ホーム > 知る・学ぶ > コラム > サポートのたね

サポートのたね競技スポーツの支援に役立つ研究のエッセンス

「サポートのたね」では、JISSで行っている研究の報告をわかりやすくコラムとして紹介します。
ここで蒔いた「たね」が、いつの日かスポーツの世界で花開くことを願っています。

ブログ

07 24

投稿者: サポートの たね
2019/07/24 9:49

スポーツ研究部研究員 長尾 秀行

ウエイトリフティング競技は、「スナッチ」と「クリーン&ジャーク」といわれる2種類の挙上動作を各3回ずつ行います(図1)。そして、それぞれの挙上動作で挙上(持ち上げること)に成功した重量のうち、最も重い重量の合計の大きさで順位を争う競技です。各挙上動作で3回ずつしか試技ができないので、選手は自分の実力、コンディション、狙っている記録、相手との駆け引きを考えて、挙上する重量は慎重に決める必要があります。

スナッチのイラスト

クリーンのイラスト

ジャークのイラスト

図1 上から『スナッチ』、『クリーン』、『ジャーク』

ウエイトリフティングの競技成績を向上させるには、最大挙上重量を向上させるためのトレーニングが重要になります。一方で、実際の競技においては、一度失敗した重量でもその次の試技で成功する場合もあります。つまり、本来であれは成功することができる重量であっても、力の出し方や動作を誤ってしまうと失敗してしまうということです。これらのことから、成功した場合と失敗した場合で、何が違うのかを明らかにすることで、成功させるためには何に注意するべきなのかも明らかにできると考えました。

 そこで、今回はスナッチのバーベルの動き方に着目しました。2017年度のウエイトリフティング世界選手権と世界ジュニア選手権の男子選手におけるスナッチを撮影し、同一選手で同一重量の成功と失敗があり、かつ失敗の場合はバーベルを前方へ落とした場合を対象とし、それらのバーベルの軌跡(図2)を分析しました。

バーベルの軌跡

図2 バーベルの軌跡

61人の選手におけるスナッチの成功と失敗を比較した結果、主に以下のことが分かりました。

・バーベルを挙上した高さは成功と失敗で違いはなかった(図3A)。
・バーベルが後ろに移動した距離は成功の方が失敗よりも大きかった(図3B)。


バーベルを挙上した高さにおける成功と失敗のグラフとバーベルの後ろへの移動距離における成功と失敗のグラフ
図3 スナッチの成功と失敗の比較

スナッチを成功させるには、両腕を伸ばした状態でバーベルを頭上で支える必要があります(図2の右端の状態)。そのためには、しゃがむことでバーベルの下に体を潜り込ませなければなりません。バーベルを高く挙上するほど、バーベルが落下するのに要する時間が長くなり、バーベルの下へ体を潜り込ませるためには有利と考えられます。しかし、今回の分析の結果から、失敗の場合でも成功と同程度の高さまでバーベルを挙上できていたことが分かりました(図3A)。このことから、スナッチにおいて、バーベルを挙上する高さは成否に直接影響しないと考えられました。

  また、両腕でバーベルを頭上で支えるためには、バーベルと体の位置関係が重要になります。このときにバーベルと体が、横から見て前後に大きく離れてしまうと、バーベルを支えることができません。今回の分析では、成功の方が失敗よりもバーベルの後ろへの移動距離が大きかったことが分かりました(図3B)。このことから、失敗の場合はバーベルの後ろへの移動距離が不足し、最後の姿勢において体に対してバーベルが前方に離れてしまった結果、バーベルを支えることができずに失敗したと考えられます。

 ウエイトリフティングは、いかに重いバーベルを挙上できるかを争う競技です。しかし、今回の分析の条件では、スナッチでバーベルを挙上する高さは、成否に直接影響しないと考えられました。一方で、バーベルの後ろへの移動距離のわずかな違いが、バーベルを頭上で支えられるかどうかに影響したと考えられます。その差わずか約2cm程度ですが、そのわずかな違いが結果を左右するということです。

論文の原文はこちら→A Biomechanical Comparison of Successful and Unsuccessful Snatch Attempts among Elite Male Weightlifters

 

Tags:

ページトップへ