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スポーツ医科学論壇

第4回 成長期のスポーツ障害について


奥脇 透(スポーツ医学研究部)

 

奥脇透  1999年に行われたラグビーのワールドカップ直後、4年間に渡って日本代表選手を栄養面からサポートしてくれたスタッフから報告書を受け取った。それ に目を通したとき、「やはりそうなのだ」と確信した一行があった。それは「ジュニア期の食事の取り方がシニアになっても大きく影響している。」という結論 だ。強化合宿中にいくら栄養指導の内容を理解してもらっても、合宿が終わり日常生活に戻ると元の食生活に戻ってしまっている。つまり成長期の食生活がその 後の食生活の基本となるという事実である。ここで強調したいのは「成長期の経験・過し方が非常に大切だ」ということである。


成長期のスポーツ障害
図1.スポーツに必要な能力の発達  今日、少子化や子供たちのスポーツ離れによりスポーツ人口が減少する傾向を危惧する声がある。これに対し「スポーツ振興基本計画」では、総合型スポーツク ラブを発足し競技間でジュニアを共有しようという項目や、一貫指導システムの構築という長期的な視点から子供を育てようという項目が掲げられている。では スポーツ医学としてこの問題に貢献できることはあるだろうか。私は大いにあるとみている。それは“起こるべくして起こっている”成長期のスポーツ障害を減 らす、さらに言えば無くすことである。

運動能力の発達
 図1は成長過程における運動能力の獲得時期を示しており、巧緻性、持久力、身長、筋力の順になっている。特に筋力の獲得の前に身長の発達がピークを迎え ていることが重要な点である。このことはジュニアの指導者は誰でも知っていることであろう。しかし実際の強化育成の現場で、この成長過程を十分に把握して いるのかどうかは疑問である。個々の選手の身長や体重の変化をどれだけ把握しているであろうか。



成長速度曲線
図2.成長曲線と成長速度曲線  図2は身長の平均的な成長曲線と成長速度曲線である。成長曲線をみると、一見直線的に身長が伸びているように見えるが、1年間に伸びる量でみた成長速度で は、10歳後半から急激に身長の伸びる速度が上がっていることがわかる。この時期は第2次成長期であり小学校の高学年に当たる。身長が急激に伸びた選手の 中には筋腱の発育が追いつかず、その結果として柔軟性が低下し、体が大きくなった割に動作が緩慢にみえることがある。その一方で主力として小学校の最後を 飾る大会が控えている時期でもある。指導者側は中心選手として活躍してもらおうと、より強いジャンプ力やキック力を要求しがちである。ここに落とし穴が 待っている。選手は突然、膝やかかとなどに痛みを訴え始める。実は成長軟骨に危機が訪れているのである。

オスグッド病
図3.オスグッド病の症例  図3は成長期の膝痛をきたす代表的な障害であるオスグッド病の症例である。この女子選手は小学校5年生から急激に身長が伸びはじめており、同時にバレー ボールのエースアタッカーになって練習量が増加した時期であった。やがて膝痛が出現したが、そのまま半年ほどプレーを続けたあと病院を訪れた。MRIで は、すでに成長軟骨に一部が膝蓋靱帯に引っ張られ、脛の骨から剥がれていた。結局バレーボールを中断し、復帰するのに1年を要した。このケースの成長速度 曲線をもう一度見てみよう。この曲線は過去の健康診断の際に計測した身長をもとに作成した。9歳から10歳にかけて急激な身長の伸びが起こり、その後に膝 痛が出現したことが改めて確認できる。 

膝痛の早期発見法は?
図4.大腿四頭筋のタイトネス・チェック  私は先ごろ行われた日本膝関節学会で、サッカー少年の膝痛出現と身長・体重の成長速度について発表した。1ヶ月ごとに身長と体重を計測し、膝の痛みとの関 係を調べたところ、膝痛を訴え始めた選手では身長と体重の増加が、膝痛を訴えない選手に比べて有意に大きかったと報告した。またその後の調査では、身長の 伸びとともに、大腿四頭筋のタイトネス・チェックも膝痛の出現に関係していることがわかった(図4)。選手をうつ伏せ(腹臥位)にして、膝を曲げてかかと がお尻につくかどうかを調べるものである。通常は容易にかかとがお尻につくが、大腿四頭筋の緊張が強いと、かかととお尻の間に隙間ができる。ひどい場合に は、無理に膝を曲げようとするとお尻が上がる、いわゆる尻上がり現象が生じる。
要するに成長期の選手では、

(1) 膝の圧痛:選手自ら触れてみること
(2) 身長(体重)の伸び:家庭では体重の方が計測は容易か
(3) 大腿四頭筋のタイトネス

 以上が早期発見のポイントである。このようなときには運動量を抑え、特に負荷のかかるキックやジャンプを避け、その分、基本動作のおさらいやストレッチ ングに時間をかけるように指導してはどうか。運動負荷の質や量には、それぞれに有効なタイミングがあり、タイミングが早すぎると障害につながるということ を十分理解してほしい。

おわりに
 このように成長期におけるスポーツ障害の発生には、強化のタイミングが大きく影響するのである。スポーツ医学の立場からは、「今、何を強化・指導すべき なのか。」を強化育成の現場において、もっともっと強調して問うていくべきであろう。適切な指導が実行されることにより、スポーツ障害の発生をくいとめ、 ドロップアウトを無くし、ひいては競技人口の減少を抑えることにつながるのではないか。将来を見据えた余裕のある指導体制の構築に寄与していきたいもので ある。

※本文は「月刊国立競技場」平成13年5月号に掲載されたものを転載しました。

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