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スポーツ医科学論壇

第8回 スポーツ・運動・からだ (後編)


星川雅子(スポーツ科学研究部)

 

星川雅子―前編では、からだの動きは関節と筋肉の働きの組み合わせによって生み出されていること、また、運動に必要なエネルギーは、筋肉の中で作られて消費され、3種類の作り方があることを説明した。―

 ここで,本題に入る前に3種類のエネルギーの作り方についておさらいしたい.
(1) ATP-CP系 短距離走やジャンプのように瞬間的に大きな力を出す運動で必要とする.
(2) 解糖系 (1)と(3)を必要とする運動の中間で必要とする.
(3) 酸化系 ジョギングやサイクリングのように軽い運動を長時間続ける運動で必要とする.



1. スポーツ選手の体力評価

 運動の種類によって運動に必要なエネルギーのまかなわれ方(エネルギーの作り方の貢献度)が異なる。スポーツ選手の体力の評価には、それぞれのエネル ギーの作り方が大きく貢献していると一般的に考えられている運動をピックアップし、その仕事量やエネルギー消費の推定値を評価するという方法がとられる。

 (1)や(2)でどれだけエネルギーが作られたかをそれぞれ個別に推定する方法は今のところないので、(1)と(2)については、10秒間や30秒間の 全力運動など、特定の条件で一定時間にどれだけの運動量を行うことができるかを評価したり、(2)では筋肉中で乳酸という物質ができるので、筋肉から血液 へと流出した乳酸の濃度を測るなどの測定が行われる。

 一方(3)については、酸素を使ってエネルギーが作られるので、運動中に消費した酸素の量を測定して評価を行うことができる。運動中に消費した酸素の量 は、一分間に肺に取り込まれた吸気に含まれる酸素の量と、肺から出された呼気に含まれる酸素の量との差として測定・評価される。運動中に消費した酸素は、 1リットルあたり約5キロカロリーのエネルギーを作る分に相当し、酸素をたくさん消費できる人ほどたくさんのエネルギーを作りだすことができるわけであ る。

2. スポーツ心臓

 肺で酸素を取り込んだ血液は一度心臓へ戻り、心臓のポンプ作用で全身へと送り出される。その心臓から出た血液が全身を循環するうち、必要に応じて筋肉へ と酸素が移され、エネルギーが作られる。マラソンなど長時間運動を続けるスポーツでは、心臓のポンプ能力が高く酸素をたくさん筋肉へ供給できること、筋肉 で酸素を消費する能力が高いことが、良い成績を残すための必要条件となる。

 「スポーツ心臓」という言葉があるように、持久的なトレーニングをよく積んだ人では全身へ血液を送り出す心臓の左心室が大きく、1回のポンプ作用でたく さんの血液を心臓から全身へと送り出せることが古くから知られているほか、大動脈とよばれる血管の径も持久的トレーニングによって大きくなることが近年明 らかとなった。

 また、陸上競技の短距離の選手とマラソン選手では筋肉の質が違うということについては、本誌2001年3月号のスポーツ医科学論壇「筋肉の科学からスポーツをみる」で高橋研究員が解説したとおりである。

3. 自律神経やホルモンも働く

 筋肉の発揮する力(筋力)が脳から出される信号で調節されるように、心臓のポンプの働き具合(1回の量や回数)も運動の強さに応じて調節される。 ま た、筋肉でエネルギーをつくるために脂肪を使うのか糖を使うのかなども、運動の強さに合わせて調節される。このような調節は自律神経の働きと内分泌系から 出されるホルモンの働きによって行われる。

 これまでに述べたことは、スポーツや運動に関わるからだのしくみ、車でいえば本体やエンジンの形状、機能、メカニズムといったところである。スポーツ・ 運動には、からだの多くの器官の働きが複雑に関与し、どれか一つの働きが単独でスポーツの結果に影響を及ぼすわけではない。そして車と人体の違うところ は、全体のしくみそのものは変わらないが、個々の形状や性能が日々どんどん変わってゆくということである。

 しかし問題はさらに複雑で、F1の成績が車の形状やエンジンの性能・機能だけで決まらずチューンナップの状態、オイル、ドライバーのテクニック、コース 取りやタイヤ交換のタイミングという作戦に大きく左右されるように、スポーツの競技成績も選手の心理状態、栄養状態、身体の動きを調節するスキル、戦術な どに大きく左右される。

4. これから望むこと

 国立スポーツ科学センターでは、様々な競技種目の選手に多数来場してもらいたいと希望している。そして、来場した選手について、個別に、上記のような多方面からスタッフ一丸となってアプローチしようとしている。

 一つの競技成績が生まれる背景には、本当に多数の要因が複雑に関与しており、某テレビ局が10年ほど前に放映した特番のタイトルではないけれど「驚異の 小宇宙・人体」という感がある。この複雑さ・多様さに取り組むため、「あぁ、もっとスタッフが欲しい・・・」。これが、本稿の結語であり、趣旨である。

※本文は「月刊国立競技場」平成13年9月号に掲載されたものを転載しました。

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