JISSのスタッフ、勤務経験者がJISSでの仕事を紹介します。

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投稿者: ex- worker
2016/10/04 15:53

国立スポーツ科学センター スポーツ科学部 契約研究員
2010年3月 大阪体育大学大学院博士前期課程 修了
2010年4月~2012年3月 学校法人浪商学園 大阪体育大学 健康福祉学部 教務事務補佐
2012年4月~ 現職
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スポーツ心理学との出会い

奥野職員インタビュー写真

スポーツ心理学の道に進んだ経緯を教えてください。
私は、保健体育の教員免許を取得しようと思って大阪国際大学に入学し、卒業するぎりぎりまで保健体育の教員になろうと考えていました。大学では、陸上競技部に所属してキャプテンを務めていたのですが、チームメイトとの関わりの中で「同じ出来事でも人によって捉え方が全然違う」ということがめちゃくちゃ気になって、メンタル面のことをもっと勉強したいと思うようになりました。それがスポーツ心理学を学ぶことになったきっかけです。でも、当時大学にはスポーツ心理学を専門に研究されている先生がいらっしゃらず、運動生理学を研究している先生に、スポーツ心理学で卒業論文を書かせてくださいと無理なお願いをして、ごり押しで指導していただきました(笑)。そして、その先生が、せっかくだからもう少ししっかり勉強してみてはどうかと、大阪体育大学でスポーツ心理学の業績を挙げられていた土屋裕睦先生をご紹介くださり、大学院への進学を勧めてくださいました。修士を終了してから教員になっても遅くないのではと言っていただいたこともあって進学を決めました。
大学院で研究を進めて、どんな方向に進みたいという考えになりましたか?
大学院でお世話になった土屋先生は、研究もさることながら、競技現場で選手をサポートすることに力を入れておられる方でした。研究グループとは別にサポートグループを作って研究成果を現場に応用する活動をやっておられたんですね。私は、その活動に参加してメンタルサポートのあり方やメンタルトレーニングの技法を学ぶ中で、大学院を出てもこんな活動を続けたいと考えるようになりました。研究も続けたかったですが、同時に現場で選手をサポートすることも続けたいと。
 それで、修士課程を修了した後は、事務補佐職員として2年間大学に残り、大学の仕事をする傍らで、学生が中心となって活動している心理サポートの実践グループに引き続き参加させてもらい、学生アスリートにメンタルトレーニングの指導をしたり、一対一で相談にのったりするような実践活動をしていました。その間、心理サポートによって選手にどんな変化があったかというようなことを研究論文としてまとめることもしました。
そのあとがJISSということになるわけですね?
はい、大学院での研究や実践の成果を活かすために大学教員になる道も考えたのですが、選手の合宿や競技会に長期的に帯同してサポートしようとすると、通常の仕事として講義を受け持ったり組織運営に関わったりする大学教員ではなかなか難しいとも考えていました。JISSでスポーツ心理のサポート活動に携わっていたOB・OGの方からお話を聞くと、やはりJISSは心理サポートに専念できる、しかもトップアスリートを対象に活動できるということがとても魅力的だと思いました。そのようなわけで、JISSの公募にチャレンジすることにしました。

JISSの心理サポートとは

そして今、やろうと思っていたことができていますか?
はい、トップアスリートに対する心理サポートをメインの仕事として任されているので、非常にやりがいを感じています。やはり現場と関わっていると、いつも知らないことに直面します。知らないことに出会って、それをどう捉えて対処するかを考えてやりとりしていくのは新鮮です。ただ、すごく難しいことでもあります。
具体的に、心理サポートというのは、どんなふうに進んでいくものですか?
心理スタッフの学術的な背景とか、キャラクターにもよると思うんですが、まずは、その選手がなぜサポートを必要としているかわからないといけないですよね。例えば「試合で緊張して困っているんです」という人がきたときに、「そういう時はこうしなさい」と教えて終わるのではなく、その人にとっての緊張とはなんだろうということを考えていくことになります。それを明らかにするには、スポーツ以外の場面のその人のこともわからないといけない。どんな場面で緊張するか、緊張するとどうなるかという質問をしていく中で、その人自身がどんな人なのかを考えていくことになります。そして、どんなことに困っているのか、なぜ困っているのかに目を向けて、どうしていけばいいのかなということを一緒に考えていきます。
選手は「これに困っています」と悩みをはっきりさせてくるものですか?
自ら来る人は、なにかしら困っていることがあると思います。誰かに紹介されて、あるいは連れてこられた人というのは、なぜ自分がここにいるのかあやふやなことが時々あります。そういう場合は、紹介された、連れてこられたことをどう感じているか、という会話から始めます。いずれにせよ、本人の中で困ったことがないままにサポートを続けることは難しいですし、逆に、困ったことが生じたときが、その人が変わりたいというタイミングでもあるので、それがサポートを始めるベストのタイミングだと私は思っています。誰かに連れてこられた人が、特に自分では問題を感じていないような場合がありますが、そういう時には、本人よりも連れてきた人の話を聞くことも大切なサポートだと思います。何が心配なのかとか。
合宿や試合に長期的に帯同するようなときは、どんなことを求められて行くのですか。
はっきりとした悩みや問題を抱えている選手がいるから、ということはあまりなくて、心理スタッフがいてくれると何か困ったことが出てきたときに助かるなあという感じで依頼されることが多いですかね。例えばジュニア世代の合宿というような、思春期特有の課題がある程度予想されるようなときに、そこにきちんと対応したいというコーチの思いがあるとか。でもたいていの場合、特にナショナルチームなどになると、やはり課題はその時その時で変わっていくものだと思います。ですから、現場に出て行って何をすべきなのかが見定められないと、ただついて行くだけの人になってしまいます。かといってズカズカと土足で入っていくような態度だと余計な不安を生じさせてしまいます。チームに帯同してサポートするときは、チームを一人の人間として捉えて、自分に求められていることは何かを考えるようになりました。これはJISSでのサポートで学んだことです。チームに帯同してサポートをするということについて、教科書のようなものはありません。私たちの仕事は、何かを指導するとか何かを提供するといったような目に見えることをすることは少ないので、自分がどのような立場、役割でここにいるのかということを常に自分でも考えますし、チームにも考えてもらうようにしていかないといけないと思っています。
どうやって自分の役割や立場に関する考え方をチームの方と共有するのですか?
実際にやっているのはとても地味なことで、現在のチーム状況をどう捉えているかをチームスタッフに聴いたり、それに対して自分の考えを伝えたりというコミュニケーションを定期的に行うというものです。ただし、そういったコミュニケーションは、選手やコーチに対する理解や、チームのグループダイナミクスなどに関する専門的・学術的知識に基づいて行いますから、ただの話好きなおばちゃんのようには振る舞ってないと思います(笑)。
失敗したこと、難しかったことは?
現場の方からは、心理サポートのおかげで上手くいったと評価してもらうことはありますが、もし自分が関わってなかったらもっと上手くいったかもしれません。そういった、プラスの可能性もマイナスの可能性も常に考えるようにはしています。選手は競技でよいパフォーマンスが発揮できるようにと日々変化していますから、それを私が邪魔をしないように、意味のある伴走者になるということをすごく意識しています。例えば、私が大学に所属していた時のサポート対象は、もちろんスポーツ選手ではありましたが、競技以外の学業や就活なども意識しつつサポートをしていました。でも、JISSで関わっているトップアスリートは、競技に人生をかけている。競技がその人の全てなんですね。ケガをした選手に「ゆっくり休んでください」とは簡単には言えない。休んだら人生が終わりなんですっていう話になる場合もありますから。そういう、誰かが人生をかけてやっていることに関わるということは難しいですね。それがやりがいでもあるのですが。
スポーツ心理学の可能性はどんなところにあると思いますか?
スポーツ心理の専門家がチームに入ると、視点がひとつ増えると思うんです。例えばやる気がないように見える選手がいたとします。指導者の立場だと、どうすれば彼にやる気を出させることができるかと考えますよね。あるいは、やる気のない人がチームに一人いるとチームに悪影響を与えるから外した方がいいんじゃないかとか。そこに私たち心理の人間が関わると、この人のやる気がないということの意味はなんなんだろうとか、やる気がないことの背景はなんなんだろうということを考えます。それによって対応の選択肢が増えるじゃないですか。今はやる気がないように見えても、その後の重要な場面でいい働きをするとしたら、今外すのはもったいない。でもチームに悪影響を与えるならどうするか。もし今外すのがもったいないならば、今は周囲がこんな関わり方をしたらいいんじゃないですか?というアドバイスができます。そういう視点が増えるというのが、今の私の仕事の説明としてはしっくりきます。数年後に、あの時に彼をチームから外さなくてよかったとなるかどうかという話ですから、すぐに結果の出る話ではありませんが。
生涯発達や心理的背景からいろんな可能性を考えながらその人の行動を言語化するというのが私たちの仕事のひとつなので、やる気がないように見えるというその行動も、例えば「何かしら訴えたいことや抱えていることがあるんだろう、しかしそれが言葉にならないので行動に表れるのだろう」と理解したりするんですね。その言葉に出ていないのはこういうところかもしれないというのを翻訳するのがひとつの仕事だと思います。翻訳するだけでも、そのやる気のない態度にヤキモキさせられていた周りの人が少し理解できるようになって関わり方が変わるのではないか。それによってまた選手も変わってくるかもしれない。そういうやりとりのきっかけになれるというのが私たちのいる意味のひとつなんじゃないかなって思います。それもJISSで四年間、現場を目の当たりにして初めて気づいたことです。

次のステップへ

河森職員インタビュー写真

今後の目標、夢はなんですか?
もし、スポーツ心理学の教育に携わるとしたら、トップアスリートに関わった経験に基づいてスポーツ心理学の基礎を教えていきたいですね。あるいは、今と同じようなトップアスリートへのサポートを続ける機会が得られるのであれば、今、競技現場で選手やコーチから学んでいることを踏まえた上で、もっとサポートの内容を高めていきたいです。あとは、今、JISSのスポーツ心理グループとスポーツ心理学会とでネットワークをつくっていこうという動きがでてきているので、そのお手伝いも続けていきたいですね。心理サポートを必要としている選手はたくさんいますが、競技拠点によってはなかなかサポートを受けられない場合もあるので、協働できるサポートスタッフを各地に増やしていきたいと思います。
なにか職業病みたいなものはありますか? 例えば日常生活の中で他人の心が読めて気になってしまうとか…
あの…私たちは超能力者じゃないので、人の心が読めたりなんてしないです(苦笑)。みなさん、誰かと会話している時には、この人はどんな人なんだろうと考えると思うんですよね。基本的には私も同じように考えながら会話をしますし、普通の会話の中でわかることはそんなに多くないです。そういう点でいえば、心理の専門家というのは、「ていねいな会話に基づかないと、その人のことはわからないということがわかっている人」だと思います。ちょっと話しただけでいろんなことが分析できたりなんてしません。この人オープンな人だなとか、この人は他人と距離を置く人だなとかは感じますが、それはもちろん、普通の人が感じるレベルです。ただ、なんで距離を置くんだろうとか、それにはどんな意味があるんだろうという視点を持つと、そのための会話をきちんとすることになります。日常会話とは違う、訓練されたコミュニケーションがそこでは必要になりますね。
奥野さんみたいに、スポーツ心理学を学んでアスリートを心理面からサポートする仕事をしたいと考えている学生さんたちが今増えていると思うんですが、そういう人たちが学生のうちに経験しておいた方がいいと思うことはありますか?
競技をやっているのであれば、まずは競技を一生懸命やること、そして、競技をする中で悩むことだと思います。競技経験なしにアスリートの心理的なサポートをしたいという人も、まずは自分の心について疑問をもつ、自分の心に興味を持つということが大事かなと思います。

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