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芝生の話 「なぜに国立競技場の芝生は美しいのか? 
~グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記~」

第2回 「誕生!緑の悪魔」

 皆さん長らくお待たせしました。グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記Vol.2!
前回は、ウィンターオーバーシーディング方式について少しだけお話しましたが、今回は、さらに詳しく、ウィンターオーバーシーディング方式がどんな手法で、国立競技場の芝生をどのように変えていったかをお話していきたいと思います。

その前にまず、ウィンターオーバーシーディング方式をより深く理解していただくために、芝生の豆知識をお教えしましょう。

芝生は大きく分けて二つに分類されます。一つは暖地型芝(*注 生育適温25~35℃)と、もう一つは寒地型芝(生育適温16~24℃)で、これらの芝生の生育が旺盛な季節を表現して「夏芝」、「冬芝」と呼んだりします。ここではそれぞれを「夏芝」、「冬芝」と表記していきたいと思います。
*注 生育適温とは、植物が最もよく生育する気温のこと。

夏芝は、生育適温を見てもわかるとおり、夏に最もよく成長し、冬には茶色く枯れてしまいます。枯れているといっても、前回お話したように、表面上だけが枯れ、地中の根や茎には栄養を蓄え、休眠するのです。暖かくなり始める春先から少しずつ活動を始め、夏に最もよく成長します。もう一つの特徴は繁殖の仕方です。夏芝は、ほふく茎又は根茎と呼ばれる茎を地上あるいは地下から伸ばして、地表面を覆うように繁殖します。

冬芝は、夏芝とは逆に生育適温が低く、秋季から春季にかけて最もよく成長します。繁殖方法は種子で繁殖します。

国立競技場の芝生には、「ティフトン419」という種類の夏芝と、「ペレニアルライグラス」という種類の冬芝が使用されています。

夏芝ティフトン419の写真
<夏芝 「ティフトン419」>

 

 それでは、ウィンターオーバーシーディング方式について説明したいと思います。ウィンターオーバーシーディングとは、簡単に言うと二毛作を連想していただくとわかりやすいでしょう。二毛作は、同じ耕地(畑)に年2回、別々の作物を作付けする手法で、夏季に水稲を栽培し、秋季から冬季にかけて大麦や、小麦を栽培したりします。同様に競技場の芝生も夏季に夏芝、秋季から春季にかけて冬芝の種を蒔くことにより、一年中緑の生きた芝生を育てることができるのです。

冬芝の種の写真 冬芝の種の写真

<冬芝(ペレニアル・ライグラス)の種>

 

播種の様子の写真 播種の様子の写真

<播種の様子:平成12年9月20日>

 

 文章で書くと、簡単な事のように思われますが、現在のような美しい芝生になるまでには、いろいろな苦労がありました。

実際にグラウンドにウィンターオーバーシーディングを実施したのは、平成元年です。今までは夏芝としか付き合いのなかったグラウンドキーパーとしては、冬芝の存在は未知の世界だったのです。「冬芝とはどんな草なのか?」専門書やゴルフ場から知識を得て、場内に実験圃場を作り、冬芝の特性を2~3年かけて観察し、やっと冬芝は国立競技場の仲間入りを果たしたのです。

場内の実験圃場の写真
<場内の実験圃場:中央にあるのは気象観測装置「ウェザー・ステーション」>

 冬でも緑の芝生が育てられるということは、夏だけやっていればよかった芝刈りや散水、肥料散布等を冬にもやらなければならない…。単純に言うと、作業が倍になったということになります。冬の散水なんて手はかじかむし、鼻水は出るしで、もうたまったもんじゃありません。でも、当初は世話が2倍になるのも忘れるくらい、全てが新鮮で、夢中になって管理作業に取り組んでいました。

今までは「冬に芝生が茶色いのは当たり前」と思われていたわけですから、寒い冬に緑の芝生が敷き詰められた光景を見た人達選手、競技関係者、そして観客など、競技場に訪れた全ての人々が感嘆し感動したことでしょう。サッカー元日本代表選手で監督でもあった、(故)渡辺正さんが競技場を訪れた時は、緑色の芝生を指差し、「ありがとう…。」と言いながら、グラウンドキーパーとともに涙したそうです。

1989年元旦の写真
<1989年元旦>
1994年元旦の写真
<1994年元旦>

 グラウンドが変わることによって、そこで繰り広げられるプレーも変化していきました。芝生があることによって、ボールがスムーズに転がり、イレギュラーが少なくなり、ダイレクトパスで展開していくサッカーが可能となったのです。

冬に緑色のグラウンドを作ったとき、グラウンドキーパーは思いました。「もう2度と元には戻れない。新しい時代が来た。」それはまるで禁断の果実を食べてしまった、未知の世界に入り込んだ、そんな期待感と不安感の始まりでした。それ以来、冬芝は「緑の悪魔」と呼ばれるようになり、国立競技場の顔として現在に至っています。

さて次号は、国立競技場のもう一つの改革。それは、水との戦い。今まで天敵だった水!水を制するものはグラウンドを制す!?
次回は水に関するエピソード。水とグラウンドキーパーの戦いを紹介していきます。お楽しみに!

 

 

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