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世界柔道選手権2010 東京大会開催にあたって

世界柔道選手権2010
東京大会事務局

 今回で、男子は第27回、女子は第17回の開催となる「世界柔道選手権2010東京大会」が、国立代々木競技場第一体育館において、9月9日(木)から13日(月)の5日間にわたり開催されました。

 この大会は、国際柔道連盟(IJF)の主催、(財)全日本柔道連盟の主管により、東京都との共催の下、外務省・文部科学省・観光庁・(独)日本スポーツ振興センター、富士重工業(株)、コマツなど、官民の多くの方々のご後援・ご協賛をいただき、世界各地より、史上最大規模111の国と地域から847名の選手を迎え、盛大に開催されました。

試合場全景(写真提供:全日本柔道連盟)
試合場全景(写真提供:全日本柔道連盟)

 本大会は、オリンピック年を除いて世界選手権大会が毎年開催されることがIJFで決定されてから、昨年のオランダ・ロッテルダム大会に続いて2年続けて開催される最初の大会となりました。

 今大会より、出場選手のエントリーも、各国各階級2名、無差別は4名までがエントリーできることとなり、また、「相手の帯より下を腕または手で直接攻撃・防御することを禁止」したIJF試合審判規定の改正、世界ランキング制が導入されてから最初の世界選手権大会であることなど、2年後のロンドンオリンピックを見据えた、話題の多い、熱戦の期待される大会となりました。

 折しも我が国では本年は、講道館柔道の創始者嘉納治五郎師範生誕150年の年であり、また東京での開催は、1956年(昭和31年)の蔵前国技館での第1回世界選手権大会と、これに続く1958年(昭和33年)の東京体育館での第2回大会以来、実に52年振りのこととなり、その意味でも、記念すべき大会となりました。

男子60kg級の平岡選手 (写真提供:講道館)
男子60kg級の平岡選手(写真提供:講道館)

 世界の、そして日本の柔道界を取り巻くこのような状況を背景に、この大会では、今や国際オリンピック委員会に加盟の国・地域数に相当する規模で全世界に普及し、各々の国情に応じた様々な変遷と変化を遂げてきた「柔道」について、再度、その原点を見つめ直し、「原点への回帰と本物の柔道をともに探求していく」契機となる大会にしたいとの願いを込めて、大会のテーマを「原点」と「本物」としました。

 9月9日、大会第1日目の男子100kg超級・同100kg級・女子78kg超級・同78kg級の試合を皮切りに、この大会テーマに込められた願いと期待に応えるかのように、連日、華やかで豪快な一本勝ちの柔道が展開されました。日本の代表選手の気迫のこもった戦いぶりとも相まって、大会は日を追って、目に見えて盛り上がってきました。

 終わってみれば結局、日本代表選手は、男子では66kg級の森下純平選手、73kg級の秋本啓之選手、100kg級の穴井隆将選手、男子無差別の上川大樹選手の4人、女子では48kg級の浅見八瑠奈選手、52kg級の西田優香選手、57kg級の松本薫選手、63kg級の上野順恵選手、78kg超級と無差別で杉本美香選手が優勝し、日本選手は金メダル10個、銀メダル4個、銅メダル9個を獲得、金メダルの獲得数としては国際大会史上最高の好成績となりました。

 世界選手権大会で男子が史上初めて金メダルゼロと終わった昨年のロッテルダム大会から今大会での成績を収めるまでの間、大会に向けての代表選手を始め関係の皆さんのご努力と精進に深甚なる敬意を表します。

小山会「100人三味線」
(写真提供:全日本柔道連盟)
小山会「100人三味線」(写真提供:全日本柔道連盟)

 大会運営面では、世界中から集まった選手・役員の皆様はもちろん、IJFを始め各国柔道連盟関係者、世界各国から応援に駆けつけていただいた多くの柔道ファンの皆様に、世界トップ水準の技と力、気迫に溢れた試合そのものを堪能してもらうことはもとより、日本での大会らしく、「和」を演出の中心に据えて、すっきりとした会場づくりや、世界大会らしい国際色あふれる雰囲気づくり、華やかで楽しい大会演出に努めました。

 開会式での、総勢100人による津軽三味線の演奏や、書道家柿沼康二先生の書道パフォーマンスなどが披露され、多くの来場者からの絶賛の声をいただきました。

 5日間の長丁場にも拘わらず、多くの熱心なファンの声援がとぎれなく館内を揺るがし、また試合の合間には、原宿口側入口のロビーに設けられた大会記念品物販コーナーや柔道展示ブースを囲み、また、巨大柔道着モニュメントの前で記念撮影をするなど、世界中から集まった様々な民族・人種の方々が思い思いに、買い物や展示を楽しんでおられました。白熱した試合と併せて、国際大会の雰囲気を十分に堪能いただけたと思います。

 大会開催の構想から約3年、準備事務局がスタートして1年、ホストテレビ局フジテレビや後援をいただいた産経新聞社さんを始め、全日本柔道連盟のスポンサー企業や観光庁の方、後援団体の職員の皆様、大会運営関係の業者の方々など、総勢70名に及ぶ数多くの多様な方々に大会事務局を構成いただき、各々の分野でのその専門能力を十分に発揮いただきながら、半年以上に及ぶ具体的な準備期間、昼夜を問わずご尽力、ご苦労をいただきました。

 多くの方の汗の結晶として、ひとつの共同制作の作品として、立派な大会が出来ました。もちろん、会場を提供していただきました国立代々木競技場のスタッフの皆様には、準備の初期の段階から全面的なご理解とご協力、ご指導をいただきました。もとより大会会場としてはこれ以上のものはない整備の行き届いた施設ですので、その機能を十分に活用させていただきました。

巨大柔道衣(写真提供:全日本柔道連盟)
巨大柔道衣(写真提供:全日本柔道連盟)

 本大会は、嘉納治五郎師範の生誕150年を記念する大会となり、また、講道館柔道の「原点」と「本物」を十分にアピールできた大会となりました。この大会を通じて、多くの来場者の方に、大会プログラムや柔道展示ブースなどを通じて、嘉納治五郎師範の説くところの、「柔道の修行は攻撃防御の練習に由って身体精神を鍛練修養し、この道の神髄を体得する事である。そうして是に由って己を完成し世を補益するのが柔道修行の究竟の目的である」という人の道につながる柔道の精神と、その背景となる「精力善用・自他共栄」の原理について、更に理解を深めていただけたのではないかと期待するところです。

 この大会を、来年のパリ大会に向けて、柔道が更に深化・発展していく重要なスタート点とすることができました。ご協力・ご支援をいただいた関係の皆様に、重ねて厚く感謝を申し上げます。

 

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