しているにも関わらず、その機能は健在だったので下層部分については、引き続き残すことにしました。

 その玉石層の上に、砂が流れ込まないように透水シートを敷きこみ、下層部分の排水が機能しなくなった場合のことを想定し、新たに排水ホースを埋設しました。排水ホースの上に粒径0.5mmの砂を20cm厚で敷きこみます。さらにその上に10cm厚で同じく粒径0.5mmの砂と土壌改良剤を混合したものを敷き込み、砂床の完成です。ここでのキーワードは30cmと0.5㎜。砂床構造のグラウンドの極意はここにあるのです。

 ところで、表層10cmに砂と混合した土壌改良剤にはどんな意味があるのでしょうか?この土壌改良剤は砂の欠点を補う役目をしているのです。砂は排水が良い。しかし、裏を返せば乾燥しやすいということです。また、水分に溶解している養分も流れやすいという欠点があるのです。その欠点を補うものとして、表層10cm(根が張る部分)に土壌改良剤を砂に混ぜ合わせ、水分や養分の流出を防ぐ働きをします。



ヒューム管の写真
写真1【ヒューム管】


造成中の写真
写真2【東京砂漠!?】


 ここで、造成工事にまつわるエピソードをご紹介します。グラウンドを砂で造成するなんてその当時は考えられないことでした。確かに数年かけて試験はしていたものの、実際に広いグラウンドに造成するとなると「本当に大丈夫なのだろうか。」と眠れない夜が続きました。天気の良い日が続くと、砂床が乾き、風で飛散してしまうので散水作業は欠かせませんでした。しかし、何分相手は排水の達人です。撒いたそばから乾いてしまい、周りの人に「東京砂漠(当時の流行歌)だ。」とか「らくだはどこにいるの?」とからかわれたりしました。芝生を植える作業では、はじめは機械を使って植えつける予定でしたが、うまくいかず結局手作業で植え付けることになりました。割り箸を半分に折り、表面に穴を開けて一本ずつ芝生を差し込んでいく、気の遠くなるような作業が続きました。こうして5ヵ月間にわたる工事の末、新生「国立競技場」が誕生したのです。

 

 砂床にすることによって、芝刈りや散水、肥料散布等の作業を頻繁に行わなければならなくなりました。グラウンドキーパーの役割は確実に増えましたが、グラウンドコンディションも昔に比べ見違えるように良くなりました。水たまりができないので、サッカーではボールが止まることもなく、選手のユニフォームも汚れることはなくなりました。何より芝生が丈夫に育ち、常に良好なグラウンドコンディションを保つことができるようになりました。

 ところで、なぜ砂は土と違って排水性が良いのでしょう?砂と土の違いについて2つの要素から検証したいと思います。まず、土壌の区分の基準をご説明しましょう。
 土壌は粒子の大きさ(粒径)によって、区分されています。粒径が小さければ小さいほど、粘土質の高い土壌になり、粒径が大きくなるにつれて砂に近い土壌になります。日本では粒径0.05㎜を境にその区分がされています。

表1【粒径区分表】
粒径区分表

 上の図の粒子が細かいものは、粘土質で形成されています。粘土質の土壌は水分や養分を吸着する力が強いので、保水力、保肥力がある反面、排水性が悪いという欠点があります。逆に粒子が粗いもの(砂)は、粘土質が少ないので排水は良好になります。しかし、排水がよい分乾きやすく、栄養分も流出しやすいという欠点があります。

 もう一つの要素は、土壌の構造の違いです。土壌の粒子には単独にばらばらで存在する「単粒構造」と、いくつもの粒子が集合して形成されたものがさらに固まって存在する「団粒構造」があります。下の図をご覧ください。

図2【土壌構造】

単粒構造と団粒構造

 砂は一つ一つの粒子が大きく、ばらばらに存在します。土は粒子が小さく、その粒子が寄り集まって存在します。そのため、砂は土に比べ変形しにくく、粒子間のすきまが広いのが特徴です。一方土は、変形しやすいので、空隙が広くなったり狭くなったりします。それだけ、芝生管理機械の荷重や踏圧に対して影響を受けやすいということです。

 

表2【砂と土の特性比較表】
それぞれの特性
 ・粒子が粗い

 ・排水性が良い

 ・乾燥しやすい

 ・単粒構造
 ・粘土質が多い(粒子が細かい)

 ・変形しやすく、排水性が悪い

 ・保水・保肥力がある

 ・団粒構造

 

 国立競技場で使用されている砂は粘土質が付着していません。砂を採掘する際にある工夫がしてあるのです。この砂は千葉県の木更津の山から採掘されます。山の地層から色で判別し、黒目土砂と呼ばれる砂を採掘します。採掘したばかりの砂には粘土質や不純物が混ざっています。この砂をそのまま使ってしまうと、不純物により砂の機能(排水の良さ)が落ちてしまいます。また、粒径も揃っていないため、目詰まりを起こしてしまう可能性があります。そのような事が起きないように、採掘された砂は水で2度洗いし、さらに粒径(0.5㎜)を揃えるためにふるいにかけて同じ粒径のもので造成しているのです。ちなみにこの砂山は、100年採掘し続けてもなくならないくらい沢山採掘できるそうです。

 

木更津産砂山の写真

写真3【木更津産 砂山】
床構造改修工事竣工状況の写真

写真4【床構造改修工事竣工状況】

 

 2回にわたってお話しました、「水と仲良くする方法」。その答えは「砂」でした。今回は少し難しいお話になりましたが、お解かりいただけましたか?

  さて、次回のお話は、砂床構造のグラウンドの極意、30cm0.5㎜。なぜ砂床は30cmなのか?粒径0.5㎜の根拠は?次号はその謎に迫っていきます。お楽しみに!

 

 

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