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スポーツ医科学論壇

第11回 パフォーマンス向上のための情報活用


白井 克佳(スポーツ情報研究部)

 

国立のサッカー試合を分析

 2001年12月から2002年1月にかけ、日本サッカー協会の協力を得て、ゲーム分析システムの開発のための試合撮影を実施した。計画では12月24 日の高円宮杯決勝、1月1日の天皇杯決勝、1月8日の高校サッカー選手権大会決勝、そして1月20日の女子サッカーの決勝と、霞ヶ丘競技場を大会会場とす る、我が国各年代のおも立った大会の決勝戦をすべて対象とする。撮影にあたっては、競技場のメインスタンド5階の旧オペレーションルームを使用した。非常 に見晴らしがよく、選手の動きも手に取るようにわかる。おまけに暖房完備ときている。おかげで、撮影は順調にスケジュールを消化している。現時点では天皇 杯決勝まで撮影済みである。

 元サッカープレーヤーとしては、元旦を国立競技場で迎えることができたのは非常に光栄なことである。試合の内容も、J2降格が決まっているセレッソ大阪 が序盤は何度も決定的なチャンスを作るも得点を上げることができず、逆に清水が効果的に得点を重ね、一方的な試合になるかと思いきや、終盤再びセレッソが 猛攻を仕掛け、ついには同点に追いつき延長にもつれ込む、といった展開で、見る側としては見応えがあり、試合内容を分析する者としても分析しがいのある ゲームであった。

ゲーム分析システムとは?

 現在開発中のシステムは、デジタルビデオカメラで撮影した映像をもとに、選手の動きを自動的に抽出し、それをコンピュータ上で再現すると同時に、各種統 計データを算出するものである。また、ここで得られた情報をもとにしてバーチャルトレーニングのための映像を生成する。選手の動きの抽出のための画像処理 は、そもそも日立製作所が持っていた、監視カメラで不審者等の進入を自動的に発見、追跡する技術を応用したものである。選手の動きの分析は、試合を見なが らアナリストが紙に軌跡を書き込んだりしたものだが、これを映像から自動的に抽出するわけであるから、アナリストの手間は省けるし、より質の高い分析を試 みることが可能となるであろう。

 これらに加えて、これまでの分析では難しかった詳細な時系列の分析も可能となっている。昨年11月に科学センターでアジアフットボール委員会のコーチセ ミナーが開催された際に、アジア諸国のトップレベルのコーチに同システムを紹介し、非常に興味を持って受け入れられた。

図1.ゲーム分析システム

システムの今後の課題

 しかし、まだまだ本システムは完成品とは言い難い。4月から試験撮影を繰り返してきた結果、試合撮影側、システム側それぞれに次のような問題点が指摘されている。

 まず、撮影側の問題としてはカメラが強風により揺れるような状況、ユニフォームの色が芝の色に近いような状況では抽出時にエラーが多くなる。システム側 の問題としては、重なると複数の人物を1人として判別してしまうという点が最大の問題点である。当然、俯角(注 見下ろす角度)が浅いときはその傾向が高く、その都度オペレータの手で修正をしなくてはならない。

 現行のシステムでは統計データの算出のバリエーションが少なく、これを増やすこと、それをできる限り自動化することも課題の一つである。試合撮影を重ね、改良を加えることにより使えるシステムの開発を目指したい。

 また、ゲーム分析システムという名の通り、サッカーに限ったシステムではないので、さまざまな種目での活用も検討している。昨年中にバスケットボールで の試験を実施したが、今後、テニスや水球、バレーボール、ハンドボールなどについても試験撮影を実施する計画を立てている。

スポーツ情報の5W1H

 情報機器の発達に伴い、これまでにはなかったタイミングで、これまでにはなかったような情報を得ることができるようになった。たとえば8ミリ、16ミリ といったフィルムによる映写機しかなかった時代では、映像をフィルムに収めてからそれを見るまでには現像という非常に時間のかかる作業があり、現在のビデ オ映像のように、撮ってすぐ見る、というわけにはいかなかっただろう。また映像編集もフィルムを切り張りしていた時代とノンリニアで編集できる現在とは大 きな時間的な違いがある。現在開発しているゲーム分析システムがはじき出す情報もそういった類の新しい情報の一つである。
(注 ノンリニア編集とは、時間軸 にとらわれず、目的のシーンを自在に切り取って編集する方法)

 こういった環境の中で、我々が考えなくてはならないことはより価値のある情報を選択し、より有効なタイミングで提供することである。すなわちスポーツ情 報の5W1Hを考えることに他ならない。どういった理由で、いつ、どこで、誰に、何を、いかにして、情報を提供するのかが競技力向上のためにより効果的な のか、といった事柄を突き詰めていくことが必要となる。

生かすも殺すも

 テレビでプロ野球を見ていて気づいたことがある。打者が自分の打席を終えたとき、特に三振したり、凡打に終わったときに必ず、投手側をじっと見たままダ グアウトに帰っていく。最初は打ち取られた腹いせに投手にガンを飛ばしているのかと思っていたが、最近それがバックスクリーンに映った自身のリプレーをみ ているのだと気づいた。

 科学センターで合宿をはる陸上競技跳躍選手が試技の後、自身のパフォーマンスを1回1回ビデオで確認する。そして次の跳躍のイメージをもって試技にうつ る。こういった類の情報(映像)とそのフィードバックは陸上や、野球のように1回1回のプレーがとぎれる種目では有効だろう。ところが、サッカーのような 種目を考えると、当然試合中は、リプレーを見るような余裕はないはずである。では、ハーフタイムに提供を求められるか、というと必ずしもそうともいえな い。そのことがパフォーマンス向上につながらない、むしろマイナスに働く可能性があるのであれば、監督、コーチは余分な情報を選手に与えたいとは考えない であろう。短いハーフタイムの間にはより洗練された、ポイントとなる情報を伝えることしかできない。しかし、全く不必要であるかといえばそうではなく、選 手には必要なくとも監督、コーチには必要かもしれない。いずれにせよ、スポーツ情報では「適材適所」ということがキーとなる。ゲーム分析システムにおいて もこれらを踏まえつつ、現場のニーズにあったものを開発していければ、と考えている。

※本文は「月刊国立競技場」平成14年2月号に掲載されたものを転載しました。

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