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芝生の話 「なぜに国立競技場の芝生は美しいのか? 
~グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記~」

第5回 「30㎝」と「0.5㎜」

 前回は「水と仲良くなる方法」と題して2回シリーズにわたってお話しました。なぜ水たまりはできるのか?水たまりが芝生に与える影響は?そしてその水たまりを解消するために様々な苦労を重ね、ついにたどり着いた「砂床構造」のグラウンド。その砂床構造のグラウンドができあがるまでのお話をしました。  
 さて今回は、さらにさらに掘り下げて砂床構造の極意「30㎝」と「0.5㎜」のお話。皆さん思い出しましたか?砂床構造のグラウンドには何十年にも渡る研究者(アリ・ハリバンディ博士/カリフォルニア大学)の英知と技術が詰まっているのです。

 それではまず、砂床構造を思い出していただくために、下の図をご覧いただきましょう。

砂床構造の図
図1【砂床構造】 (信濃毎日新聞 平成13年8月10日掲載)

 この砂床構造には、水をコントロールするための様々な工夫がされていることは以前お話しました。そしてもう一つ、水を活用するため、芝生の育成を人為的にコントロールするための画期的なシステムが隠されているのです。

 皆さんもお気づきだとは思いますが、芝生を育てる上で水のコントロールはとても重要な要素の一つだといえます。水をあげすぎると根が下まで降りず丈夫な芝生が育ちません。いつも表面に水分があると、根はわざわざ下まで降りて水を吸収する必要がないので、根が浅くなってしまいます。乾燥に弱くなるのはもちろん、サッカーやラグビーの踏ん張りに耐えることができません。逆に乾きすぎると葉がしおれてやがて枯れてしまいます。理想の管理は、根をしっかり伸ばして適度な水分を供給する。この「適度」な水管理をするために、極意が必要となってくるのです。

 この極意にはどんな秘密が隠されているのでしょうか?それは、土壌中に存在するある一種類の水に関係があるのです。水に種類なんてあるの?と思われるかもしれませんが、それでは、これから土壌中に存在するいくつかの「水」についてご紹介しましょう。

表1【水の種類と性質】

水の種類 それぞれの性質
重力水 土壌中を重力によって移動する水
吸着水 土壌の吸着力によって保持されている水
毛管水 土壌の粒子間に保持されている水

 この3種類の水の中で、極意に深く関係がある水、それは毛管水です。毛管水は芝生に吸収される水で、粒子間の隙間を埋めるように上昇していきます。例えば水を張った容器に食器洗いのスポンジを入れてみると、ジワジワと水が上がってある一定の高さで止まります。これを毛細管現象と言います。土壌中でもそれと同じ現象が起きているのです。水を上昇させる力を毛管力と言います。毛管力は、粒子の大きさや形によって強弱の違いが出てきます。大きい粒子は、粒子間の隙間が広いので、毛管力は弱くなり、水の上昇は低くなります。逆に小さい粒子は、隙間が狭いので、毛管力が強くなり、水の上昇は高くなります。(これは前回「土と砂の特性」でお話したように粒子の大きさが関係しているのです。)砂と土では断然土のほうが毛管力は強くなります。土と砂が混ざっている土壌では、粒径はもちろん、土壌の特質も異なるので、毛管水の動きは複雑になります。土壌性質(土壌の種類や粒径等)が複雑になればなるほど強弱の変化が大きくなります。例えば様々な土壌が混ぜ合わさったようなグラウンドでは、場所によって毛管力の違いが出てきます。水分がたくさんあったり、少なかったり、同じグラウンドの中で土壌条件が変わってきてしまうのです。土壌条件が違うということは、場所によって芝生の生育も微妙に変わってしまうということです。同じ種類の土壌、同じ粒径の土壌でなければ、毛管水も均一に上昇せず、土壌条件が均一なグラウンドを作ることができないのです。つまり土壌条件が均一と言うことは、芝生の生育も均一になるということです。

土壌中の水分の図
図2【土壌中の水分】

 それでは、この「30㎝」と「0.5㎜」という数値を砂床構造に当てはめると毛管水はどんな動きをするのでしょうか?研究に研究を重ねた結果、粒径0.5㎜の砂で30㎝厚のグラウンドを作ると、毛管水は、下から20㎝まで水が上昇することがわかりました。芝生の根は、10㎝から15㎝ぐらい伸びるので、根が水分を吸収できる位置まで上昇しているというわけです。毛管水の上昇が高すぎても低すぎても、良好な芝生管理はできないのです。高すぎると根は下まで降りる必要はなく、根の浅い、踏圧や擦り切れに弱い芝生になってしまいます。逆に低すぎると根が水分を吸収することができなくなってしまいます。「30㎝」と「0.5㎜」にはこのような秘密が隠されていたのです。

 これで水のコントロールは完璧!と言いたいところですが、やっぱり相手は自然の生き物。太陽や雨、風がなければいくら完璧なグラウンド構造でも良い芝生は育ちません。グランドキーパーは大自然に支えられながら働いているのです。大自然に支えられていると言えば、もう一人?芝生の危機を知らせてくれる助っ人がいます。次号は私たちの身近にいる「大自然の小さな助っ人」をご紹介します。お楽しみに!

 

 

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