JISSのスタッフ、勤務経験者がJISSでの仕事を紹介します。

07 05

投稿者: ex- worker
2012/07/05 0:00

現職 大阪体育大学 体育学部 スポーツ教育学科 准教授
専門領域 スポーツ心理・カウンセリング
最終学歴 日本大学大学院文学研究科教育学専攻博士後期課程満期退学

元スポーツ科学研究部契約研究員

現在の業務内容
a.教育活動

私は現在、大阪体育大学体育学部スポーツ教育学科というところで、准教授として勤めています。本学では「スポーツ心理・カウンセリングコース」という、日本の体育系大学では初の「スポーツ心理学」を専門とするコースを開設しています。JISSでの経験を活かし、その開設のためのスタッフとして雇われたということになります。
大阪体育大学スポーツ心理・カウンセリングコースでは、「カウンセリングマインド」を持った体育教師を現場に送り出すことを主たる使命としています。多くの教職を目指す学生に対して、体育の授業だけでなく生徒の「心」をケアできる体育教師がこれから必要とされてくる、という時代のニーズをとらえて開設されました。そうした中で、部活動などに真剣に取り組む高校・中学の生徒さん達に、私がJISSで行っていた「スポーツメンタルトレーニング」の技法指導ができるような教師を輩出できたらとても価値あることではないかと感じています。

私のゼミには毎年10名前後の学生がやってきますが、彼らの多くがスポーツ競技者に対する「スポーツメンタルトレーニング」の指導について学びたいと言ってきます。2010年度からは大学院での指導も始まりました。そのような教育活動の中で、私が無我夢中で行ってきたJISSでの仕事が、これほど学生たちの学びにつながるものなのかと驚かされます。

JISSで我が国エリート選手達にかかわりながら培ってきた心理サポートの経験は、何物にも代えがたい宝物です。今、実際に心理サポートを学びだしている大学院生や学生が、実際に選手に技法指導を実践する上で疑問として持ってくる様々な悩み事や不安なども、多くは私がISSですでに経験していることでした。私の宝箱から少しいくつかの経験を持ち出しては彼らの疑問に答えていくことも多いですが、一方で自分で考えて感じて乗り越えてほしいことは、黙って見ています。私がISSで色々と悩んで、迷って乗り越えていったように、学生たちがその壁を乗り越えてくれるのを祈りながら見つめている、という感じでしょうか。

「スポーツメンタルトレーニング指導論」という学部2年次の授業では、男子学生ばかり100名くらいを対象に授業をしていますが、自分の競技活動と関連が深いせいか、学生たちはとても集中して授業を聞いてくれています。 その中ではISSでの体験の多くを、(秘匿性に配慮しながら)語らせていただいています。同じスポーツメンタルトレーニングの理論でも、ISSでトップアスリートと取り組んだ、という体験談が付録としてついているだけで、学生たちにとっては、より一層興味深いものになるようです。

授業風景

b.トレーニング科学センターでのサポートシステム構築

そして、昨年度からは大阪体育大学の「トレーニング科学センター」という附置センターにおいて、「スポーツ医・科学サポート」のシステムを作り上げ、大学院生を中心に「スポーツメンタルトレーニングチーム」を結成しました。彼らは積極的に学内外のスポーツチームの心理的サポートを行い、また2011年5月には「学生スポーツメンタルトレーニング研究会」という他大学と共同で行う研究会も成功させています。

「スポーツメンタルトレーニングチーム」では、部活動などのチームに対して心理サポートを実施するために、学生たちは主体的に心理サポートのプログラムの作成のための勉強会を実施しています。実践にあたっては定期的に私を含めた数名のスポーツメンタルトレーニング指導士資格取得者の教員たちにスーパーバイズを受けながら、より良い心理サポートを提供できるように工夫をしています。サポートを実践した後は「サポート記録」をまとめ、定期的に行っている「事例検討会」に事例を提供して、自分たちのサポートが正しく行われているかをみんなで検討する機会を持っています。こうした心理サポートの実践の方法論は、ほとんど私がISSで行ってきたものと同等のものです。

約50名が参加して行われた、「学生スポーツメンタルトレーニング研究会」の様子

これらの組織化においては、それこそ私がISSで、多くの若手研究員たちと一緒にディスカッションしながら作り上げていった、ISSの「トータルサポート」の理念がいかんなく活かされています。サポートを要望する運動部などの組織と強化担当者に聞き取りを行い、必要なサポートを要望してもらって、こちらからはサポートのスタッフを派遣する、という形です。ISSで行っていたように、心理スタッフだけでなく他のスポーツ医・科学スタッフと有機的に共同作業を行う、というところまではまだ到達していませんが、いつの日かISSにも劣らないサポートシステムを作り上げていこうと、日々学生たちと奮闘しています。
JISSでの業務内容

JISSでは、スポーツ科学研究部の心理グループ契約研究員という立場で業務を行っていました。勤めた当初は心理担当の研究員は私が一人で、非常勤専門職員として3名の方と一緒に仕事をさせていただきました。その頃は個別に心理サポートをすることや、プロジェクトとしてチームをサポートすることも重要な任務でしたが、何よりも心理サポートの組織を作っていくことが最優先であったように思います。何しろどの仕事を、どのような形で遂行していくか、といったことがほとんど決まっていなかった状態でした。それこそ初めの夏は、夏休み中の近隣大学の大学院生さんたちに毎日のように電話をして、どのように派遣前チェックを乗り切るか、ということに注力していました。まるでどこかのショップの店長さんがバイトのシフトに四苦八苦しているような生活でした。それでも一年もするとスタッフの増員が認められたり、心理データのフィードバックがシステム化されていくなどして、徐々に“組織”が出来上がっていきました。今振り返ってみて、まだ若かった当時の私には、システムづくりというのは少し荷の重い仕事であったと思うのですが、それでも学会等でお知り合いになっていた先達の先生方や、アドバイザーとして東京工業大学の石井源信先生などが親身に相談に乗って下さりサポートしてくださいました。


4年間の勤務の後半は、選手に対してメンタルトレーニングの講習会を行ったり、個別のサポートにだいぶ力を注げるようになりました。講習会では強化現場の指導者の皆様と競技力向上のための熱い議論を交わすことができました。個々に対応させていただいた選手の皆様からは私にとってかけがえのない経験と知識を与えていただきました。そして何よりもオリンピックでの活躍、という宝を私たちにもたらしてくれました。今振り返ってみても、夢の中にいたような、すばらしい日々であったと思います。
JISSではそうした実践活動とは別に、私が今でも継続して行っている「リラクセーショントレーニングの効果に関する研究」について基礎的な知見を得ることができました。プロジェクト研究では心理の研究者だけでなく、生理・生化学、バイオメカニクス、栄養、ストレングストレーニングと、様々な分野の専門家たちとともに研究を行いました。これらの貴重な経験は、現在の私の研究・教育の根幹として私を支えてくれています。
JISSの仕事で心に残っているもの(大変だったこと)
JISSに勤めていて大変だったこと、といいますと、実際のところはそんなにたくさん思い浮かびません。しいて言うならば、JISSのみならず、日本の競技関連・学術関連の多くの方々から大きな期待をかけていただいた、そのプレッシャーでしょうか。

たとえば私たちは「日本スポーツ心理学会」をはじめとする様々な学会とかかわって仕事をしていましたし、今でもそうです。こうしたところでは多くの先達の先生方から叱咤激励をいただきました。当時は特にシステムづくりが急務であり、どのように学会関連の先生方に協力いただいて仕事を進めていくか、ということに多くの研究者の方の関心が集まっていました。これは現在でもJISSスポーツ心理グループの課題として残っているように思います。今となっては逆にJISSを外部から眺めるようになり、何かお役にたてることはないものかと日々探索している感じがします。

個々の業務で大変だったことと言いますと、これは一番の思い出でもあるのですが、契約最終年に行った、オリンピック直前合宿でのサポートはとても印象的に残っています。オリンピックの現地にほど近い海外の合宿地を訪れて、選手たちの心理サポートを担当しました。私と栄養サポート担当の柳沢香絵さん(現相模女子大学)と競技団体の科学スタッフの伊藤穣さん(現ナショナルトレーニングセンター)でサポートを行いました。私は夜になって選手が少しゆったりしたころに宿のレストランの一角に「即席カウンセリングルーム」を作って、選手のお話を伺うという仕事をしていました。しかしこれは私が考えていた以上にしんどい作業で、終わった後に部屋でばったりと倒れるように朝まで眠ってしまったこともありました。でも、その時救いだったのは、JISSで長年にわたってそのチームにかかわらせていただき、選手やコーチともよく見知り合っていたことと、先述の一緒にサポートに伺った科学スタッフとそうしたサポートの苦労を分かち合えたことでした。サポート実施上の様々な問題や悩みは一緒にサポートをしていた彼らと共有して、お互いの活動を支えたり、助言し合ったりしていました。こうして、サポートの分野を超えて互いに協力し合い、時には支えあうような関係はJISSのサポート体制ならではのことでしたし、なかなか実現しようと思ってもできることではないと思います。
JISSの仕事で心に残っているもの(今の自分の活動に活かされていること)
自分のためになったことでは、業務内容のところでも触れましたが、どれか一つ、というよりもJISSの活動すべてが今の研究・教育という私の仕事の根幹となっています。いうならば、今の生業の糧になりました。それはサポート・研究という業務だけでなく、組織というものそのものへの理解やコンプライアンス、人間関係といった、社会的な知識もすべてJISSで得たといっても過言ではありません。JISSで働く、ということは国民の血税を使って、世の中の皆様に役立つことが最終的には求められると思います。日々の業務の中で常にそれを意識するわけではないのですが、それでもふとした時に「襟元を正さねば」という気持ちになったものです。

私は大学院後期課程の満期を迎えてすぐにタイミングが合ってJISSに入れていただきました。研究者の端くれとして走り出したその最初の職場で、同年代の、しかも様々な分野のスポーツ科学の研究者たちと知り合えたことは、本当に素晴らしい財産になっています。今でも当時共に働き、悩み、時には杯を交わした彼らとは、再会のたびに当時を懐かしく思い出したり、今のJISSはどうしているか、といったことを話し合ったりしています。時には私の大学に来ていただいて講演をしていただいたり、というつながりを持つこともあります。大阪体育大学に勤めて間もなくの時に大学主催のシンポジウムを開催した折には、浅見俊雄初代センター長にわざわざ来阪いただいて、特別講演をしていただきました。とても高名でなかなかお呼びできない方でしたので、主催者など周囲の皆様にも喜んでいただけたのですが、その時私がご依頼のお電話を差し上げたとき浅見先生は、「他ならぬ菅生さんのお願いならば」などと冗談でおっしゃって下さいました。私にとっては忘れられないご縁です。
JISS,日本スポーツ振興センターの仕事のやりがいは?
私が勤めていた当時は、(今もそうでしょうが)あまりにも多くの一流選手がJISSにいて、その中で本当にごく一部の選手にしかサポートができていないことをもどかしく思っていました。もっと多くの選手のサポートをする方法はないものかと自問していたものです。でも、今にして振り返れば、私が出会った個々の選手たちに行ってきた心理サポートという仕事は、こんなにやりがいのある仕事はないな、と思います。私がかかわった選手の皆さんはその後も様々に人生を生きていらっしゃいます。コーチなどの指導者として後進の指導に当たられたり、進学、結婚など、新たな道に進まれた方もいらっしゃいます。そうした方々の人生のごく一部ですが非常に重要で重厚な時期を共に過ごさせていただいたということは、本当に光栄なことです。彼らの人生に、私とかかわったことが少しでもプラスになっていたら、と願う次第ですが、私としては本当に誠心誠意、関わっていったつもりです。

私がJISSを退職して数年になりますが、中には現役選手として競技を続けている方もいらっしゃいます。ジュニアのころからかかわっていたチームがその後シニアの世界選手権で団体金メダルを取って、まだ私を興奮させてくれたりすることもあります。これからは私がかかわった選手の皆さんが指導者となり、その次の世代の選手に期待の目を注ぐことができるでしょう。JISSで勤めている間に願っていた大勢のサポートをするということよりも、数は少なくても個々の選手と深くかかわって、遠い空から喜びを共有できる、ということがJISSの最大のやりがいだと思います。JISSの研究員でなかったらここまで個人の選手に深くかかわることは難しかろうと思います。

私は競技力向上のためのスポーツ科学を志す人には、ぜひともJISSで働くことをお勧めします。教科書で学んだり、体験談を聞くということで得られる知識とはまた違った意味で心に響くこと間違いなしです。その責任の重さを差し引いても、JISSは本当に魅力ある職場であり、私の指導する学生・院生なども将来的には、JISS研究員の職務にチャレンジをしてほしいと考えています。

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