ホーム > 知る・学ぶ > コラム > サポートのたね

サポートのたね

「サポートのたね」では、JISSで行っている研究の報告をわかりやすくコラムとして紹介します。
ここで蒔いた「たね」が、いつの日かスポーツの世界で花開くことを願っています。

09 19

投稿者: サポートの たね
2014/09/19 8:54

長距離陸上選手や水泳選手が、標高の高い場所で合宿を行っているのはご存知でしょうか?近年、全身持久力を必要とするアスリートにとって、高地トレーニングは広く行われる一般的なものになっています。高地へ赴くだけでなく、同様の効果を期待して、平地に人工的に低酸素環境を作り、疑似高地環境のもと行うトレーニングや合宿も広まりつつあります。
今回のコラムでは、高地、つまり低酸素環境が及ぼす睡眠への影響について紹介します。睡眠はトレーニングで疲労した身体を回復させる重要な要素の一つです。これまでの睡眠と高地トレーニングに関する研究では、2006年の「高地トレーニングがよく行われる程度の標高では睡眠の質は平地と同等である」という研究論文しかありませんでした。しかし、実際に高地トレーニングを行うアスリートの中には、頭痛や「よく眠れない」、「朝、疲れが残っている気がする」などの症状を訴える方々がいることが分かりました。そこでJISSでは、低酸素環境下でのアスリートの睡眠の質について調べてみました。
JISSは、標高3,000m相当まで調節可能な低酸素宿泊室を備えています。この宿泊室で、常酸素環境(平地)と低酸素環境を作り、実験を行いました。
対象は、陸上競技部に所属する大学生および大学院生8名で、常酸素環境(標高22m)と低酸素環境(標高2,000m相当)の両方に宿泊してもらいました。記録したデータは、睡眠中の脳波、眼電図、筋電図、心電図、呼吸で、それらのデータから睡眠の質を比較しました。その結果、疲労回復に重要な役割を果たすと考えられている「徐波睡眠」(※)が、常酸素環境に比べて低酸素環境で短縮することがわかりました。そこで、もう少し標高の低い1,500m相当の低酸素環境を作り、同様のデータを記録しました(対象は7名)。睡眠の質について比較したところ、1,500m相当の低酸素環境と常酸素環境の間に差は見られませんでした。
これらの研究結果から、標高1,500m相当の低酸素環境でのアスリートの睡眠の質は常酸素と同程度である一方、標高2,000m相当になると「徐波睡眠」が減るという形で睡眠の質が低下することがわかりました。
これまでの先行研究で、低酸素環境や高地での生活を続けると、数日の経過とともに身体の適応が起こり、睡眠の質が改善することが知られています。さらに、JISSで行った別の研究では、標高2,000m相当の低酸素環境の場合、日中のトレーニング強度が低ければ、5連泊すれば睡眠の質が常酸素環境と同じ程度にまで適応できるという結果を得ました。
以上のことから、低酸素環境や高地での睡眠の質の低下を回避するためには、標高1,500m相当から数日かけて徐々に標高を高めることが効果的だと考えられます。また、最初から標高2,000m程度で睡眠するのであれば、低酸素環境(高地)に慣れるまでは日中のトレーニング強度を低めに設定し、5泊以上することが望ましいと思われます。


徐波睡眠とは?
睡眠は、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2つに分類され、前者は「筋肉を休ませるための浅い睡眠」、後者は「積極的に脳を休ませる睡眠」とよばれることがあります。
ノンレム睡眠は眠りの深さに応じて、眠りの浅い方(段階1)から眠りの深い方(段階3)へとさらに3段階に分けられます。その段階3に該当する深い眠りのことを「徐波睡眠」といい、疲労回復に重要な役割を果たすと考えられています。

Tags:

ページトップへ