JISSのスタッフ、勤務経験者がJISSでの仕事を紹介します。

09 09

投稿者: ex- worker
2015/09/09 15:14

国立スポーツ科学センター スポーツ科学研究部 トレーニング指導員
2008年6月~2009年3月 Singapore Sports Council
2009年4月~2013年3月 日本スポーツ振興センター マルチサポート戦略事業スタッフ
2013年4月~ 現職
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業界ではかなり珍しい博士号取得者

河森職員インタビュー写真

JISSのトレーニング指導員になるまでの経歴を教えてください。
ストレングス&コンディショニングコーチ(以下S&Cコーチ)としては、かなり珍しいと思います。同じ職種の方の中でも、博士課程まで修了する人は少ないので。私自身、最初はどちらかというと研究に興味があって、研究者になろうとして、この道に入りました。
学生時代はどんなことを学ばれたんですか?
大学は日本の大学でスポーツ科学を専攻し、筋生理学やバイオメカニクスのゼミに入っていました。
スポーツ科学を専攻した理由は?
中学、高校では部活でバスケットボールをやっていましたが、アスリートとして続けていけるほどの才能はなかった。それでもスポーツは好きで何か携わることができないかと考えていた時に、テレビでS&Cコーチの存在を知ったんです。当時、プロ野球でS&Cコーチをしていた※立花龍司さんという方がいて、彼の特集をテレビで観て「面白そうだな」「こういう関わり方があるんだ」と思ったことが最初のきっかけでした。
ただ、最初はそういう職業はいわゆる‘トレーナー’だと思っていました。一般的に言われる‘トレーナー’はアスレチックトレーナー(以下AT)でリハビリがメイン。それとは別にもう少し積極的にトレーニングに関わるS&Cコーチがいるということを知ったのは大学に入ってからで、そこから詳しく勉強を始めました。 ※S&Cコーチとして千葉ロッテマリーンズ、ニューヨーク・メッツ、東北楽天ゴールデンイーグルス等で活躍。
大学卒業後は大学院に?
学部生時代に読んだ論文の著者の先生に師事したいと考え、その先生がいるアメリカの大学院を受けました。当時はS&Cコーチを目指していたわけではなく研究者を志していたんですが、自分の専門分野が実践的な分野で、ある程度現場のことを分かって研究しないと、実践に則していない使えない研究になってしまうなと。アメリカは大学スポーツが盛んなので、大学院にいれば研究をしながら現場での実践も積めると考えたんです。
そもそもS&Cというコンセプトはアメリカで生まれたものです。日本ではS&Cコーチとしてフルタイム勤務している人の数はまだまだ多くありませんが、アメリカでは大学レベルのアマチュアスポーツでもフルタイムのトレーニング専門のスタッフがいて、S&Cコーチの地位が確立されているんです。
アメリカでの大学院生活はいかがでしたか?
陸上部が強い大規模大学だったので現場での経験も積めると期待していたんですが、入学前に師事したいと思っていた先生が別の大学に移ることになってしまって。幸い、先生から「一緒に来ないか」と誘われて別の大学院に入学したんですが、対してこちらはスポーツのレベルは2部で規模の小さいところでした。実践という意味では決して満足はできませんでしたが、研究や勉強の面ではかなり色々と経験させてもらいました。
修士以降はどうされたのですか?
アメリカ留学を考えていた頃、修士で師事した先生とは別に「この人のところで研究したい」という先生が何人かいて、そのうちの一人の先生が、私が修士課程にいる間に母国のオーストラリアの大学に帰られたんです。アメリカの学会等でその先生とは直接お話しをして魅力を感じていて、その大学には博士課程のプログラムがあったのでコンタクトをとり、渡豪しました。

論文に勝る、現場で得られる興奮が進路を変えた

修士、博士と進む中で、具体的にどんなことを研究したのですか?
S&Cの分野の研究と一言に言っても、筋力やパワートレーニングメインで取り組む人もいれば、持久力メインの人もいる。指導する立場としては、当然両方解っていなければいけないけれど、研究者としてはある程度分野を決める必要があります。私は筋力、パワーのトレーニングや測定をメインにしたいと考えていました。さらに、研究する際の手法には生理学的手法とバイオメカニクス的手法がある。自分はどちらかと言えばバイオメカニクス的な手法を使って筋力やパワーについて研究したかった。単純な意味での‘筋力’ではなく、‘パワー’に興味があったんです。
筋力とパワーは違うんですか?
‘筋力’には色々な定義がありますが、一般的に最大筋力は、スクワットなどのエクササイズで1回だけ持ち上げられるバーベルの重さで測定される能力を指します。でも、実際の競技現場では、力を発揮する時間は限られていて短時間で大きい力を出さなければいけない。それに、高速で動きながら発揮する力と、時間をかけてそれだけに集中して発揮する力はそもそも違う。最大筋力はパワー発揮に必要な能力でありそのベースとなる重要な要素ではありますが、それだけでは実際のスポーツのパフォーマンス向上には直結しません。
実際の競技では、重いバーベルを時間をかけて持ち上げるようなタイプの筋力発揮ではなく、瞬間的に大きい力積を発揮しなければいけない。爆発的な力、エクスプロシブパワーの向上や測定が現場では必要だと考えていて、その分野で世界トップクラスだったのが、前述のオーストラリアで師事した先生でした。
元々は研究者を志されていたとのことですが、現場でやりたいと考えるようになったきっかけはどんなことですか?
大学院時代には、トレーニング効果を調べる研究でフィールドホッケーの選手を被験者で使わせてもらうなど、色々な競技の選手のトレーニングに関わらせてもらいました。そういった経験の中で、一つの研究を終えて論文を書いて発表するよりも、トレーニングをしてアスリートの足が速くなるとか筋力が上がるとか、そっちの方が嬉しいと感じるようになって。論文がアクセプトされた時も当然嬉しいんですが、どちらかというと喜びよりも「やっと終わった…」という安堵感の方が大きい。でも、選手のパフォーマンスや体力が上がった時は「うわ~~~~!」っていう喜びで、そちらの方が興奮度が高かったんですよね。
それから現場に方針転換されたんですね。
S&Cコーチとしてやっていきたいとは思いましたが、大学院博士課程までの経験が無意味になるのはもったいない。博士までの知識を活かしながらS&Cコーチができる職場を考えた時に、国や州のスポーツ科学研究機関ならば研究にも関わりつつ現場もできるかなと。国や州の機関を探す中で、Singapore Sports council(現Singapore Sports Institute)が募集していて、縁あって採用されました。
シンガポールではどんなお仕事をされていたんですか?
S&Cコーチととして、強化担当部門でバドミントン代表を担当しました。男女シングル、ダブルスのトレーニングプログラムを作成し、エクササイズを指導する。今と同じような仕事をしていました。その後、家庭の都合で帰国することになり、日本に戻ってきました。
帰国されてからJISSに来られたんですね。
採用当初はマルチサポート事業のスタッフとして、トレーニング指導だけでなく映像サポートもやっていました。平成25年からJISSのトレーニング指導員になりました。

競技の成績には一喜一憂しない

河森職員インタビュー写真

現在のJISSでの業務を教えてください。
大きく分けるとトレーニング体育館の施設の管理・運営業務と、アスリートのトレーニング指導があります。
トレーニング体育館の維持・管理・運営は文字通り館内のメンテナンスや掃除で、マシーンのチェックや器具の購入、調整等があります。アスリートのトレーニング指導では、選手個人からの依頼の場合は選手にカウンセリングをして要望、スケジュール、目標を伺います。チーム単位で依頼があった場合は、コーチや強化担当者に話を聞いた上でトレーニングプログラムを作ります。実際にプログラムを実施する際は、エクササイズのフォームを教えたり、必要に応じて体力測定も行います。その他にも色々な役割が割り当てられていて、私はリオデジャネイロオリンピックのサポートハウスの担当なのでその関連の仕事や、海外からの視察の対応をすることもあります。
JISSで働くやりがいとは?
レベルの高いアスリートの指導ができるのが最大の魅力だと思います。競技のレベルというより、本人のやる気。やる気のある人のトレーニングをできるのが最高のやりがいでですね。
もっと細かい話だと、アスリートがそれまでできていなかったことができるようになると、嬉しいですよね。それまでできていなかった正しいフォームができるようになった、身体が硬くてスクワットで全然しゃがめなかった人がしゃがめるようになった……。細かい日常的な変化はダイレクトに嬉しいです。
大きい大会で選手が好成績を出せば、もちろん嬉しいんですが、そこで難しいのは、良い成績だからといってトレーニングが成功したとは限らないし、あまり良い成績を残せなかったからといってトレーニングが悪かったというわけでもないことなんです。好成績は素直に喜びますが、喜ぶ自分と冷静に判断して今後にどう活かすかを考える自分がいる。競技の成績については一喜一憂しすぎないようにしています。

トレーニングに関することは、専門家を信じてほしい

河森職員インタビュー写真

JISSでの失敗や辛い経験はありますか?
トレーニング指導員としては、「こういう目的でトレーニングがしたい」という選手やチームの要望があって、それを叶えるための手段としてトレーニング方法を決めるやり方が望ましい。ただ、最近は様々な情報が溢れているので、例えば「体幹トレーニングをしてください」と手段ありきで来る人もいる。最初のカウンセリングでしっかりと話を聞いて、「そもそも何がやりたくて体幹トレーニングなのか?」は探るようにはしているんですけど、中にはその根幹の部分があやふやな人もいる。
あるいは、自分の抱えている問題の解決方法として、体幹トレーニングが適切ではなく、もっと別の解決策がある場合も多い。そういう時は「今のあなたにはそれは不要で、こちらのトレーニングが必要です」ということを丁寧に説明しようと心がけてはいますが、「体幹トレーニングがしたい」という手法ありきで来た人にすると、自分のやりたいトレーニングができないことに納得できない場合もあるでしょうし、継続したトレーニング指導が困難になることもあります。
それはもどかしいですね。
自分がフリーのパーソナルトレーナーであれば、クライアントの要望どおりのものを与えるのもありだと思うんです。ただ、今はJISSという国際競技力向上のための施設で働いているので、判断基準は「競技力向上に繋がるかどうか」だと考えています。アスリートが望んでいることが競技力向上に繋がらないのであれば、丁寧に説明をして納得いただいて、あくまでもその選手の競技力向上に繋がることをやるべきだと思っています。
コーチや選手とのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
トレーニング指導員やS&Cコーチとしてできることと、競技コーチができることは違うということを意識してはいますね。私たちは体力を向上させることはできるし、ケガのしにくい身体を作ることもできるけれど、技術を教えることはできない。
例えば競技の中の一つの動きに対して、その動きをするために必要な体力、筋力、パワーが足りないのであれば我々が鍛えてポテンシャルを上げることはできるけれど、実際の動きを教えることはできない。私たちができるのは基礎部分の向上で、基礎を上手く使ってよりよい動きにするのは競技コーチの役割だと考えています。この部分にトレーニングの人間が介入すると、競技の動きそのものに単純に負荷をかけて繊細な技術を崩してしまったりして、マイナスの方が多いですね。

研究者としての訓練が活かされている

河森さんのような仕事に就きたい若い方へのアドバイスはありますか?
……(少し沈黙)。まず、「考え直したら?」って言うと思います(笑)。S&Cコーチを職業にしてご飯を食べていける人は一握りだと思うし、不安定だし、なったからといって大金を稼げるわけじゃないし、好きじゃないと厳しい。やりがいはありますし大好きな仕事ですが、現実的に厳しい世界であるということはお伝えしたい。その上でやりたいという方がいるなら、スポーツ科学関係の大学の学部、学科で学ぶこと、CSCS(全米ストレングス&コンディショニング協会公認ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)の資格を取ることはお勧めします。
CSCSは世界的に通じるスタンダードな資格なので、取得して損はないです。僕は大学4年の卒業直前に取ったんですが、CSCSの受験資格に大学卒業見込みが条件としてあるので、そういった面でも可能ならば大学で学ぶことをお勧めします。
大学以降については、極端な話、研究なんかやったことなくてもS&Cコーチとしてやっていけるんです。ただ、科学的知見をトレーニング指導に活かしたいならば、論文を読めないと活かせない。論文をちゃんと読むためには、自分で研究した経験があるのとないのとでは、全然感じ方が違う。そこまでのレベルを目標にしているならば、博士課程までいく必要はないと思いますけど、修士で一度自分で研究をやってみて論文を書き上げるプロセスを経験することは後々に活きると思います。

河森職員インタビュー写真

今後の目標、将来の夢を教えてください。
短い目標としては、来年の夏季オリンピックが一つの区切りだと思っているので、今はリオの出場権をかけて頑張っているアスリートのポテンシャルをできるだけ上げることに注力して、出場が決まったらオリンピックを最高のコンディションで迎えられるように支援したい。冬季種目の選手も担当しているので、できるだけ競技力向上に尽力して、ケガのしにくい身体作りをサポートしたい。これが今後2年間くらいの目標です。
JISSの契約は4年なので、JISSを出た後はチーム専属のS&Cコーチをやりたいという想いがあります。これまで担当してきた選手やチームは個人競技がほとんどでしたから、チームについてサポートしてみたいですね。それから、自分の博士まで修了したS&Cコーチという経験や知識を広めたいという気持ちがあるので、セミナーや講演等、何かしらの形で情報を発信していきたいですね。
最後に、職業病はありますか?
「細マッチョ」という言葉が許せないですね。細かったらマッチョじゃないだろう!と(笑)

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