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サポートのたね競技スポーツの支援に役立つ研究のエッセンス

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04 15

投稿者: サポートの たね
2019/04/15 13:42

城所 収二、稲葉 優希、吉田 和人、山田 耕司、尾崎 宏樹

卓球競技では、相手に、ボールの飛翔軌道を予測する時間や、予測したインパクト地点までへの身体移動、スイングに費やす時間的な猶予を与えないための戦略的工夫が必要となります。
そのための方略として、ボールの速度を高めることが第1に考えられます。
ラケット速度が一定の条件でボール速度を最大化するには、ボールに対してラケット面を正面衝突させることで得られますが、卓球の場合には、打球がネットを越えて相手テーブルの枠内でバウンドしなければならないことから、ボールに曲線的な軌道を描くよう回転も与えなければなりません。
ボールの回転は、ボール速度を高めるための方策とは異なり、ラケット面をボールの進路に対して傾斜させた状態で衝突させる必要があります。これには、向かってくるボールに対して、ラケット面を前傾させる方法と、ラケット面自体をボール表面の接線方向へ、すなわちトップスピン回転ならば斜め上向きへ移動させる2つの方法があります。

卓球のラリーの中で、最も重要かつ攻撃的なショットがトップスピン・フォアハンドとされています。一流競技者は、このフォアハンドを、ラケットを持つ側の遠いボールに対しては『飛びつき』、逆方向へのボールに対しては『回り込み』と呼ばれる身体移動とともに、ボール速度と回転速度の両方を高める努力を実践しています。

そこで、正確かつ速度の大きいボールの返球を実現させる多くの技術的な相互作用を明らかにするために、熟練した卓球競技者が3種類の打撃局面で行うフォアハンドトップスピンストロークを調査しました。


実験方法

全日本ナショナルチームの代表選手10名(全て男子)に、インパクト位置への大きな身体移動を伴わない課題(以下、チャンスボール)、飛びつき課題(以下、飛びつき)、回り込み課題(以下、回り込み)の3種類の試技(図1参照)を、いずれもフォアハンド・トップスピンで、出来るだけ威力のあるボールを全力で打ち出すように実施してもらいました。3種の打撃局面それぞれについて、成功試技が3球分得られるまで実験を行ないました。

ラケットの運動はモーションキャプチャーシステム(500fps)によって取得し、ボールの運動は3台の高速度カメラ(軌道用2台500fps、回転用1台2000fps)によって取得しました。



図1:左からチャンスボール、飛びつき、回り込み


結果

打球の初速度はチャンスボール(時速82.1±5.8km)と回り込み(時速80.6±4.3km)が、飛びつき(時速74.9±4.0km)よりも有意に大きいことが分かりました。一方、回転速度は122.3~148.1 rps の範囲で記録しましたが、打撃局面間に差は認められませんでした。
インパクト直前のラケット速度は、チャンスボールが最も大きく(82.8±5.4 km/h)、回り込み(76.3±3.6 km/h)、飛びつき(72.7±5.4 km/h)の順に小さくなる結果となりました。
また、インパクト直前におけるラケットの上下進路は、最も水平に近い試技でも水平面から上向き16.8度の方向にスイングしており、下向きに打ちおろすような試技は見られませんでした。さらに、全ての試技がラケットを前傾させてインパクトしていました。

チャンスボールでは、回転速度の大きな試技ほどボール速度も大きく出ましたが、飛びつきと回りこみでは、ボール速度と回転速度との間に有意な関連は認められませんでした。
またいずれの打撃局面でも、ラケット速度がボール速度と回転速度に最も強く関連していました。
さらに、チャンスボールと回り込みでは、インパクト直前におけるラケットの進路が水平に近いほどボール速度が大きいという結果が出ました。

打球の回転速度は、いずれの打撃局面でも、ラケット速度の大きな試技ほど大きいという結果が出ました。また、全ての打撃局面において、インパクト直前におけるラケットの進路が上向きなほど、回転速度が大きくなりました。


以上の結果、ボール速度はインパクト直前におけるラケットの進路が水平に近いほど大きく、反対に回転速度はラケットの進路が上向きなほど大きいことが分かりました。つまり、並進速度と回転速度の増大には異なるラケット操作が必要になります。そのため、両者を共に高めるには、角度の調整ではなくラケット速度の増大が不可欠になります。それでも、チャンスボールにおいて、ボール速度と回転速度の間に正の相関関係がみられた結果は、チャンスボールにおける打点の高さ(テーブルよりも上に0.36m)が、直線的な軌道で打ち込めるほど高かったことが原因と考えられます。しかし、ほとんどのラリーでは、飛びつき(0.23m上)や回り込み(0.24m上)のように低い位置でのインパクトを強いられるため、ネットを越えるために上向きに打ち上げなければなりません。そのため、即時的にはボール速度と回転速度のどちらかを優先させるような技術的な選択が求められますが、長期的にはラケット速度の増大が両者を共に高める重要な要素になります。


その他、こんな研究もしています!
一流卓球選手のフォアハンドトップスピンストロークにおける肩と腰の可動性について
・卓球の打球及び道具の特性評価に関する研究
(近日公開予定)

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