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サポートのたね

「サポートのたね」では、JISSで行っている研究の報告をわかりやすくコラムとして紹介します。
ここで蒔いた「たね」が、いつの日かスポーツの世界で花開くことを願っています。

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投稿者: サポートの たね
2017/03/27 19:03

スポーツ科学部研究員 山辺 芳

「流体」というと何か難しいもののように感じますが、スポーツに関して流体といえば「水」と「空気」を意味します。これらの流体とスポーツとの関係を具体的にあげると、例えば競泳では、選手は水をかいたり蹴ったりして推進力を得るとともに、進行速度と姿勢や体型に応じた抵抗を水から受けています。また水に潜った身体の部分の大きさに比例して浮力も受けています。一方で1/100秒程度の滑走時間の差で勝敗が左右されるアルペンスキー競技では、ターンそのものの技術もさることながら、選手が空気から受ける空気抵抗をできる限り小さくする事で滑走速度を最大限に高めることが重要です。これらの流体から物体が受ける流体力(F)は一般的に以下の式で表されます。
F=1/2 ρU2 CA

ここでF(N)は抵抗力(進行方向と反対の方向に作用する力)あるいは揚力(進行方向に対して上向きに作用する力)、ρは流体の密度(標準大気圧下においてそれぞれ空気の場合:15℃で1.225kg/m3、水の場合:4℃で999.97kg/m3)、Uは速度(m/s)を示し、Cは形状に由来する抵抗係数あるいは揚力係数(無次元)、最後にAは物体の大きさの代表値として投射面積(m2)を示します。この式から単純な比較をすると、ある人が同じ姿勢で水中と空気中とをそれぞれ同じ速度で移動するために必要な力Fは、流体の密度ρのみでその差が決まりますから、水中運動は空気中のそれと比べ約816倍もの力が必要であることが分かります(816≒999.97/1.225)。また、選手がそれぞれのスポーツの目的に合わせて流体力Fをコントロールするためには、自分で姿勢を変化させてCおよびAを変化させることが必要であることが分かります。すなわち、流体力を最適化する姿勢をとることが流体における競技技術の一要素であるといえるでしょう。

流体力の影響が非常に大きい競技の例としてスキージャンプを取り上げます。スキージャンプは約90mの助走路を5秒で滑走し、時速90kmほどの速度で空中に飛び出し、さらに4~5秒程度で120~130mの距離を飛行する競技です。流体力をコントロールする技術的な課題としては、空気抵抗を最小にする助走姿勢を身につけること、その後の飛行局面では、できるだけ遠くに飛ぶための揚力と抗力を得られる空中姿勢と動作を身につけることがあげられます。これらの技術を高めるためのトレーニングを実際のジャンプのみで行おうとすると、前述のとおり1回のジャンプでは、助走は5秒、飛行は4~5秒程度で終わってしまいます。さらにトレーニングとして跳べるのは1日あたりせいぜい10本程度です。自然環境(風、雨、雪)の影響を受けやすい競技であることも考慮すると、技術の習得や新しい技術への挑戦のための練習量を確保するのが非常に難しいことが分かります。そこで私たちは風洞実験装置を用いてスキージャンプ競技における気流環境を再現し、助走姿勢や飛行姿勢のトレーニングを行える環境を構築しました。図に示したように選手は自分の姿勢および作用する流体力をリアルタイムで確認しながら、時間の制限なく(実際には選手の疲労によって15分程度が限界ですが)、様々な姿勢を試すことができます。

選手・コーチの創意工夫による新技術への挑戦をサポートするため、私たちは人形模型などを用いた実験を行うことによって姿勢変化が流体力(揚力および空気抵抗)にどのような影響を与えるのか調べ、新たな提案ができるよう研究を進めたいと思います。


サポートのたね9-1 山辺研究員

サポートのたね9-2 山辺研究員

図 風洞内でトレーニングを行う選手(上図:助走姿勢のトレーニング、下図:飛行姿勢のトレーニング)
ビデオ映像(側面および背面)と選手に作用している流体力(揚力、抗力、合力および揚抗比)とをリアルタイムで表示することによって、選手・コーチは現在の姿勢に作用する流体力を知ることができる。
(2017年3月30日掲載)

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