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芝生の話 「なぜに国立競技場の芝生は美しいのか? 
~グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記~」

第3回 「水と仲良くなる方法!Part1」

 前回は、ウィンターオーバーシーディング方式についてお話しましたが、今回は「水とグラウンドキーパーの格闘記!」。水に関するエピソードについて2回にわたってお話したいと思います。水といってもいろいろありますが、これから紹介する水はグラウンドにできる水たまりの水。その水たまりが競技する選手、そして芝生にどんな影響を与えていたのでしょうか?また、水たまりは、なぜできるのでしょうか?水たまりにまつわるエピソードと、ちょっと難しい図を使って説明していきたいと思います。その前に、昔の国立競技場のグラウンド構造を説明しましょう。

 国立競技場のグラウンドは、利用状況によって芝種の変更はしていたものの、基本的には昭和33年設立当時の土壌に若干の補修を加えながら、利用されてきました。では、昭和39年東京オリンピック当時のグラウンドの断面図をご覧いただきましょう。


土壌構成

黒土………………………65%
砂………………………… 7%
改良剤   (パーライト)…14%
 〃     (テンポロン)… 7%
 〃     (コークス粉)… 7%

目土構成

黒畑土……………………50%
粗目川砂…………………50%
  東京オリンピック当時のグラウンド断面図

 

 ご覧のように当時のグラウンドの土壌は土が主体でした。国立競技場では、「黒土」と呼ばれる土が使用されていました。この土は、関東地方に分布する「黒ボク土」といわれる火山灰土壌の表層土で、軽くて柔らかく有機分、肥料分を多く含んでいます。植物を育てるのに適した土といえるでしょう。

 土と水、これは植物にとって必要不可欠なものです。植物は土に根を下ろし、土から水や空気、養分等を吸収します。しかし、雨が降ると必要不可欠な土と水が厄介者になってしまいます。雨が降ると、グラウンドには水たまりができて、選手やグラウンドキーパーを悩ませ、芝生にも悪影響を及ぼしてしまうのです。

 サッカーではボールが止まり、テクニックを競うのではなく、馬の喧嘩のように単なるボールの蹴り合いになり、ラグビーは敵か味方かも分からなくなるくらいユニフォームがドロドロになります。陸上競技のハンマー投げでは、まるで隕石が落ちてきたかのようにグラウンドが爆発し、泥が飛び散ります。そこらじゅう穴だらけで、芝生も再生不能になるくらいグラウンドが荒れるのです。試合後のグラウンドキーパーの整備といえば、穴だらけのグラウンドに土を補充して整地するのがやっとでした。このように、水たまりは多くの人と芝生を悩ませていたのです。

ハンマーの落下跡
ハンマーの落下跡(※土壌は現在の砂床)

 次に、なぜ水たまりができるのかお話します。敵を制するためには、まず、敵を知らなければなりません。水たまりができる原因は、土壌のメカニズムと深い関係があったのです。

 土壌は大きく分けて3つの要素で構成されています。その3つとは、固体(土)、液体(水)、気体(空気)です。この3つの要素の容積割合を「三相分布」または「土壌の三相割合」といい、それぞれを固相、液相、気相と呼びます。この三相の割合が植物に対する水と空気の吸収に深く関わってきます。では、植物にとって理想の「三相分布」を下の図でご覧ください。

理想の三相分布の図

 図で示したとおり、理想の「三相分布」は固相50%液相25%気相25%となります。この理想値が崩れることにより、グラウンドに水たまりができたり、芝生が十分に生育されなかったりします。では、なぜそのようなことが起きるのでしょうか?

 三相分布が崩れる原因はいくつかありますが、みなさんは小さい頃に泥んこ遊びで泥団子を作ったりしたことがあると思います。水を含んだ土は柔らかくなり、変形しやすくなります。それが乾くと硬い土ができあがります。
 土のグラウンドも同じように、管理機械(芝刈機等)の荷重や人が歩いたり走ったりすることで表面がくぼみ、少しずつ締め固められていきます。先ほどの三相分布の図で説明すると、固相(土)が締め固められて密度が増し、その分、気相(空気)が押し出され密度が減った状態になります。気相(空気)が減るということは、水が通る隙間が少なくなり、排水が悪くなるということです。くぼみができたところは、低くなり、水が流れ込みます。くぼんだ部分は気相(空気)が低下しているため流れ込んでくる水を排水できず、水たまりになってしまいます。これがグラウンドに水たまりができる仕組みです。

 水たまりは主にサッカーコートでいう、ゴール前やセンターサークル付近にできます。ゴール前やセンターサークル付近はサッカー競技の特性上、人が密集するので土壌が固められるのはもちろん、芝生の生育にも良くありません。人が密集すれば、芝生はそれだけ削られます。芝生が自分で回復しようとしても、土壌が固まっているため、十分に根が下ろせず、生育に必要な水分や酸素を吸収できないという芝生にとって最悪の生活環境になってしまうのです。

 つまり、水たまりが解消できれば、芝生の痛みも少なくなり、グラウンドコンディションを良くすることができます。さて、そこでグラウンドキーパーは、排水を良くするためにはどんな方法をとったのでしょうか?皆さんならどうされますか?

水たまりの様子 吸水ローラー
水たまりの様子(昭和63年当時) 吸水ローラー

 

 一般的な方法としては、表面排水というやり方があります。これは、グラウンド表面に勾配を付ける方法ですが、極端にいうとグラウンドの表面をかまぼこ型にするという方法です。しかし、陸上競技の規則では芝生の表面勾配は1000分の1勾配、つまり100メートルの間に10cmの勾配しか認められていません。一番高いところでも地面から10cm、これではあの広いグラウンドに降る雨を排水するだけの役目は果たせません。
 もう一つは表面の水を吸い上げてしまうというものでした。大型の吸水ローラーでグラウンド上を走行し、芝生面の水を吸い上げてしまうというものですが、吸水するそばから雨が降っていたのでは何の意味もありませんでした。それなら、グラウンドに穴を開けて配水管まで直接水を流してしまおうという方法もとられましたが、雨が降るたびに穴を開けていたら、芝生が傷つき良好なグラウンドコンディションを保つことはできません。結局どの方法も一時的な排水になるだけで、水を排除し、グラウンドコンディションを常に良好に保つという根本的な問題の解決策にはなりませんでした。

 これでは、まるで水が悪者になってしまいます。水は植物にとって必要不可欠なものなのに…。どうにかして排水が良くて、コンディションの良いグラウンドはできないだろうか?考えに考えて、グラウンドキーパーは水と仲良くなる方法をついに見つけるのです!

 次回は水と仲良くなる方法Part2!グラウンドキーパーがどのようにしてこの難題をクリアするのかご紹介します。お楽しみに!

 

 

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