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芝生の話 「なぜに国立競技場の芝生は美しいのか? 
~グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記~」

第1回 芝生のルーツ

 今月から始まりました、国立競技場の芝生の美しさの秘密に迫る「グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記」。ご覧になる皆さんに国立競技場の芝生がどのように造られ、育てられ、美しさを保っているのか、詳しくそしてわかり易く紹介していこうというコーナーです。

記念すべき第1回目は、国立競技場の芝生のルーツをたどり、いかにして芝生は美しくなったのか、その経過と歴史を紹介していきたいと思います。

国立競技場は、1958年(昭和33年)4月に設立されました。その当時フィールド内の芝生はアジア大会等の開催のため、各競技場の芝生を参考にして「ノシバ」が使用されていました。また、翌年の第18回オリンピック開催地として決定された事を受けて、競技会場施設の芝生に関する研究機関が設けられました。同機関による実験・研究の結果「姫高麗芝(ひめこうらいしば)」が競技場用の芝生として最良の品種とされ、国立競技場でも採用されることになりました。東京オリンピック後もスポーツに対する関心が高まり、競技場の使用頻度も増えたため「姫高麗芝」より丈夫で、繁殖力旺盛な「ティフトン芝」が1969年に採用され今日に至っています。

 

現在の芝生の全景の写真
<現在の芝生の全景>

 

 この「ノシバ」、「姫高麗芝」、「ティフトン芝」は暖地型芝または夏芝とよばれ、春、夏の暖かい時期に良く育ち、秋、冬には枯れて茶色になってしまいます。熊が春を待って冬眠するように、この暖地型芝として分類される芝生は暖かい時期に活動し、寒い時期は冬眠(休眠)してしまいます。

ここでひとつ問題が発生します。秋、冬といえば陸上やサッカー、ラグビーなどはシーズンの真っ最中で、たくさんの試合が開催される時期です。「そんな大事な時に芝生が眠ってしまうなんて何のための芝生なんだ!」ってことになりますよね。でも、昔は、「冬に芝生が茶色い(枯れる)のは当たり前!」という考え方が主流だったので誰も気にしなかった…と言いたいところですが、気にしていた人達がいたんです。国立競技場といえば、国内のビッグゲームはもちろん、世界的にも注目されるような国際大会なども数多く開催されます。世界の一流選手は、一流の舞台で一流のパフォーマンスを披露して観客を喜ばせます。一流の選手、一流のパフォーマンス、ここまでは申し分ないのですが…。ナショナルスタジアム=一流の舞台、誰もがそう思うでしょう。ところが…芝生が枯れていては一流とは言えません。

1988年12月の国立競技場の写真
<1988年12月の国立競技場>

こんなエピソードがあります。国立競技場で開催されるビッグゲームといえば、サッカーのクラブチーム南米代表と、ヨーロッパ代表が世界一の座をかけて激突するトヨタカップが有名ですが、トヨタカップでは、前日にピッチ(芝生)状態を確認するために、公式練習を行います。練習後、ヨーロッパ代表のチーム関係者がこんな事を言ったそうです。「ところで、明日の本会場はどこにあるのか?」もちろん、この人は本会場がどこかなんてことはわかっています。枯れた芝生の上でサッカーをするなんてヨーロッパでは考えられないことだったのでしょう。

 


とは言ってもグラウンドキーパーは何の努力もしなかったわけではありません。当時は、土埃のグラウンドに枯れた芝生でも、とにかく葉を残すように努力していました。葉が残っていれば緑色に着色をして見た目だけでもなんとか改善できる、「色を付けてでも、青い芝生の上でプレーしてもらいたい。」そんな思いから着色作業は1986年から88年まで行われていました。しかし、いくら葉を緑に染めてもそれはごまかしでしかなく、生きた芝生には到底及ばないのが現実でした。
1999年ジョモカップの写真(中央はロベルト・バッジオ)
<’99 JOMO CUP(中央はR・バッジオ)>

 

 それから、何年か試行錯誤の末、ある事からヒントを得ることになります。そのヒントとはゴルフコースです。アメリカ、オーガスタで行われる世界四大トーナメントの1つ、マスターズゴルフトーナメントは、世界のトップクラスの選手達によって優勝が争われます。オーガスタゴルフコースは国立競技場と同じ「ティフトン芝」が採用されていましたが、ただひとつ違う点がありました。それは、冬も芝生が青い、生きた芝生が育てられているという点でした。これはウィンター・オーバー・シーディング方式(W・O・S)という手法で…なんの事だかさっぱり?と思われている方がほとんどでしょうが、ここからは次回のお楽しみ!

次回は、日本にセンセーションを巻き起こす、ウィンター・オーバー・シーディング方式の紹介。その新しい手法によって国立競技場の芝生がどう変化していくのかをご紹介していこうと思います。

 

 

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