スポーツ医科学最前線

第4回 伸ばしてから縮める:伸張―短縮サイクル運動


尹 聖鎮(スポーツ科学研究部)

 

はじめに
様々なスポーツ競技において短い時間の中で、爆発的に大きな力を発揮することは、優れた競技成績を収めるための重要な運動能力(motor fitness)の一つである。一般的に、このような運動能力を、パワー(筋パワー)として位置づけている。

今回は、国立スポーツ科学センター(JISS)で行っている筋力・筋パワーの測定項目の一つである、「リバウンドジャンプ」について紹介させていただき たい。リバウンドジャンプは典型的な伸張―短縮サイクル運動であり、私は、伸張―短縮サイクル理論をスポーツ現場へ応用するための研究を行ってきた。

伸張―短縮サイクル運動とは?
まず、リバウンドジャンプを紹介する前に、伸張―短縮サイクル運動について説明する。人間は、走ったり、跳んだりする時、地面に対して、自らの体重を受 け止め、もとの状態に跳ね戻す能力を持っている。この能力は、着地する時の衝撃から運動器官の損傷を防ぐためだけではなく、様々なスポーツ場面において優 れたパフォーマンスを発揮するためにも重要である。例えば、陸上競技の跳躍種目における踏切動作、またはバスケットボールやハンドボール等の球技種目にお けるフットワークは、極めて短い時間のなかで、跳ね返るように方向変換する運動能力が要求される。

このような踏切動作やフットワークを行っている時、ふくらはぎの筋肉がどのように収縮しているのかをみてみよう。ふくらはぎの筋肉の一つである腓腹筋 は、アキレス腱という人間の体のなかで一番大きい腱と直列に付着しており、これを腓腹筋―アキレス腱複合体と定義している。この筋腱複合体は、地面に接地 すると同時に強制的に引き伸ばされながら身体のもつ運動エネルギーを受け止め、その後、縮みながらキック動作を行っている。このように筋腱複合体を伸ばし てから縮めるような運動は、伸張―短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle: SSC)運動と呼ばれ、ヨーロッパを中心とした研究グループによって、そのメカニズムが明らかにされてきた。

なぜ、伸ばしてから縮めるのか?

図1 伸張-短縮サイクル運動の遂行能力を評価するための運動

SSC運動を行うことによる利点は、筋を伸ばした後に縮めれば、筋の長さが変化していない状態から縮めるよりも、大きな力やパワーを発揮できるというこ とである。人間が、走ったり、跳んだり、投げたりする時、まず「反動動作」を行うということに着目してほしい。例えば、垂直跳を行う時、勢いよく沈み込む ような「反動動作」を使った場合が、使わない場合と比べて、より高く跳べるであろう。このように反動動作、すなわちSSC運動を行うことによって、大きな 力やパワーを発揮できることを、ほとんどの人は、意識的または無意識的に経験している。大きな力やパワーを発揮できる理由としては、①筋力を発揮するまで の時間を短くできること、②筋を伸ばすことによって、伸ばされまいとする伸張反射が働いて筋の発揮張力をさらに高められること、③筋の発揮張力が高まるこ とによって、筋に直列に付着している腱が「ばね」のように振る舞い、弾性エネルギーを貯蔵・再利用できること、などがあげられる。スポーツ場面では、この SSC運動を専門的体力・技術と関連づけながら捉え、非常に強度の高いトレーニング運動(プライオメトリックトレーニング:台から落下して跳び上がるなど のトレーニング方法)として導入し、競技力向上に貢献してきた。

SSC運動の遂行能力を評価するための運動

図2 伸張-短縮サイクル運動中の筋及び腱の収縮動態

JISSでは、SSC運動の遂行能力を評価するために、典型的なSSC運動であるリバウンドジャンプを行っている(図1)。その理由としては、リバウン ドジャンプにおいて必要とされる筋の収縮様式、筋力の発揮時間、各筋群の活性化状態などが、陸上競技の跳躍種目における踏切の特性に類似していることなど があげられる。したがって、リバウンドジャンプは、SSC運動の遂行能力を評価するためのテスト運動としてのみでなく、トレーニング運動としてもよく用い られている。図1に示したように、選手は、手を腰に当てた姿勢で、「踏切時間をできるだけ短くして、できるだけ高く跳ぶ」ように意識しながら跳躍動作を行 う。リバウンドジャンプを行っている時の腓腹筋―アキレス腱複合体の収縮動態をみてみると、接地と同時に強制的に伸ばされ、その後縮むという典型的な SSC運動を行っていることが分かる(図2)。

SSC運動の遂行能力を評価するための指標

図3 伸張-短縮サイクル運動の遂行能力の評価指標

では、どのようにリバウンドジャンプの遂行能力を、適切に、かつ簡便に評価することができるのか? リバウンドジャンプでは、地面に接地している時の力やパワーが同じであっても、技術と体力の両面を反映する跳躍高が異なる場合がある。一方で、跳躍高が同 じであったとしても、地面に接地する時の緩衝動作や伸張局面から短縮局面への切り換え動作などによって、踏切時間がかなり異なる場合もある。そこで、跳躍 高と踏切時間を用いて、SSC運動の遂行能力を評価するためのリバウンドジャンプ指数(RJindex)を、図3に示したように求めた。RJindex は、大きなエネルギーを発揮して高い跳躍高を獲得する能力と、運動の遂行時間を短くする能力の二つの能力によって構成されている(図3)。JISSでは、 RJindexを算出するために、簡単な測定装置であるマットスイッチを用いて、跳躍高と踏切時間の測定を行っている。このRJindexは、30mダッ シュ、60mダッシュ、立幅跳、立五段跳、および垂直跳など、各種の走能力や跳躍能力との間に有意に高い相関関係が認められている(図子、2000)。し たがって、リバウンドジャンプの遂行能力を高めることは、効果的な技術トレーニングや専門性の高い体力トレーニングを行うために重要である。


最後に
以上のことから、リバウンドジャンプを用いてパワーを測定し、リバウンドジャンプを応用した専門的かつ効果的なトレーニング法を開発することは、パワー アップが要求される日本の国際競技力向上を図るための重要な打開策を提示できる可能性がある。そのためには、選手やコーチが必要と感じる測定方法やデータ を理解し、それに対して科学的な観点から創造的に対応できる能力を兼ね備えることが、JISSに求められている重要な使命の一つであると思う。

今までの常識を破ることで、日本独自の科学的サポートを生み出す。これが真の「挑戦への新しいかたち(New Spirit of Challenge)」ではないだろうか。

※本文は「月刊国立競技場」平成15年3月号に掲載されたものを転載しました。

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